表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする  作者: 風の吹くまま気の向くまま
Ⅱ. 北の地にて明かされる真実
29/239

29.記憶


第011日―3



「メイはあの場で以前、実際に宝珠を顕現し、その力を開放した可能性がある。私は祭壇で、メイが顕現させようとしていた白の宝珠と同じ力の残滓を感じた。メイが以前、宝珠を使用して行った何かと、私の顕現させた青の宝珠とが何らかの形で干渉し、メイにその力が逆流したのやもしれぬ」


ノルン様の推測を聞いたハーミルが、メイにチラッと視線を向けた。


「ということは、ナイアが交戦した宝珠の所持者って……」


ノルン様が険しい表情のまま、言葉を返した。


「ううむ、なんとも言えぬ。しかしもし勇者ナイアがメイと交戦したとすれば、少し時期的に矛盾が生じる。勇者ナイアが宝珠の所持者と交戦したのは、知らせ通りとすれば数日前のはず。しかし、メイが記憶を失ってカケルの前に現れたのは、アレルが試練を乗り越え勇者となった日。つまり10日以上前という事になる」


僕は大きく(うなず)いた。

以来、メイとは日夜行動を共にしており、彼女がナイアと交戦する機会は無かったはずだ。

それにしても、宝珠の力の残滓か……

もしかすると、自分があの部屋で抱いた違和感も、それだったのだろうか?

僕はおずおずと切り出してみた。


「あの……あそこの祭壇があった部屋、入った時に違和感があったんですが、あれがもしかして宝珠の力の残滓だったのでしょうか?」

「入った瞬間に違和感?」


ノルン様が怪訝そうな顔になった。


「なにかこう、良く分からない圧迫感のような、全身に活力が(みなぎ)るような……」

「カケル、宝珠の力の残滓を感知できるのは、宝珠の所持者だけだ」

「え!? じゃあ、僕ももしかして宝珠を所持している、とか?」


わけの分からない光球とか無意識に呼び出せるのだから、いつの間にか宝珠を手に入れていても、あまり驚かない自信はある。

しかし、ノルン様は即座に首を振った。


「それはあり得ない。宝珠は帝室に連なる皇女のみに継承される。帝国建国以来、この400年間、例外は一例たりとも記録されていない」

「それってつまり……?」


ハーミルが、ノルン様の反応を確かめる素振りを見せながら言葉を続けた。


「メイは帝室の皇女様かもしれないって事?」


ノルン様の表情が一段と険しくなり、僕とハーミルは思わず顔を見合わせた。

ハーミルが改めて問い直した。


「宝珠は、帝室に連なる皇女様に代々受け継がれる、だったわよね?」


ノルン様が(うなず)いた。


「そうだ。宝珠の所持者は時代によって、複数の時もあれば、数年間、宝珠の所持者のいない時代もあった。宝珠を所持しているかどうかは、誕生した瞬間に既に定まっている。成長の途中で突然宝珠を顕現出来るようになったり、宝珠を喪失したりは決してしない……」


それはメイが生まれながらの宝珠の所持者、ナレタニア帝国の帝室に連なる皇女の一人、という事を意味する。

ハーミルが少し茶化すように推論を述べた。


「もしかして、メイって、帝室の誰かが民間で作っちゃった隠し子だったりして?」

「その可能性は極めて低い。実は宝珠の所持者となる皇女は、同じく宝珠の所持者の皇女か、その近親者の皇女の(もと)にしか生まれてこぬ。帝室に連なる皇女が、誰にも知られず、こっそり妊娠出産するのは不可能とは申さぬが、難しいだろう」


そして、ノルン様は言い(にく)そうに言葉を続けた。


「もっと有り得る可能性として……メイは私の妹かもしれぬ」


「「ええっ!?」」


僕とハーミルは驚いて顔を見合わせた。


「ハーミルはあの噂(第15話)、知っておろう。難産の末、私の母上と妹は死亡した……という事になってはいるが、実は妹は何者かにかどわかされた(※(さら)われた)、と」

