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僕はその光景を目にしたとき一瞬呆けた。
数日前に目にした昆虫めいたグロテスクな怪物と相対すると信じていたのにそれは人の形、それも飛び切り美しい姿をしていた。
長いくせのない髪を背に垂らし一糸まとわぬその素肌はただなめらかで。星をいだいた碧い瞳でまっすぐに僕を見ていた。
なんで?
あのグロテスクな怪物なら嫌悪感とともに攻撃することに何のためらいもなかっただろう。
だけれど、目の前にいる存在はただ美しかった。
そんな美しい少女たちが空でひしめいていた。どれほどいるのかわからない。
「ためらうな、あれは敵だ」
怒号が聞こえた。そして他の航空隊はその少女たちの群れに向かって突っ込んでいった。
ざくう一人の少女が切り裂かれる様はとてもゆっくりに感じられた。
右肩から左の腰に向かって切り裂かれた。そしてぱっくり開いたその胸元から下腹からどろどろと内臓が零れ落ちてくる。
それはまさに生き物の内臓そのものだった。
人間の内臓は見たことは無い。だけど豚を捌いているのは見たことがある。それそっくりの腸をぶらぶらとさせてなお少女は羽ばたいている。
あの傷でまだ生きている。どれほど人間そっくりでもあの少女は人間ではないのだ。
「ためらうな、ためらったら死ぬぞ」
そう叱咤する声がした。
ああ、ままよ。
僕は閉じようとする目を必死に開いて少女の群れに突っ込んでいった。
翼に当たる感触。腕を斬り飛ばされた少女が虚ろに微笑んでいた。
先ほどはらわたをはみ出していた少女も苦痛の色を見せなかった。
僕はただ翼を旋回して少女の周りを飛び回った。そのたびに切られた少女の肉体が散らばる。
「とにかく殺し続けろ、決してあいつらに隙を見せるな」
そう叫ぶ声。
これは殺戮の舞台。翼ある少女たちを一方的の僕たちは切り刻んでいった。
指を硬直しているが。それでもやるしかない。
「ファルコン、下がれ砲が来る」
僕はそのまま他の飛行隊と一緒に下がっていった。
終わったのかな。
砲が来た。
太陽が至近距離に来たような気がした。しばらく目がしばしばして目を閉じても白い残像が見えた。
「終わりだ、すべて焼き尽くされた」
ありがとうミランダさん。
砲手である奥様に俺は感謝の祈りをささげた。
「まだ地上の方は終わっていない。しばらく待ってから降りるぞ」
そう言われて俺は暫く浮いていた。
そして、俺は漸く地上に降りてきた。そして俺は地面に足をつけた瞬間はいた。
そして俺は胃の痙攣が収まるまで呻き続けた
「最初から人型はやっぱりきつかったか」
そんな言葉が僕の耳に入った。
「大丈夫?」
マリアが俺に寄ってきた。
「いつも違うのか?」
「いつもいろいろだよ、違うことが多いね」
マリアはいつものことだという顔だ。
僕は吐いたものに土をかけながら呟く。
「何故だろう」