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希望の日々が始まるはずだった

この街はごく平凡な港街だった。

 両脇を巨大な奇岩で囲われた風や波から守られた奇麗な海を望む港のすぐ側は商業を生業とする人達の住居とそれに関する倉庫と店舗とそうしたにぎやかな場所があり、海から離れ山沿いに向かうほどのどかな田園風景が広がっている。

 そんなどこにでもある地方都市で僕は暮らすことになった。

 平凡ではあるが美しい街での暮らしに僕はとても希望を抱いていた。

 抱いていた、過去形だ。

 どんな街にでもいる、通りすがりの人にお小遣いを要求する理不尽な人たちがいた。

 はち切れんばかりの筋肉をこれ見よがしにさらし、その身長は僕より頭半分高い。

 短く切った赤い髪は硬い性質なのかつんつんととがっている。やや吊り目君の三白眼が危険な色を帯びていた。

 そしてその背後にもう一人、こちらは黒髪を長く伸ばし背中で結わえている。ちょっと色男めいた垂れ目を裏切る左頬に向こう傷がある。

 僕は運動神経普通、そして体格貧弱、どう考えても勝ち目はないが今持っている金を渡してしまえば明日から水だけでしのがねばならない。

 3日食べないくらいなら水さえあれば死なないかもしれないが辛い。ここでぼこぼこにされるのとどっちがましだろう。

 僕が苦悩していると唐突に地鳴りがした。

 まさかこの状況で地震まで? どこまで踏んだり蹴ったりなんだ?

 僕が己のどこまでも続く不運を嘆いていたが、次の瞬間思考停止した。

 僕の目に映ったのは人ならざる不形態の存在。

 まるでゲジゲジのようなものがいたが、ゲジゲジはそんなの大きくない。

 僕は今まで犬より大きいゲジゲジなんて見たことは無い。

「おい、お前あれに触るな」

 さっきまで僕にお金を要求していた男たちがまるで僕をかばうように巨大な節足動物の前に出る。

 そして二人は大きく手を広げた。

 二人がお揃いのブレスレットをつけていたのが見えた。どういう関係なんだろうと思ったときそのブレスレットが光った。

 思わず両手で目を覆う。そして、甲冑を着た二人の男がいた。

 体格からしてさっきの二人だろうけれど、頭部を覆う兜でその容貌は全く見えない。

 そして確かにさっきまでは持っていなかった長い槍を振り回しゲジゲジを叩き潰す。

 世にも汚らしい音を立てて潰れるゲジゲジそしてその内容物の色と匂いに吐きそうになる。

「おい、君、こっちだ」

 いつの間にか鎧をまとった人たちがさらに寄ってきた。

 そして俺の腕をつかんで適当な建物に放り込んだ。

 力任せに放り込まれた僕はその辺にあった家具にぶつかって盛大にひっくり返った。

 よろよろと立ちあがるとじくじく痛む右腕を見た。

 掴まれた場所が痣になっている。

 僕は窓に張り付いて外を見た。

 ゲジゲジだけじゃない、透き通る美しい羽根を持つ世にもグロテスクな胴を持つ不気味な虫が飛び交っていた。

 そしてその巨大な蟲たちを駆除していく鎧を着た謎の男たち。

 僕がのぞきこんでいたガラス窓にわけのわからない虫が突っ込んできた。

 ガラス窓を突き破ってくるのを予測して僕は両手で顔を覆う。

 しかしガラス窓はびくともしない。

 轟音とともに地震のように地面が揺れた。

 僕はたたらを踏んでようやく踏みとどまった。

 この建物の反対側ならたぶん海が見えたと思う。うろ覚えの道順を思い出しながら僕は反対側を目指す。

 港は陸から張り出した巨大な崖に守られるような形をしていた。そのまるで港を包み込むような形をした崖から砲台が飛び出していた。

 そして、崖の大きさからするとあの蟲の大きさはたぶんちょっとした屋根くらいありそうなそれを砲台は次々と撃ち落としていた。


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