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【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする  作者: 風の吹くまま気の向くまま
Ⅲ. ついに巡り合う二人
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46.逢引


第016日―8



街の入り口では、やはり衛兵達による身分証のチェックが行われていた。

彼等は、僕達の身分証の発行元であるナレタニア帝国――まあ、サツキのは正確には偽造? だけど――について、いくつか質問してきた。

しかし身分証としての書式には問題無かったらしく、ナレタニア帝国とは、遠方の小国である、という僕の苦しい言い訳に、何とか納得してもらう事が出来た。


街の名前は、400年前もアルザスのままであった。

しかし街の(たたず)まいは、僕の知るそれとは、やはり大きく違っていた。

『彼女』改めサツキは、街を訪れるのが本当に初めてらしく、やや興奮した様子で、辺りをキョロキョロ見回している。

そんな彼女を見ていると、僕の方まで自然に口元が(ほころ)んできた。


「カケルよ、四足の獣が巨大な何かを引っ張っておるぞ?」

「あれは馬車と言って、中に人が乗っている箱みたいなのを、馬が引っ張る乗り物だよ」

「何か用途不明の品々がずらりと並べられておる場所もあるな」

「あれは雑貨屋さんだよ。色々小物が置いてあるんだ。覗いてみる?」

「あそこの木陰で、男女が口を付けあっておるぞ? 何かの儀式か?」

「あれは恋人同士がキスをして……ってな、何説明させるんだよ!?」


狼狽する僕に少し不思議そうな視線を向けた後、サツキはさらによく確認するためか、木陰で寄り添うカップルの方へ、無遠慮に近付こうとした。

僕は慌てて彼女の腕を掴んだ。


「むっ? どうして邪魔をする?」

「ああいう恋人同士のイベントっていうのは、見て見ぬふりをするのがエチケットというか……」

「こいびとどうし、とは何だ?」

「いや、だからお互いを好きな男女の事で……」


サツキは好奇心丸出しで僕に説明を求めて来るけれど、これ、見方を変えれば、完全に罰ゲーム状態だ。

途中ですっかりドギマギしてしまった僕は、適当に説明を切り上げて、その場を立ち去ろうとして……


ふいに背後から声を掛けられた。


「ようよう、にいちゃん、昼間っからいちゃついちゃって羨ましいね~」

「オレ達も“こいびとどうし”の会話に混ぜてくれよ」

「おっ! このねえちゃん、すげえ美人だな」


振り返ると、いかにもお約束な感じのチンピラ三人組が、下卑(げび)た笑いを見せて立っていた。

サツキが怪訝そうな顔でチンピラ達に声を掛けた。


「お前達は何だ?」

「お前達って言われちゃったよ」

「気の強い美人って最高じゃん」

「ねえちゃん、そんなガキほっといて、オレ達と楽しい事しちゃおうぜ?」


ニヤニヤ笑いながら、三人の一人が、サツキの腕を掴もうと手を伸ばし……

その手が、あり得ない方向に捻じ曲がった。

どうやらサツキが何かをしたらしい。


「ギャアアア!?」


そのチンピラは悲鳴を上げて()()った。


「野郎、舐めやがって!」


仲間のチンピラ達は、懐からバタフライナイフみたいなのを取り出した。

危険を感じた僕は、咄嗟(とっさ)に声を上げた。


「それ以上はダメだ!」


チンピラの一人が、僕に(すご)んできた。


「そう言われて、はいそうですかってなる訳ねえだろ!?」

「いえ、あなた達じゃ無くて、彼女に言ったんですが」

「はぁ?」


このままだと間違いなく、このチンピラたちのミンチが出来上がる。

危険を感じた僕は、サツキの手を強引に引っ張って走り出した。

後ろから怒号がしばらく追いかけてきていたけれど、なんとか人混みに(まぎ)れて、彼等を振り切る事に成功した。


サツキが抗議してきた。


「カケル、何故逃げる?」

「あそこにいたら、腕一本で済まなくなるでしょ?」

「あいつらの言動は若干不可解なところがあったが、総じて不快であった。ならば殺してしまった方が、手っ取り早かったのに」

「だからダメだって。いいか? 人間は簡単に人間を殺しちゃダメなんだ」

「むっ? 私は人間では無いぞ?」


まあ、守護者だしね。

確かに人間じゃない。


「それでも、今は人間としてこの街に入ったんだから、ダメだ」

「何か色々納得はいかんが、カケルがそう言うのなら、そのルールに従おう」


僕はほっとすると同時に、お腹が空いている事に気が付いた。

そう言えば、審判騒ぎで昼ご飯を食べていない。

