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【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする  作者: 風の吹くまま気の向くまま
Ⅱ. 北の地にて明かされる真実
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27.再会


第010日―1



翌朝、朝食を終えた僕達は、村長の屋敷の一室に集まり、今後の調査をどう進めるか相談する事になった。


「昨日のマルドゥクの襲撃、あれは偶然ではあるまい。敵は我等の動向を(あらかじ)め知っていたに違いない」


ノルン様が難しい表情のまま切り出した。


「このまま少人数で竜の巣に接近するのは、危ういかもしれぬ」

「宮廷魔導士とか帝国近衛兵から、何人かこっちに派遣してもらう、とかは?」

「それは難しい話だ。調査の性質上、隠密性が求められる。名の有る者を動かせば噂になるし、実力の無い者を同道させても、宗廟の時の二の舞だ」

「それだと、冒険者を他に(つの)る......って手法も無理よね」


ハーミルが少し考える素振りを見せながら言葉を続けた。


「敵はノルンの宝珠が目当てなんでしょ? だったらノルンは帝都に戻って、私、カケル、メイの三人で調査してくるっていうのは?」

「私が現場で宝珠の残滓を調べる事こそ、この調査の(かなめ)なのだ。私抜きでは調査自体が不可能になる」

「じゃあ、このまま進むしかないんじゃない? いざとなったら、カケルがあの力で皆をパパッと助ける方向で」


ハーミルの軽い感じのその言葉に、僕は思わず苦笑した。


「あれは、自分でもよく分かってないからね。そりゃ頑張るけど、もう一回出来るかどうか分からないよ?」

「カケルなら大丈夫! なにせ不死身の加護を身につけし男だもんね」

「それ、永続的かどうか分からないし、出来ればその加護、体感せずに済めばありがたいんだけど」


結局代案は見付からず、当初の予定通り、急いで竜の巣に向かい、ナイアさんと合流しようという話に落ち着いた。



お昼前、準備を終えた僕達は竜車に乗り込んだ。

そして村長以下、村の人々に見送られ、いよいよ竜の巣へと出発した。

出発してすぐに、御者台に座るピエールが、幌車の中の僕達に声を掛けてきた。


「竜の巣までは丸一日かかります。今夜は、途中の比較的安全そうな場所で野営しますね」


ピエールさんの言葉を受けて、ノルン様が口を開いた。


「野営中は、守護結界を張るとはいえ、やはり交代で見張りを立てた方が良いだろう」


ここは帝国の支配の及ばない北の大地。

帝国領内よりも(はる)かに強力なモンスターが出没する、魔王の棲む領域である。

用心を重ねるに越した事はない、という事のようだ。


「じゃあ、最初はカケル、次が私、最後にメイでどう?」


僕はハーミルの心遣(こころづか)いに感心した。

この順番だと、ハーミルのみ、睡眠を中断しての見張りになる。


「私も見張りに立つぞ?」

「ノルンはだめよ。絵面(えづら)的に、家来が寝ていて、皇女様が見張りって可笑しいでしょ?」

「おぬしらは家来ではない。仲間であろうが?」

「とにかく、ノルンには竜の巣できっちり仕事に専念してもらわないといけないし、しっかり休養取っといて」


日暮れ前に、ピエールさんは竜車を比較的(ひら)けた地で停車させた。

そしてノルン様が、丹念に守護結界を張った。

低位のモンスターは結界内の存在に気付かず、結界の存在に気付ける高位のモンスターでも、それを破壊しようとすれば、直ちに術者(ノルン様)に警告が届くらしい。

結局、その夜は結界に近付き過ぎた虎の化け物のような高位のモンスターが一頭、ハーミルに斬り伏せられただけであった。




第011日―1



翌日昼前、予定通り竜の巣が見えてきた。

外観はごつごつした大きな岩山のその場所は、その名の通り、種々のドラゴンが根城を構えているらしい。

と、不意に竜車が停止した。

そしてピエールさんが、僕達に声を掛けてきた。


「おかしいですね。静か過ぎます」


聞けば、以前ピエールさんがこの地を訪れた時は、何頭もの有翼のドラゴンが岩山周囲を飛翔し、彼らの咆哮が辺りに響き渡っていたのだという。

しかし今目前に臨む岩山は、不自然なほど静まり返っている。


ノルン様が口を開いた。


「とりあえず、傍に近付かなければなんともならぬ。勇者ナイアがまだ近くにおれば、彼女の使い魔なり、彼女自身が現れるであろう」


竜車は再び動き出した。

やがて、竜の巣の入り口が見える場所までやってくると……


「こ、これは!?」


