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【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする  作者: 風の吹くまま気の向くまま
Ⅳ. すれ違う想い
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49. 決意


第016日―11



「カケル! 皆もよくぞ無事で!!」


北の塔最上階では、若干涙ぐんだノルン様が僕達を出迎えてくれた。

しかし皆が改めて無事の帰還を喜び合う中、ハーミルだけが不機嫌そうな顔のまま押し黙っている。

ここへ帰還した瞬間、彼女との意識の繋がりは切れたけれど、彼女が怒っているのは傍目(はため)にも明らかだった。

僕がハーミルに掛ける言葉を探そうとするより早く、イクタスさんと一緒に近付いて来たノルン様が、そっと囁いてきた。


「ハーミルは、そなたが守護者と話をすると言い出したあたりから、全く向こうの様子を中継してくれなくなったのだ。何かあったのか?」

「ちょっと怒らせてしまったみたいで……」


そう前置きしてから、僕はサツキとの顛末について、ノルン様とイクタスさんに簡単に説明した。


「嫉妬じゃな」

「嫉妬ですね」


イクタスさんとノルン様が、勝手に何かを納得して(うなず)き合うのを横目に、僕はハーミルに声を掛けた。


「ハーミル、ごめんね」


ハーミルは僕の顔をちらりと見た後、()ねたようにそっぽを向きながら言葉を返してきた。


「……カケルは、これからどうするつもり?」

「どうするって?」

「だから冒険者を続けるとか、その……剣術教室、とか……」


ハーミルの言葉は、途中から何故かしどろもどろになってしまった。

しかし僕は、彼女の言葉を受けて、改めて自分が何をしたいのか、自身に問い直してみた。


そして……


「僕は、自分に与えられたこの力について、もっときちんと調べてみたい」


僕の答えを聞いたハーミルが、一瞬きょとんとした顔になった。


「まだ全然使いこなせてないけれど、きっと何か理由があって、この力を継承したに違いないと思うから」


僕にこの力を継承させたという守護者は、あの『彼女(サツキ)』で間違いないはずだ。

だけど彼女はいつ、どこで、なぜ僕にこの力を継承させたのだろうか?

使い方によっては、文字通り、神にも悪魔にもなれそうな危険な力。

僕には、この力についてちゃんと知る権利と義務があるはずだ。

そう言えば、僕に力を継承させた後のサツキはどうなったのだろうか?

最初に守護者の話を教えてくれたイクタスさんなら、何か知っているのではないだろうか?


僕はイクタスさんの姿を目で探してみた。

彼は少し向こうで、アレルやナイアさん達と談笑している。


まあ、後で機会を見つけて、ゆっくり聞けばいいかな。

幸い、イクタスさんが住んでいる場所――アルザスの魔法屋――も知っている事だし。


そんな事を考えていると、ハーミルが声を掛けてきた。


「私がそれを手伝うって言ったら……どうする?」


彼女の眼差しは真剣そのものだった。

だから僕も、自分の素直な気持ちを彼女に伝えてみた。


「もちろん、ハーミルが手伝ってくれるなら、大歓迎だよ」


僕の言葉を聞いた彼女は軽く(うなず)くと、やおらノルン様の方に向き直り、臣礼を取った。

いつもと様子の異なるハーミルの行動に、ノルン様が若干戸惑った雰囲気になった。


「ハーミル、これは何事だ!?」


しかし、ハーミルはそんなノルン様を気にする風もなく、言葉を返した。


「私はこれより、カケルの望みを(かな)えるために、彼の行く所、どこまでも付き従う所存です。つきましては、私が家を空ける際、父を帝国の庇護の(もと)、介護して頂けないでしょうか?」


