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【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする  作者: 風の吹くまま気の向くまま
Ⅳ. すれ違う想い
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53. 握手


第017日―3



『私と共に、悠久の時をこの世界で過ごしてみぬか? と」



ローブの下から、あの時見たのと変わらず、流れるように美しい黒髪が(こぼ)れ出た。

ハーミルが驚きで息を飲む中、『彼女』はローブを脱ぎ去った。


「貴女と同じく、カケルを愛する私が、そして力を継承させた当の本人が、どうしてカケルの力を利用しよう等と思うだろうか?」


あの時と変わらぬ美しい顔で、『サツキ』は優しく微笑んだ。

ややあって、ハーミルはようやく落ち着いて、目の前の相手をもう一度確認した。


「あなたは、本当にあの時の“サツキ”なの?」

「必要ならば、あの日あの時の詳細を、もう一度お互い確認し合っても良いぞ? 別れ際、貴女を仰天させてしまったあの秘め事に関しても」


そう言うと、サツキは悪戯っぽく笑った。


「私が、カケルの中にいたのを知っていたのね?」

「いかにも。貴女がカケルの中にいたのを知っていてこその今の話だ」

「色々聞きたい事はあるけれど、一つだけ教えて。もしあなたが本当にカケルの力になりたいなら、どうしてカケルの傍にいないの? カケルに力を継承させた後、あなたが傍にいて、直接色々手助けすれば、彼はもっと楽に自分の力と向き合えたはず。今からでも遅くは無いわ。こんな回りくどいやり方は止めて、彼と共にいるべきよ」


ハーミルの言葉をサツキは静かに聞いていた。

しばしの沈黙の後、サツキは口を開いた。


「貴女らしい言葉だ。しかし、折角(せっかく)遠くから見ているだけの恋のライバルを、敢えて同じ土俵に引き上げるか?」

「そ、それは……」

「ふふふ、ちょっと虐めてしまったな。心配するな。私はカケルの前に現れるつもりはない。彼と口付をかわした時、彼が私とあの時出会うまでの記憶が私に流れ込んできた。そして彼ならば、私が直接彼と共にいなくとも、自らの力と意思で、運命を切り開けると分かったのだ」

「記憶が……だからイクタスさんはタイミング良く現れて、私達を手助けしてくれたのね?」

「そうだ。しかしイクタスですら知っているのはほんの一部のみ。私とカケルとの本当の心の繋がりに関しては、貴女も含めて誰にも明かせぬ。私だけの宝だ」


サツキは話し終えると満足そうに笑みを浮かべた。

ハーミルがサツキに言葉を返した。


「……分かったわ。一緒にカケルを支えましょう。(ただ)し結社イクタスの一員としてでは無く、あなた個人との対等な同盟者と言う形でどうかしら? 他のメンバーの事はよく分からないけれど、少なくとも、あなたがカケルを傷つける事はあり得ないと信じられるから」


ハーミルが右手を差し出し、サツキがその手を握った。


その後サツキは、イクタスとミーシアも部屋に招き入れ、今後について協議した。

まず、ハーミルは結社イクタスの存在を、カケル自身が気付くまでは、彼を含めて誰にも教えない事、カケル自身がそれを望むまでは、魔王エンリルの討伐は勇者達に任せる事、等が申し合わされた。

また、各地にいる結社のメンバー達――総計10名程――が、ハーミルに紹介された。


「彼等はいずれも高い志と能力を兼ね備えている。困った時には、頼って間違いの無い者達だ」


そう話すと、サツキはハーミルに、片耳に装着するピアスのような物を手渡した。


「これは?」

「霊晶石で出来た、念話を通ずる道具だ。耳に装着し、それを触りながら会話をしたい相手を念ずれば、いかに遠距離にいようとも、お互い連絡が取れる」

「すごいね」

「ハーミル用に調整してあるから、他人が拾っても使えぬが、()くすなよ?」


そのピアスのような装置を右耳に装着したハーミルは、早速、目の前のサツキに念話を送ってみた。

それに対して、サツキは口を動かすことなく、おどけた口調で念話を返してきた。


『ふふふ、目の前の相手に念話を送るなど、貴女がこれほど人見知りとは思わなかったぞ?』


ハーミルの知る限り、こうした念話による連絡手段は、高位の魔法を以ってしても難しかったはず。

ハーミルは改めて、霊力の威力に感心した。



「あと、ここ、本部へ来る方法だが……」


サツキが話し始めると、ハーミルが不思議そうな顔になった。


「来る方法も何も、ここって、さっきの古民家なんでしょ? 空間魔法か何かがかかっていて、招かれざる客は入れないとか?」


サツキはニヤリと笑った。


「では試しに、その玄関の扉を開けてみろ」


促されるままハーミルが扉を開けると、戸外には、見たことも無い砂漠の街の風景が広がっていた。


「ど、どうなっているの? ここ、帝都にあるのよね?」


ハーミルが慌てて扉を閉めて、もう一度開けると……

今度は、見知らぬ海辺の港町が広がっていた。

混乱するハーミルに、サツキに代わって、ミーシアが苦笑しながら説明してくれた。


「この場所、実は霊晶石で構成されていて、現実の世界とは切り離された領域にあるの。来るためには、その耳のピアスを触りながら、ここの情景を心に思い浮かべて、街や村にある、特定の古民家の扉を開ける必要があるわ」

「帰る時は?」

「帰る時はこっちで調整するから安心して」


と言う事は、さっき知らない街に戸外が繋がったのは、サツキの悪戯(いたずら)だったらしい。

ハーミルが、サツキを軽く睨んだ。

サツキがおどけた雰囲気で言葉を返した。


「なんだ、意外と頭が固いな」


次にハーミルが扉を開けると、見慣れた帝都の通りが広がっていた。


「これって、もしかして転移の魔法陣代わりに使える?」

「転移の魔法陣以上に、行ける場所多いわよ。でも緊急時以外は、ここを転移目的には使わないでね。秘密保持と、あと防衛上の問題が生じる可能性があるから」


ミーシアの言葉に、ハーミルは(うなず)いた。


さらに二三、今後の連絡の頻度等を話し合った後、ハーミルは、サツキ、イクタス、そしてミーシアらに見送られ、結社の本部を後にした。


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