表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする  作者: 風の吹くまま気の向くまま
Ⅲ. ついに巡り合う二人
41/239

41.帯同


第016日―3



「それはこの世界の住人にとって、危険な事ではないのか?」


険しい表情でそう問いかけるノルン様に、イクタスさんが言葉を返した。


「今、この場には霊力の残滓(ざんし)がありますが、殿下やハーミルは感じ取れますかな?」


二人はほぼ同時に首を振った。

イクタスさんはそれを確認してから言葉を続けた。


「つまり霊力は、そのままでは、この世界の住人に何の影響ももたらしませぬ」

「私が宝珠を祭壇に捧げる事で、『彼方(かなた)の地』への扉が完全に開いてしまう事は?」

「あり得ませぬ。本来、『彼方(かなた)の地』への扉は正しい手順を踏まねば、開く事は(かな)いませぬ」


ノルン様は、(いま)だ意識を取り戻さないメイをちらりと見た。


「最近、何者かが宝珠を祭壇に捧げ、或いは私の宝珠を奪おうと、何かを画策しておる。これは魔王が宝珠を使い、再び『彼方(かなた)の地』への扉を開かんとしている事を意味するのでは? 私がこの地で宝珠を捧げる行為は、魔王を利するものとはならぬか?」

「魔王エンリルが『彼方(かなた)の地』への扉を再び開かんとしている可能性はあります。しかし先程も申し上げました通り、正しい手順を踏まねば、『彼方(かなた)の地』への扉は決して開きませぬ。そしてここ、北の塔は既にその正しい手順に使用された後ですぞ。今更(いまさら)、殿下が宝珠を捧げても状況は変わりませぬ」


ノルン様の目が大きく見開かれた。

彼女は少しの間逡巡する素振りを見せた後、意を決したかのように、祭壇に近付いた。

そして何かの詠唱を開始した。

再び彼女の額が青く輝き出した。

その途端、僕は部屋の中に、あの得体の知れない何かの力が急速に満ちて来るのを感じた。

恐らくこれが、イクタスさんの言う所の“霊力”なのであろう。


突如頭の中に“声”が響いた。



―――力に呑まれず、力の源に意識を集中するのだ



思わず僕は辺りを見回した。

しかしイクタスさんとハーミルは、ノルン様にじっと視線を向けており、二人が言葉を発した様子は無い。


再び“声”が聞こえた。



―――意識の中心に、(ことわり)を崩し、(ことわり)を正す力の源泉を捉えよ



僕は目を閉じた。

意識の奥に輝く何かが浮かび上がってきた。

そして再び目を開けた時、光球が出現していた。



「これは……?」


僕の眼前に浮かんでいる光球を目にしたノルン様とハーミルの顔に、驚愕の表情が浮かんだ。


「その光球こそ、(ことわり)を崩し、(ことわり)を正す守護者の力の源。カケルよ、おぬしの想いを込めてその光球を手に取るが良い」


イクタスさんにそう(うなが)された僕は、過去に飛ばされてしまったアレル達への想いを込めて、光球に手を伸ばした。

するとその光球は輝きを増した後、突如消滅した。

あとには不可思議な揺らめきに縁取られた、人一人がくぐれる位の、どこまでも黒い穴が出現した。


その時、ノルン様の傍に横たわっていたメイが小さく(うめ)きながら目を開けるのが見えた。


「こ、ここは……?」

「メイ!」


僕は彼女の傍に身をかがめ、起き上がろうとする彼女の背に手を添えた。


「良かった。気が付いたんだね」

「カケル……?」


メイは僕の顔を見上げた後、すぐ傍に出現している黒い穴に気付いて悲鳴を上げた。


「違う違う! 私じゃない! あの黒い穴は私じゃない!!」


何故かパニックを起こしかけている彼女を、僕は慌てて抱きしめた。


「メイ、大丈夫だから」


そんなメイに、ノルン様も優しく声を掛けてきた。


「落ち着くのだ、メイ。よく周りを見よ、私とカケルとハーミルだ」

「わしも勘定に入れてもらえるとありがたいんじゃが」


イクタスさんが急いで付け加えてきた。

メイはわなわな震えていたけれど、僕、傍に立つノルン様、ハーミル、そして最後にイクタスさんと順々に視線を向けた後、やがて落ち着いたのか、ふっと肩の力を抜いた。

僕の腕の中、メイが改めて問いかけてきた。


「ここはどこ?」

「北の塔の最上階だよ。メイはまた気を失って倒れていたんだ」


彼女はもう一度周囲を見渡した。


「何があったの?」

(さら)われたメイを助けようとして、アレルさんとナイアさんがここに駈け付けて……色々あって過去に飛ばされたみたいなんだ」


メイが怪訝そうな顔になった。


「過去?」


僕はメイが(さら)われた後の事を、()(つま)んで説明した。


「そう……じゃあ私、助かったのね」

「うん。メイだけでも無事で良かった」


メイが再び黒い穴に視線を向けた。


「なら、あの黒い穴は?」

「僕が霊力を使って構築した……過去に繋がっているはずの門だよ」


メイの目が大きく見開かれた。


「カケルが? そんな事、いつの間に出来るようになったの?」

「なんかね、知らない間に、守護者とやらの力を継承させられてしまっているらしくて」


僕は苦笑した。

本当に、自分には一体何が起こっているのだろう?