竜の巣入り口付近の少し開けた場所は、凄惨な情景が広がっていた。

辺り一面、(おびただ)しい数のドラゴンの死骸が散乱しており、ご丁寧にみな魔結晶を抜かれていた。

ハーミルとノルン様が顔を見合わせた。


「ナイアがやったのかしら?」

「複数のドラゴンを撃破するなど、勇者ナイア以外には考えられんだろう」


ピエールさんは、その場所から少し離れた木陰に竜車を止めた。

僕達はそこで昼食を取り、ナイアさんからの接触を待った……


が、小一時間経過しても何も起こらない。


「変ね。ナイアがもし近くにいるなら、もうとっくの昔に現れているはずじゃない?」


ハーミルの言葉に、ノルン様も首を(ひね)った。


「勇者ナイアに、何か不測の事態でも生じたのかもしれぬ。仕方ない。我等だけで内部を調査してみよう」


ノルン様は、ピエールさんには竜車に留まるよう指示を出し、その周囲に守護の結界を張った。

これで竜車に何かあれば、ノルン様はすぐに感知出来るはずだ。

そして僕達は、竜の巣内部へと慎重に入っていった。



竜の巣の入り口からしばらくは、天然洞窟のような通路が続いていた。

幸い、いつかの神殿のように、天井が燐光を発しており、薄暗いものの、行動にさほど支障は感じない。

と、通路の向こうから明かりが見えてきた。

どうやらその先は、少し広い空間になっているようであった。

突然、ハーミルが小声で警告を発した。


「気を付けて! 誰かいるわ」


見ると、広間から漏れて来る明かりを背景に、複数の影が動いているのが見てとれた。

僕とハーミルは腰の剣を抜き、ノルン様とメイも杖を手に取った。

僕達は息を(ひそ)ませながらそろそろと進んで行き……


「ん? カケルじゃないか。こんな所で会うなんて奇遇だね」


通路の向こうから、アレルが姿を現した。

見ると、イリア、ウムサ、エリスといったアレルの仲間達も一緒に居る。

僕は剣を腰に吊るした鞘に戻した。


「アレルさん! お久し振りです」


僕とハーミルの少し後ろからついてきていたノルン様が、(いぶか)しげに声を掛けてきた。


「カケル、その者たちはそなたの知り合いか?」


その声が届いたのだろう、ウムサさんが、ノルン様の方に視線を向けた。

そして慌てたようにその場で片膝をつき、臣礼を取った。


「そちらにいらっしゃるのは、ノルン殿下では御座いませんか? 私はバール聖職者集団所属の神官、ウムサに御座います」


ウムサさんの言動で、相手が何者か悟ったのであろう、アレル達も同じく臣礼を取り、それぞれ自己紹介を行った。

アレルに視線を止めたノルン様が感慨深げに(つぶや)いた。


「そうか、そなたが例の勇者アレルか……」

「ふ~ん。勇者か……ナイアとどっちが強いかな?」


僕は嫌な予感がして、隣にいるハーミルの方を見た。

彼女は何故か顔をわくわくさせたまま、剣を下ろさない。

そんなハーミルに、ノルン様が氷点下の視線を送った。


「ハーミル。分かっておるとは思うが……?」

「冗談よ。いくら私でもここでアレル達と戦ってみたいな~なんて、思う訳ないじゃない」


バツが悪そうに笑いながら、ハーミルはようやく剣を腰に収めた。

そんな彼女にエリスさんが鋭い視線を向けた。


「その娘、本当にノルン殿下の従者か? 先程まで、我等に向ける殺気が尋常では無かったが」

「すまぬな、こやつ根は良い奴なのだが、強そうなやつを見ると見境なく切りかかるという、厄介な病魔に侵されておるのだ」

「だから、人を戦闘ジャンキーみたいに言わないで!」


なんだか全く同じセリフを、つい先日も聞いたような。



ノルン様が、アレル達に立つよう(うなが)して、改めて問いかけた。


「ところで勇者アレルよ。勇者ナイアに会わなんだか?」


アレル達は顔を見合わせた。


「勇者ナイア殿がこちらに来られているのですか?」

「その様子では会ってはおらぬようだな」

「私達は今朝早く、この地に到着したのですが、どなたにもお会いしておりません」


アレル達は、選定の神殿で僕達と別れて以来、ナイアさんとは別に、北方の地で、魔王城に至る道を探っていたのだという。


「先日、魔王が一子、マルドゥクなる魔族がこの地にいるという情報を入手して、来てみたのですが……」


到着すると、表にたくさんのドラゴンの死骸が散乱していた。

内部は、少なくともアレル達が探索した範囲内では、もぬけの殻だったという。

今度は僕達が顔を見合わせた。


「とにかく、もう少しお互いの情報を()り合わせぬか?」


ノルン様の提案で、僕達は一旦、竜の巣の外へ戻る事になった。



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