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【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする  作者: 風の吹くまま気の向くまま
Ⅶ.忍び寄る悪夢
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220.飛行


第052日―3



カケルを“慰労”する(うたげ)の終了後、ノルンは直ちに、帝都に設置されている転移の魔法陣へと向かった。

そして転移の魔法陣を経由して、午後の日差しの中、ガイウスの軍営へと帰着した。

そのまま彼女は、ガイウスの幕舎へと直行した。

帰還したノルンを、ガイウスは笑顔で出迎えた。


「ノルンよ、ご苦労であった。して、二人の様子はいかがであった?」


今、この執務室にいるのは、ガイウスとノルンの二人のみ。

ノルンは、クレアとカケル、二人との会話を、自身の計画したシナリオに沿った形で報告した。

ノルンの報告を聞き終わったガイウスは、少し怪訝そうな表情になった。




ガイウスは、カケルとクレア、二人の周囲の人間関係を、既に密かに調べさせていた。

そのため彼は、クレアがカケルに好意を抱いている事には疑いを持っておらず、それは今回のノルンの報告でも裏付けられた形になった。

しかしカケルとハーミルが付き合っている、という情報は、ガイウスにとっては初耳であった。

事前の調査では、ハーミルはともかく、カケルの側に、ハーミルを恋愛対象にしているという報告は、上がってきていなかった。


「ノルンよ、本当に、二人は付き合っている、と申したのか?」

「はい。実は昨日、ハーミルの口から初めてその事を聞きまして、私も驚いた所です」

「で、カケルは慰労の(うたげ)の席で、自身の想い人について口にした、と」

「そうです」


ガイウスは、しばし沈思黙考した。


事前の調査では出て来なかった話。

となれば、カケルが別の世界に連れ去られる前後の時期に、二人がそういう関係になった?

それとも……


ガイウスは、ちらっとノルンの顔に視線を向けた。

現状、彼女の表情から読み取れるものは少ない。


ガイウスが再び口を開いた。


「まあ、若者は熱し易く冷め易いもの。しばらく様子を見るとしよう」

「かしこまりました」



父である皇帝に対し、律儀に臣礼を取りながら返答するノルンの顔には、安堵の表情が浮かんでいた。



――◇―――◇―――◇――



午後、僕とメイは帝都近郊の森の中にいた。

周囲には誰もいない。


「ここなら大丈夫かな?」


僕はメイを抱きかかえてから霊力を展開した。

そのまま上空へと上昇していく。

地面がみるみる遠くなり、それに伴って周囲の見晴らしも急速に良くなっていく。

雲間すれすれまで上昇すると、眼下には雄大な景色が広がっていた。


僕の腕の中、身を乗り出すようにしてその風景に視線を向けたメイが、感嘆したような声を上げた。


「カケル凄いね。もしかして、お星さまの世界まで上昇出来たりしちゃう?」

「どうだろうね……」


この世界がどれだけ地球と近似しているのか不明だけど、雲間に近いこの場所は、地上よりも明らかに気温が低かった。

このまま上昇を続ければ、星の世界に手が届く前に、大気圏外に出てしまうかも?

ともかく今日、宇宙旅行をするつもりはない僕はメイに(ささや)いた。


「じゃあ、ちょっとスピード出してみるから、しっかり捕まっていてね」


今までも、霊力で浮遊(第63話)してみた経験はあった。

しかしそのまま、自由自在に空間を飛び回った経験は無い。


昔見た映画や漫画のヒーローみたいに、自由に空を飛び回れたら面白いかも?


そんな軽い気持ちで、メイとの空中散歩を楽しもうとしたのだが……


真南の方向に霊力を集中させると、突如、凄まじい速度で移動が開始された。

周囲の景色が目にも止まらない速度で、後方に流れて行く。

不思議な事に、加速すれば当然身体にかかるであろう強いG(重力加速度)の様なものは、全く感じられない。

メイの様子を確認すると、彼女も不思議そうに周囲や眼下に目を向けている。



飛行を始めてものの十数分で、眼下の情景は大陸から大海原へと切り替わった。

確かこの世界、北半球に大陸が集中していて、南半球は小島の散在する大洋(第93話)が広がっていたはず。

となれば、そろそろ赤道を越えて南半球に入ったのかも。



やがて高度に変化が無いはずなのに、かなりの肌寒さを感じてきた僕は、眼下に見える小島に降下した。

樹木が一本も生えておらず、荒涼とした荒れ地のみ広がるその島の海岸には、たくさんの海鳥が集まっていた。

北半球が初夏のこの季節、南半球と思われるこの島は初冬を迎えているはず。

午後、まだ日の高い帝都から、真南に一時間も移動していないにも関わらず、この島では、太陽は早くも水平線の彼方に沈もうとしていた。


そう言えば、地球の高緯度地域だと、冬は極端に昼が短くなるんだっけ?