ハーミルのその唐突な嘆願に虚を突かれた感じだったノルン様は、しかしすぐに、にっこり微笑んだ。


「私とおぬしの仲だ、否は無い。おぬしの父は私の名に懸けて、帝国が責任を持って世話をさせて貰おう。おぬしのその想い、私は応援するぞ」

「え? え?」


突然の展開に、全くついていけない僕が目を白黒させている所へ、ナイアさんがニヤニヤしながら近付いて来た。


「へ~。ハーミルにもようやく春が来たってわけだ。それにしても、こんな男のどこが良いんだろ?」

「ちょ、ちょっと! 何言ってんのよ!?」

「勇者ナイアよ、あまりハーミルをいじめてやるな。ああ見えて、あやつは一途だからな。大方、サツキとやらにあてられたのであろう」


ノルン様が(うなず)きながら、見てきたかのように推測を述べた。


「カケル! この二人は、こうやって昔から話を混ぜっ返すのが大好きだから、話半分に聞いといてね!」


幼馴染の三人の会話を、苦笑交じりに見守っていた僕は、ふと視線を感じてその源を探ってみた。

その視線は、僕から少し離れた場所に、一人でぽつんと立っているメイから向けられているものであった。

心なしか、彼女の表情が硬い。

その表情の硬さの理由、今の僕にはいくつか思い当たる(ふし)があるけれど……


僕が努めて明るい雰囲気を作りつつ、メイの方に歩み寄ろうとしたタイミングで、イクタスさんの声が聞こえた。


「さて、そろそろここから移動せぬか?」


イクタスさんは、僕達全員に視線を向けながら言葉を続けた。


「夜も遅い。ここで野営という手もあるが、ここは元々、モンスター達が巣食っていた場所じゃ。どうせなら今夜は帝都に戻って、ゆっくり休んではどうじゃ?」


アレルがイクタスさんに問い掛けた。


「もしかして、イクタス殿がまた転位の魔法でお送り下さるのでしょうか?」

「アレルよ、転位の魔法陣はここには無い。一から構築すると時間もかかる。それよりも……」


そう口にしつつ、イクタスさんが僕の方を見た。

彼の言葉を引き継ぐ形で、ナイアさんが口を開いた。


「そうだねぇ。サツキちゃんだったっけ? カケルはあの女守護者の手を握りしめて、ヴィンダからアルザスまで、一瞬で愛の逃避行しちゃった実績があったねぇ」

「ちょ、ちょっと!?」


慌てて抗議の声を上げようとした僕に、皆の視線が一斉に集まった。

僕はちらっとハーミルの様子を確認してみた。

彼女の視線は氷のように冷たくなっていた。

あれは確実に、ナイアさんの確信犯的な言葉で、余計な事を思い出してしまっている目だ。


僕はナイアさんを軽く(にら)んでから言葉を返した。


「え~と、出来るかどうか分からないんですが、やるだけやってみますね」


僕は懐に収めてある、あの紫の結晶を握り締めながら、目を瞑って意識を集中した。

すぐに紫の結晶から、膨大な量の霊力が僕に向かって流れ込んでくるのが感じられた。

僕は心の中で、帝都にあるハーミルの家を思い浮かべた。

その瞬間、軽い眩暈のようなものを感じた僕は、慌てて目を開けた。

すると……


「あれ?」


僕だけが、ハーミルの家の前に立っていた。



「す、すみません」


再び霊力による転移で北の塔に戻って来た僕は、皆に頭を下げた。


「今、何が起こったのだ? カケルの姿がぼんやり発光したと思ったら消えて、また現れたが……?」


不思議がるノルン様に、僕は帝都のハーミルの家まで転移して、戻って来た事を説明した。

もしかして、サツキと一緒にアルザス郊外に転移した時と同じで、皆の手を取らないと、一緒には転移出来ないのかもしれない。


そんな事を考えていると、アレルが声を掛けてきた。


「カケル、400年前の世界と行き来したように、帝都まで門を作ったりは出来ないのかな?」


その言葉に(うなず)いた僕は、再び目を閉じた。

そして紫の結晶を握りしめ、今度は意識の底に光球を探してみた。

目を開けると、今度は目の前に光球が顕現していた。

僕はハーミルの家を思い浮かべながら、その光球に右手を伸ばした。

僕の右手が触れた瞬間、光球は一瞬にして、不思議な揺らめきに縁取られた黒い穴へと姿を変えた。


ナイアさんが、不信感丸出しで問い掛けてきた。


「一応確認するけど、穴の向こうが雲の上、とかそういう面白い冗談、今はいらないからね」

「大丈夫だとは思いますけど……なんなら、僕が行って確かめて来ましょうか?」

「わ、私は一緒に行くわ。カケルに付いていくって決めたんだから」


やっぱりハーミルは僕を信じてくれている。

そう思ったけれど、傍に立つ彼女の様子を確認すると、真一文字に口を引き結び、余裕の無い表情をしていた。

僕は思わず苦笑した。


「ハーミル、君もちょっとここで待っていて。確認したらすぐ戻ってくるから」

「大丈夫! 既に覚悟は決まっているわ」


帝都に戻るだけなのに、何の覚悟が必要かは今一つ不明だったけれど、僕はハーミルの手を取り、黒い穴へと足を踏み入れた。



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