「もちろん知っているわよ。だけど、私は単なる都市伝説の(たぐい)の話だと思っていたんだけど……違うの?」

「わからぬ。父上は何故か、母上と妹に関しては、(ほとん)ど何もお話し下さらないのでな」


ノルン様は一旦そこで話を止めて、真剣な面持ちで僕に向き直った。


「すまぬな、カケル。いずれにせよ、メイは我が帝国で庇護する必要がある」

「……わかりました。メイが本当にノルン様の妹なら、むしろそうして頂く方が良いと思いますし……」


僕は少し複雑な気分で、まだ目を覚まさないメイにそっと目をやった。

この世界に来てすぐに出会ってから、今までずっと一緒に過ごしてきた彼女と離れ離れになるのは、正直とても寂しい気分だ。

でもまあ、全然会えなくなるってわけでも無いだろうし、ここは前向きに考えるべき所だろう。




一方、ノルンは厳しい視線をメイに向けていた。

カケル達には話していないが、例の宗廟に残っていた宝珠の力の残滓は、今回のものと同質であった。

つまりメイは宗廟でも、宝珠の力を開放して何かをしていた、或いはしようとしたはずであった。

何者かに強要されて? 

或いは自らの意思で?

宗廟からの帰途、ウルフキングは宝珠を欲して襲撃してきた。

この地に至る道中で、マルドゥクも宝珠を欲して襲撃してきた。

マルドゥクが一時的にせよ、滞在していたらしいここ竜の巣で、メイが宝珠を使って何かをしていた。

そう言えばマルドゥクは確か、ガンビクの村での襲撃時、メイにこう話しかけてなかったか?



―――私の事が分からないのか……? もしや前回の儀式の影響で?



状況から類推すると、今回の宝珠を巡る一連の出来事には、どうやら魔王エンリルが(から)んでいるようだ。

だとすれば、マルドゥクのいう『儀式』が、自分が毎年行う先帝達を(まつ)る『儀式』と同じ、平和的なものとはとても思えない。

ノルンの頭の中で、パズルのピースが組み合わされていく。

しかし、それはまだ意味のある形を成してこない。

ノルンの頭の中を、(まと)まらない考えが、いつまでもぐるぐると渦を巻き続けていた。



――◇―――◇―――◇――



夜半、『アルラトゥ』は静かに目を開いた。


まだ頭が痛い。

彼女は顔を(しか)めながらも、記憶の確認を行ってみた。


一番直近の記憶では……


竜の巣の祭壇でノルンが青の宝珠を顕現し、祭壇を調べていたのを『メイ』として眺めていたのを思い出した。

そのあたりから後の記憶が曖昧(あいまい)だが、どうやら自分はまたしても気を失っていたらしい。

もしかすると、ノルンが顕現した宝珠に刺激された祭壇から、自身に何らかの力の逆流があったのかもしれない。

祭壇の封印を一人で解除して回るのは、それだけ負担が大きいという事なのだろう。


彼女は状況を確認するため、横たわったまま、周りを素早く見渡した。

今は竜車の中に寝かされているようだ。

見覚えのある仕切りがされており、今、この空間には自分一人である。

彼女は再び自身の記憶を辿(たど)ってみた。


確か、宗廟の祭壇の封印を解除する儀式の直後に意識を失って……


ここ2週間ほど、自分は記憶を失って、『メイ』という名を与えられ、カケル達と行動を共にしていた事が思い起こされた。

拘束はされていないところを見ると、どうやら自分の“正体”はまだ気付かれてはいないようだ。

同時に、人間(ヒューマン)風情(ふぜい)と馴れ合っていた自分が、若干滑稽に思えてきて、思わず含み笑いが込みあげてきた。

だが、今の状況はかえって好都合かもしれない。

なにしろ、もう一人の宝珠の所持者、自分の知らない母の(ぬく)もりを知っているあの女がすぐ傍にいる。

とりあえずは、このまま『メイ』の振りを演じ続けよう。

あと解除すべき封印は残り3ヵ所。

うまくすれば、あの、いつも自分を見下(みくだ)しているマルドゥクを出し抜き、他の皆に、自分を認めさせる事が出来るかもしれない。


彼女は静かに目を閉じ、再び眠りの世界に身を(ゆだ)ねた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