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【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする  作者: 風の吹くまま気の向くまま
Ⅲ. ついに巡り合う二人
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44.蹂躙


第016日―6



大地を(えぐ)り、彼方の丘を吹き飛ばした『彼女』の力を目の当たりにした三人の勇者達の背筋を、戦慄が駆け抜けた。


「嘘だろおい……」

「ともかく、出し惜しみは無しだね」

「勇者としての最強をもって、彼女に相対(あいたい)そう」


ダイスは聖弓に魔力を送り込み、聖具としてのその力を開放した。

聖弓が金色に輝き、そこに、全てを貫き破壊する絶対不可避の矢が出現した。

ナイアは懐のタリスマンを握りしめ、残り全ての使い魔達を呼び出した。

彼女自身の魔力により、極限まで強化された使い魔達が咆哮を上げる。

アレルも自身の聖剣に魔力を送り込んだ。

聖剣は銀色の輝きを放ち、全てを打ち砕く用意を整えた。

エリスも槍を構え、イリアとウムサも三人の勇者の援護のため、詠唱を開始した。

『彼女』は、彼等の様子をただ、物憂げに眺めている。

そして、『彼女』への逆襲が試みられた。

凄まじい大魔法が『彼女』を直撃し、絶対不可避の光の矢が『彼女』を貫き、三十体を超える使い魔達の群れが『彼女』を蹂躙し、聖剣が『彼女』をその存在ごと打ち砕き……


しかし『彼女』は、それら凄まじい攻撃全てを、ただ、顔の前にかざした右の手の平のみで受け止めた。




僕は『彼女』の周囲に、霊力の障壁(シールド)が展開されているのを見た。

そしてそれが僕以外の皆には不可視であり、いかなる攻撃も、その障壁(シールド)を打ち破る事は不可能である事も瞬時に理解出来た。

『彼女』がまるでハエを払うかの如く、右手を振った。

その瞬間、彼女の周囲に展開していた障壁(シールド)そのものが、不可視の壁と化して、爆発的に周囲全てをなぎ倒した。

大魔法は霧散した。

ダイスさんの放った光の矢の雨は跡形もなく消滅した。

ナイアさんの使い魔達は、断末魔の悲鳴を上げる間も無く全滅した。

そして僕を除く六人――アレル、イリア、ウムサ、エリス、ダイス、ナイア――は、ボロ雑巾のように宙を舞い、血飛沫をあげながら地面に叩き付けられた。


圧倒的な“力”。

もはや戦いとも呼べない一方的な蹂躙。


僕はただ、呆然と成り行きを見守るしかなかった。

そんな中、『彼女』がゆっくりと、三人の勇者達に近付いていく。

その顔には、いかなる感情も見出す事が出来ない。


ナイアさんが、震える右の手の平を自身の身体に(かざ)すのが見えた。

治癒の魔法を発動しているのであろうか?

手の平が発光し、彼女の傷が徐々に癒えていく。

そして彼女は剣を杖代わりにして、よろめきながらも立ち上がった。

他の五人はまだ立ち上がれない。


「ば、化け物……」


そう呟いたナイアさんが、『彼女』を睨みつけた。


「あんた、一体何なんだい?」


しかし『彼女』はそれには答えず、ゆっくりと左手を高々と掲げた。

上空に黒く渦巻く霊力が、異常な密度で凝集されていく。

それは『余分な』勇者を消去する力。

放たれれば、その勇者はその名を奪われ、真の意味で消滅する!


と、ふいに僕は、『彼女』の(まと)う膨大な量の霊力が、僕の中へと流れ込んできているのを感じた。


今ならば、可能なのではないだろうか?


僕は目を閉じ、自身の意識の深淵に向かって降りて行き……


目の前に、光球が顕現していた。




『彼女』は自身の霊力に干渉する、(わず)かな乱れを感じ取った。

その源を確かめようと、『彼女』は左手を下ろし、乱れの方向に顔を向けてみた。

視線の先には、光球を顕現させた一人の少年が立っていた。

見覚えの無い“はず”の少年……しかし、自身と同じ“力”を有している?

