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【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする  作者: 風の吹くまま気の向くまま
Ⅱ. 北の地にて明かされる真実
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24.光球


第009日―3



僕は突如眼前に現れた『光球』を呆然と眺めていた。


「これは一体?」

『それは(ことわり)を崩し、(ことわり)を正す力の源泉。カケルの想いに(こた)えて顕現したものだ』


気付くと僕は周囲に何も無い、まさに虚無としか表現出来ない空間にいた。

虚無の中、確かに聞き覚えの無いはずなのに、なぜか懐かしい『声』が聞こえてくる。


『カケルのその想いのまま、それを手に取ってみよ。さすれば、それは必ずカケルの想いに応えてくれるだろう』


自分自身の身体感覚すらあやふやな中、『光球』のみはその存在を主張し続けている。

僕はそれに手を伸ばし……



---------------------------------------



ハーミルに今まさにとどめを刺そうとしていたマルドゥクは、突如全身が総毛立つ異様な感覚に(とら)われて、咄嗟(とっさ)に後ろに飛び退いた。

直後、斬撃と呼ぶのもおこがましい程の純粋な“力”の奔流(ほんりゅう)が彼を(かす)めて過ぎ去って行った。

それはいかなる攻撃からも彼を護るはずの加護の恩恵を無視して、手の中の魔剣を粉々に打ち砕いた。

彼は“力”の源を探るべく、素早く周囲に視線を送った。

そして、先程自分が確かに命を摘み取ったはずの少年が、一本の剣を片手にノルンの傍に立っているのに気が付いた。

その手の剣は、最初にその少年が手にしていたものとは違っていた。

材質不明、半透明の揺らめく紫のオーラに包まれたそれはまるで……!


「まさか!? ありえん!」


マルドゥクの顔が驚愕の色に染まっていく。

マルドゥクの魔剣が唐突に砕け散った事で、やや冷静さを取り戻したハーミルも、マルドゥクの視線の先に立つカケルに気が付いた。


「カケル! 無事だったのね」


カケルはハーミルに笑みを向けた後、マルドゥクを激しく睨みつけた。

そして彼は手にした剣を、真上に振り上げた。

その剣に、マルドゥクがかつて何度も見たあの『殲滅の力』が宿っていく。

いかなる魔法、いかなる加護もその“力”の前にはその意味を失ってしまう。

生き残れるのは、異常な身体能力でその“力”を回避出来る者か、或いは霊晶石での相殺という選択肢を取ることが出来る者のみ。

マルドゥクの全身を恐怖と呼ぶべき感情が駆け抜けた。


「どうなっている? なぜあの少年が守護者の力を?」


事前準備も無しに守護者と交戦する等、まさに自殺行為。

とにかく、このままこの場で交戦を続けるのは不利と判断したマルドゥクは、逃走を図るため、急いで黄金のドラゴンに飛び乗った。

瞬間、カケルが放った“力”の奔流が、マルドゥクとドラゴンに迫った。

マルドゥクは、迫りくる“力”に対し、手持ちの霊晶石全ての力を開放して相殺を試みた。

相殺によって生じた凄まじい衝撃波が、虹のきらめきとなって周囲を襲った。

しかしその間に、なんとか黄金のドラゴンは、マルドゥクを背に、上空へ舞い上がる事に成功していた。

そしてそのまま、凄まじい速度で北方に逃げ去って行った。

マルドゥクの逃走を見届けた村人達が歓声を上げる中、意識を失ったカケルは、その場に崩れ落ちてしまった。



---------------------------------------


広場の一角で、透明化の加護がかかったローブを身に(まと)い、油断無く自身の短弓を引き(しぼ)っていたレルムス(第17話)は、マルドゥクの逃走を見届けると、ようやく構えを解いた。