この件が片付いたら、きっちり調べないと。




一方、アルラトゥ(メイ)は大混乱に(おちい)っていた。

彼女は実際に守護者と対峙した事も、その力を直接目にした事も無かった。

そうした所謂(いわゆる)荒事関係は、あのマルドゥクが手掛けていたはずだ。

しかし聞いている話では、守護者は女性の姿をしているという。

そして『彼方(かなた)の地』に蓄えられた膨大な霊力を(かて)に、様々な奇跡を成す、と。

父が再び『彼方(かなた)の地』への扉を開こうとしているのは、何らかの手段で、守護者の力を霊力ごと奪うため、と理解していた。

その守護者の力を、目の前の少年が“継承”した?

“継承”出来るという事は、奪う事も出来る??




メイが落ち着いたのを確認してから、僕は彼女からそっと離れて立ち上がった。

そして僕自身が創り出した黒い穴へと歩み寄った。


「本当に過去に繋がっているのか、確かめてきますね」

「待ってカケル。私も一緒に行くわ」


そう口にしながら、ハーミルが僕の傍に歩み寄って来た。

僕は彼女に言葉を返した。


「ハーミル、まだこの穴がちゃんと向こうに繋がっているか分からないんだ。危ないからここで待っていて」


しかし彼女は僕をじっと見つめながら、にっこり微笑んだ。


「言ったでしょ。私はカケルの用心棒として此処にいるのよ? 用心棒が危険を避けてどうするの?」


そんな僕達に、イクタスさんが声を掛けてきた。


「ハーミルよ、カケルを守るのに、何も生身のおぬしが同道する必要はないぞ?」


その言葉に、ハーミルがやや気色(けしき)ばんだ。


「イクタスさん、それは私の剣ではカケルを守れないという意味ですか?」


イクタスさんがからからと笑った。


「気の強い娘じゃ。そうではない。おぬしのその強い想いで、カケルを助けてはどうかという話じゃ」

「?」

「その強い想いがあれば、おぬしの意識を、400年の時を越えてすら、カケルに繋ぐことが出来よう。おぬしらの意識が繋がっておれば、その穴の向こうの様子を、カケルがハーミルを介して、こちらに知らせる事も可能なはずじゃ。カケルよ、ハーミルの意識を帯同してはどうじゃ? おぬしなら出来るはず」

「意識を帯同? でも、やり方が分からないです」

「簡単な事じゃ。お互いの手を繋いで、相手に意識を集中させるのじゃ。相手に意識を潜り込ませる側のハーミルの方は、特に強い想いが必要になるが……わしの見たところ、さほど難事(なんじ)では無さそうじゃ」


ノルン様が、イクタスさんに相槌(あいづち)を打った。


「まあ、ハーミルはカケルが大好きだからな」

「な、何言っているのよ!?」


耳まで真っ赤にしてノルン様の言葉を否定するハーミルを見ている僕の方まで、心拍数が上がってきた。

イクタスさんが、まるで僕達をけしかけるかのように言葉を掛けてきた。


「ほれ、穴を維持する霊力が勿体(もったい)ないぞ。早うせんか」


僕達は、おずおずと手を取り合った。

しかしお互い、恐らく別の意味で意識してしまっているせいか、まるで集中できない。


「ほれほれ、お互い乱れまくっとるぞ。特にハーミル、そんな(さま)ではカケルに置いていかれてしまうぞ?」


イクタスさんのその一言に、どうやらハーミルは集中力を取り戻したようであった。

温かい何かが僕達の間を駆け巡り、それはやがてゆっくりと、僕の心の中に流れ込んできた。

それはとても心地良く、心を落ち着かせていく。

そして僕は、自分の中にハーミルを『認識』した。


イクタスさんが再び声を掛けてきた。


「どうやらうまく行ったようじゃな」

「不思議……自分の感覚とは別に、カケルの五感を通した感覚が伝わってくる」

「ハーミルの役割は、向こうの状況をわしらに伝える事じゃ。わしらも出来得る限り手助けしようぞ」

「じゃあちょっと行ってきますね」


ノルン様とイクタスさんが(うなず)き、メイが呆然と見送る中、僕は“ハーミルの意識”と共に、黒い穴へと足を踏み入れていった。



しかしその数秒後、突然ハーミルがまるで断末魔のような絶叫を上げ、床に膝から崩れ落ちた!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