そんな事を考えていると、隣に立つメイが声を掛けてきた。


「カケル、凄いね。こんな遠くまであっという間に飛んで来られるなんて」

「いや、僕も驚いているところだよ。霊力って、結構何でもアリなんだなって」


あの世界から戻って以来、確実に、僕自身の霊力を操る能力は向上している。

それにしても、ここは一体、どこであろうか?


そんな事を考えていると、思わず苦笑が漏れた。


自分の力でここまで飛行しておきながら、正確な位置、或いは座標の様なものは、霊力を展開してもさっぱり分からない。

これって、自分が知らない場所に、霊力で転移出来ない事と関係しているのかもだけど……


そう言えば、メイは結界等で防御されていない場所なら、座標さえ分かればどこにでも転移出来ると話していた。

逆に言うと、この場所の具体的な座標みたいなのも、分かったりするのではないだろうか?


僕は試しに、メイに聞いてみた。


「メイ。ここって、帝都から見てどの位離れている、とか分かる?」

「えっ? もしかして現在地、分からないの?」

「実はそうなんだ」

「霊力って魔法よりも凄い事出来ちゃうのに、魔法使えば簡単に分かる現在地は分からないって不思議」


メイは少し微笑むと、束の間何かを探るような雰囲気になった。

そして僕に、この場所の座標について詳しく説明してくれた。

それは地球で言うと、南緯60度位に当たる位置であった。


「と言う事は結構、南の端っこに近い場所って事だね」


僕達は地面に転がる大きな岩の上に並んで腰かけた。

メイが器用に魔力を操り、僕達二人を温かい空気で包み込む。

日は完全に沈み、満天の星空が広がる下で、僕達は取り留めもないお喋りを楽しんだ。

やがて上空に、揺らめくカーテンレースのような光の帯が出現した。


「オーロラ……かな?」

「うん、綺麗……」


メイが僕の肩に、そっと頭を乗せてきた。

そのまま僕達は言葉を交わす事無く、天空で繰り広げられる光のショーをしばし楽しむ事になった。



1時間程経過したであろうか?

上空を乱舞していた光の帯は、やがて闇色の中に、溶けるように消えて行った。

それを見届けてから、僕は隣に寄り添うメイに(ささや)いた。


「そろそろ帰ろうか?」


僕の肩に頭を預けたまま、メイが(うなず)いた。

僕はメイに手を貸し、一緒に立ち上がった。

そして帰還のため、霊力を展開しようとして……


奇妙な違和感が襲って来た。


霊力の流れに乱れを感じる?


それは、以前の僕なら恐らく気付く事は出来なかったに違いない位、(かす)かな乱れであった。


僕の様子に気が付いたらしいメイが、声を掛けてきた。


「どうしたの?」

「いや、なんかちょっとね……」


話ながら、僕は霊力を展開して、その乱れの原因を探ろうと試みた。

霊力の感知網をゆっくりと広げて行くと、どうもその乱れは、より南方に源があるように感じられた。


「メイ、ここからさらに南って、何があるか知っている?」


メイは、首を振った。


「ごめんね。北方の事ならある程度分かるんだけど……こんなに南まで来た事自体が初めてだから、よく分らないわ」

「そうなんだ……」


僕は少し逡巡した後、言葉を続けた。


「帰る前に、もう少しだけ南に向かってみても良いかな?」

「いいけど……何か気になる事でも?」

「うん。ちょっと確かめたい事があってね」


僕はメイを抱きかかえると、霊力を展開して上空へと浮上した。

そして霊力の乱れを感じる方角向けて、飛行を開始した。

10分程飛行を続けると、長さ数kmはありそうな、巨大な氷山が、見えてきた。

霊力の乱れは、その氷山から生じているように感じられた。


一見したところ、ただの氷山だけど……?


僕はその氷山の上に着地した。

メイを地上に下ろした後、身を(かが)めて氷山の表面に手を添えた。

そしてゆっくりと霊力を展開して、内部の探査を試みた。


「えっ?」



氷山の内部に、あり得ない位場違いなモノを見つけてしまった。



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