彼女が(つが)えていた矢には、マルドゥクの加護を破る事が出来る霊晶石が使用されていた。


「カケル様の力……広く……知られて……しまいましたね……」

『心配いたすな、“想定の範囲内”というやつじゃ』


---------------------------------------



「先程のカケルの力、あれは何だったのであろうか?」


村長の屋敷の一室で、ノルンとハーミルが会話を交わしていた。

(かたわ)らには、まだ目を覚まさないカケルが、ベッドに寝かされていた。

その手をメイが心配そうに握っている。


「カケルは確かに心臓を貫かれておった。しかも魔剣に。通常では復活はありえん」

「実は急所は外れていて、少し仮死状態になっていただけ、とかは無いかしら?」

「それは無い。確かに事切れておったのを確認した。しかも、あの短時間で勝手に傷口が塞がり復活するなど……」

「普通の人間とは思えない……とか?」

「アンデッド等のある種のモンスターは異常な回復力を持っていると聞く。通常の打撃では殺せぬとか」

「カケルハ モンスタージャナイ」


話を聞いていたメイが、ノルンを軽く睨んできた。

そんなメイに、ノルンが優しい表情を向けた。


「わかっておる。カケルは皆の恩人だ。あの強大なマルドゥクなる魔族を追い払ってくれたのだからな」


ハーミルが、カケルの方に視線を向けながら口を開いた。


「それにしても、あの斬撃は凄まじかったね。あれって何かの魔法かしら?」

「あの斬撃。あれには魔力を全く感じなかった。つまり魔法ではない未知の力だ。それに、カケルは元々おぬしと同じく、魔力を持っておらぬようだ」

「ふ~ん。そう言えば、カケルが斬撃を放つ時使っていた剣、どうなったの?」

「分からぬ。復活したカケルの手の中に唐突に出現して、カケルが気を失った瞬間、溶けるように消滅した。思い返せば、ウルフキングを一撃で(ほふ)ったのも、あの未知の力だったのやも知れぬ」

「そっか……カケルが目を覚ましたら、本人に直接聞いてみるのが一番かもね」



――◇―――◇―――◇――



マルドゥクは竜の巣まで戻ってきていた。

折角(せっかく)ノルン達を罠にはめ、この辺境の地まで引きずり出したというのに、あの少年は大誤算であった。

まあ、“半端者”があの場に居たのにも少々驚かされたが、あれは誤算と言うほどの事でも無い。

帝城の強力な結界内に幽閉でもされない限り、いつでも“回収”できるだろう。


「しかし、あの少年が守護者の力を手にしているとすれば、『彼女』はどうなった?」


17年前、当時の最高峰の魔術師3人――イクタス(第16話)ディース(第19話)、そしてマルドゥクの父であり、後に当代の魔王となったエンリル――は、それぞれがある思惑(おもわく)を秘め、失われて久しかった真理の一端にたどり着いた。

彼等は秘儀を行い、史上初めて『彼方(かなた)の地』への扉を開く事に成功した。

『彼女』は彼等が得ていた研究成果通りにその地で発見され、この世界へと連れ出された。

当初、三人の魔術師達は、『彼女』と友好的な関係を結ぶ事に成功していた。

しかしやがて、三人の魔術師達の思惑の違いが露呈し、『彼女』はイクタスと共に、エンリルと(たもと)を分かつこととなった。

以来、エンリルとその意を受けたマルドゥク達は、『彼女』の居場所を探索し、時に交戦して再び『彼女』を手中に収める方策を探ってきた。

つい最近も『彼女』の捕縛に失敗し、一時異世界で交戦(第1話)する事態にもなっていたところであった。


「あのあと、『彼女』に何かあったのか? いずれにしても、あの少年を調べてみる必要があるな」


少年がどこまで守護者の力を振るえるのかは分からないが、万全の態勢で臨むのに越した事はないであろう。

それほどまでに守護者が振るう“力”は傑出している。

なにしろ、その“力”は本来、『魔王や勇者を殲滅するために』用意されていたものだ。

それを手中に収める事が出来れば、『魔王と勇者の力関係を必ずや逆転させる』事が出来るはずだ。

そこまで考えを巡らせたところで、マルドゥクは悪寒を感じた。


誰かに見られている……


突然、四方から、魔力の“壁”がマルドゥクに襲い掛かって来た。

“壁”に押しつぶされる寸前、マルドゥクは自身の魔力を展開し、屋外に逃れる事に成功した。


「あんたがマルドゥクだね? あたしの可愛い使い魔ちゃん達を使って偽情報流してくれた件、きっちり落とし前つけてもらうよ?」


午後の木漏(こも)れ日の中、薄紅色の短髪の少女、勇者ナイアが使い魔達を従え、眉を怒らせてマルドゥクの前に立っていた。



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