能面のように無表情だった『彼女』の顔が、怪訝そうに歪んだ。




僕は、こちらを振り向いた『彼女』と目が合った。

その美しさに再び息を呑む。

『彼女』の顔には、(いずか)しげな表情が浮かんでいた。

その時、僕は『彼女』の顔に既視感(デジャブ)を覚えた。

かつて僕は、『彼女』に確かに会った事がある。

しかし、いつどこで、といった記憶は何故か曖昧模糊(あいまいもこ)としている。

それを確かめたくて、彼女に声をかけようとした矢先……


「お前は一体何者だ?」


『彼女』が先に口を開いた。


「何者って……僕の名前はカケル。一応、人間のつもりだけど」


答えてから僕は少し苦笑した。

塵からも復活できちゃうし、タイムトラベルまでこなしちゃうけど、一応人間のはず。


「人間が霊力を(あやつ)れるとは知らなかった」

「これには色々事情があって……君こそ名前は? 『彼方(かなた)の地』から来たの?」

「名前? そのようなものは無い。勿論(もちろん)、『彼方(かなた)の地』から来たのだが……霊力を操れるところを見ると、お前も『彼方(かなた)の地』から来たのか?」


僕は少し意外な印象を受けた。

先程まで、無表情で勇者達を殺そうとしていたはずの『彼女』と、今、普通に会話が成立している。


「残念ながら、『彼方(かなた)の地』へは行った事ないんだ。ところで、どうしてその……勇者達と戦うの?」


『彼女』は小首を(かし)げた。


「不思議な事を聞くのだな。呼ばれたからここへ来た。ならば、いつも通り処理をして帰るだけだ」

「呼ばれた?」

「『彼方の地』にて眠りについていた私をこの世界が呼んだ。だからここに来た。来た以上、処理が終わらねば帰れぬ」


それが当然の摂理であるかの如く、彼女は答えた。

僕は当惑した。

『彼女』にとって、この戦いは何か深い理由があるわけでは無く、単なる処理とやらにすぎないらしい。


僕の事を不思議そうに眺めていた『彼女』が何かを得心した雰囲気になった。


「そうか、お前も処理をしに来たという事だな?」

「え?」

「数百年に一度起こされてはこれを続けて、少々飽きが来ていたところだ。光球を顕現させ、この地にいるという事は、お前も処理をしに来ているのだろう? なら、邪魔はせぬ。その辺で終わるのを待っているとしよう。どのみち、処理が終わるまで『彼方(かなた)の地』には戻れぬ」


そう言い放つと、『彼女』は勇者達をそのままに、背を向けてスタスタと歩き出した。


と、その背中に向けて、様子を(うかが)っていたらしいナイアさんが剣を抜き放ち、音も無く切り掛かった。

今、『彼女』は霊力の障壁(シールド)を展開していない。

つまりこのままだと、ナイアさんの剣が、『彼女』に……!


何故か身体が自然に動いていた。



―――キン!



甲高い金属音を残して、ナイアさんの剣は、咄嗟に『彼女』とナイアさんとの間に飛び込んだ僕が展開した霊力の盾に弾かれた。


ナイアさんが、僕を睨みつけてきた。


「カケル! あんた何のつもりだい?」

「あれ?」


そして、僕の中に意識を帯同しているハーミルもまた、戸惑ったような声を上げた。


『ちょっと、何しているの!?』


ナイアさんが剣を構え直した。


「あんた、あたしらを裏切って、そっち側に付くってわけだね?」


思わず取ってしまった自分の意外な行動に、僕自身が一番驚いていた。

大体、『彼女』が僕と同じ能力を持っているなら、不死身のはず。

ならば、例え傷つけられても、その傷はたちどころに癒えるだろう。

だけど僕は何故か、『彼女』が傷つけられるのを見たくなかった。

そして、『彼女』の事をもっとよく知りたかった。

なぜなら、『彼女』こそが、僕がこうしてここにいる事になった最大の理由であるはずだ、という確信があったからだ。


僕はとりあえず、ナイアさんに“言い訳”を試みた。


「そうじゃなくてですね。もうちょっと、彼女と話をさせて貰えないですか?」

「化け物と何の話をするっていうんだい? あんたがあたしらの味方だっていうなら、すべきことは、楽しいおしゃべりじゃなくて、その霊力とやらを使って、そいつを殺す事だろ?」


僕はチラっと背後を振り返った。

そこには、こちらを振り向き、不思議そうな表情で(たたず)む『彼女』の姿があった。


ハーミルが心の中で問い掛けてきた。


『カケル、なんで守護者を(かば)うの? 光球呼び出せたのなら、ナイアの言う通り、守護者を倒すか、さっさと向こうへ帰るかしようよ』


ハーミルの、その当然すぎる疑問に対して、僕は自分の中の感情を上手く説明出来なかった。

だから僕は、『彼女』の手を取り、霊力の力場(りきば)を展開した。


「ナイアさん、皆さんと一緒に、ヴィンダの街で待っていて下さい。話が終わったらすぐ戻ってくるので、その時、一緒に帰りましょう」

「あんた、何を言って……?」

『カ、カケル?』


ナイアとハーミルの戸惑いを余所に、僕は目を(つむ)り、心の中にある場所の情景を思い浮かべてみた。

時間すら飛び越えることが出来たこの力、場所位、簡単に移動出来るのでは?


次に目を開いた時、僕は無事“転移”出来た事を確信した。



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