丁度すぐ傍に、素朴な食堂がある。

僕はサツキに声を掛けた。


「お腹空いてない? 何か食べようか?」

「たべる、とは?」

「もしかして、食べたりしなくても大丈夫とか? 口に食べ物を入れて、こう噛んで飲み込む」


身振り手振りを踏まえて説明しながら、僕は少し吹いてしまった。

彼方(かなた)の地』がどんな場所かは分からないけれど、この世界では彼女はまるで赤ん坊だ。


「むっ? また笑う」


少しむくれる彼女を(うなが)して、僕達はその食堂に入って行った。


時間帯がお昼時を少し過ぎているせいか、そう広くない店内に、客は僕とサツキだけであった。

店主と思われる初老の男性が、僕達をテーブル席に案内してくれた。

この時間帯は、どうやら彼が一人でこの店を切り盛りしているようであった。

僕が適当に二人分の料理を注文すると、その男性は(うなず)いて厨房に引っ込んで行った。

サツキは物珍しそうに店内を眺めている。


「『彼方(かなた)の地』では、何か食べたり飲んだりしないの?」


サツキが小首を(かし)げた。


「う~ん? そもそも何かを食べたり飲んだりしたいと思った事自体が無い」


もしかすると、守護者は元々、霊力とやらがあれば、飲食不要なのかもしれない。

あれ? 

だとすると、守護者の力を継承させられたとかいう自分が、普通にお腹空いたりするのは何故だろう?

守護者の力なるものを中途半端にしか使えない事と、何か関係あるのだろうか?


そんな事を考えていると、突然食堂の扉が勢いよく開かれ、一人の若い男性が店内に飛び込んできた。


「おやっさん、大変だ! ミルムちゃんがっ!」


その言葉に、厨房から先程の初老の男性が飛び出してきた。

店内にいる僕達に気付いたらしいその若い男性は、初老の男性と共に厨房の奥に引っ込み、ぼそぼそ何かを話し出した。


数分後、初老の男性が険しい表情で厨房から出てきた。


「お客さん、すまないね。ちょっと事情があって、臨時休業させてくれ」

「何があったんですか?」

「……お客さん、冒険者かい?」

「一応、冒険者ですよ。」

「孫娘を……ああ、何でもない、気にしないでくれ」


仕方なく、僕達は店を出た。


「ミルムって子に何かあったのかな?」


店に飛び込んできた若い男性は、ミルムちゃんが! とか叫んでいた。

状況から類推するに、あの初老の男性の孫娘がミルムという名前なのだろう。


サツキが不思議そうな顔になった。


「カケルには聞こえなかったのか?」

「何の話?」

「奥で二人の男が、ミルムって子供がモンスターに(さら)われた、と話しておったぞ?」

「そうなんだ。あんな小さな声が聞こえるなんて、凄いね」


僕は素直に感心した。


「なあに、霊力を展開すれば造作もない事だ。ついでに、そのミルムって子供の(さら)われた先も分かるぞ」

「えっ?」

「この街の近くに、古い遺跡のような場所がある。そこに大勢の子供と共に捕らわれているようだ」

「それも霊力で分かるの?」

「お前も霊力を使えば良いのに。もしや、何かの制限がかかっているのか?」


サツキが不思議そうな表情のまま、僕の顔を(のぞ)き込んできた。

彼女の美しい顔を唐突に近付けられた形になった僕の心拍数が、一気に跳ね上がった。


「どうした? 顔が赤いぞ?」

「いや、ちょっと暑いな~今日は」


僕は平静さを装いながら、サツキから目を逸らした。

サツキはしばらく僕に探るような視線を向けてきた後、ふいに口元を(ほころ)ばせた。


成程(なるほど)、照れている、という事だな? 人間の感情は中々(なかなか)興味深い」


もしかして、霊力で分析したのだろうか?

僕は慌てて話題の軌道修正を試みた。


「じゃあさ、ミルムって子を助けに行こうよ」


僕の提案を聞いたサツキがキョトンとした。


「助けに? 何のために?」

「助ければ、さっきの食堂のおじさんも喜ぶと思うよ」


僕も少しは霊力を操れるようになっているし、サツキが手伝ってくれるなら、大抵の敵はなんとでもなりそうだ。

それより何より、誰かが危険に(さら)されているって知らされて、何とか出来そうなのに何もしなかったら、後で絶対後悔する。


サツキはしばらく考える素振りを見せた後、口を開いた。


「カケルは、人間は人間を殺してはダメと言っていたな。だから、他の人間が殺されそうな時はそれを阻止すると言う事だな?」


正確には、人間同士、醜い争いで殺し合いもしてしまうけれど……


「そうだよ。だから助けに行こう。案内してもらえる?」



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