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【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする  作者: 風の吹くまま気の向くまま
Ⅱ. 北の地にて明かされる真実
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20.剣聖


第008日―1



翌朝、僕は執事のデニスさん達に別れを告げ、メイと共に迎賓館を出た。

調査の隠密性を担保するため、僕達は人目を避けて、北方の街、マーゲルでノルン様達と落ち合う事になっていた。

マーゲルは、馬車で行くとここから約一ヶ月かかるそうだ。

当然、そんな時間をかけるわけにいかないので、僕達は転移の魔法陣を使って、マーゲルの街に向かうわけだけど。


30分程歩くと、転移の魔法陣に到着した。

僕は早速、昨日貰ったばかりの転移の魔法陣の無制限使用許可証を、傍に待機している年配の魔導士に見せ、マーゲルの街に送ってくれるように頼んだ。

年配の魔導士は、僕の示した許可証を確認すると、おどけた感じで話しかけてきた。


「おおっ! 昨日の英雄殿ですな?」


どうやら、昨日の参列者の一人だったらしい。


「なんでも、お忍びで遊びに出られた皇女殿下が、モンスターに襲われていたのを、一刀のもとに切り捨てられた、とか?」


あれ? 

そう言えばノルン様に、どうしてあんな場所でモンスターに襲われていたのか、聞いてなかったような。

でも、きっかけがお忍びで遊びに出ていたって事なら、ノルン様も説明しづらかったのかもしれないな。


「いえ、無我夢中だっただけですよ。多分またやれと言われても無理だと思います」

「ご謙遜を。では、魔法陣の真ん中に並んで立ってください」


僕とメイが魔法陣の真ん中に立ち、担当の魔術師が何かを唱えた瞬間、僕達の視界は切り替わった。


「相変わらず凄いな……」


僕が転移の魔法陣を利用するのは、これが三回目になる。

最初が、選定の神殿からアルザスの街へ。

次が、アルザスの街から帝都へ。

そして今、帝都からマーゲルの街へ。


通常は何日もかけて克服しないといけないはずの距離の壁を、いとも簡単に取り払ってしまうその便利さに、僕は今更(いまさら)ながら感心した。


マーゲルの街はかなり北方に位置するためか、初夏の頃のはずなのに、吹き抜ける風はひんやりとしていた。

僕とメイはそんな中、歩いて街の中心部に向かった。

ノルン様から、あらかじめ街の中心部にある大きな広場で待つように、言われていたからである。

街の規模はアルザスと同じ位であろうか?

ただ、北方の辺境と言う場所柄のせいか、冒険者然とした人々の数がアルザスよりも多いように思われた。

それらの人々を相手にしているのであろう、通りに並ぶ商店や酒場等も、なかなか活気に(あふ)れている。

そんな中を小一時間程歩いていくと、目的の広場に到着した。


広場はそれなりの広さがあり、中央には噴水が設置されていた。

幾人かの人々が、思い思いに(くつろ)いでいる。

僕は周りを見渡しながら、隣のメイに話しかけた。


「まだノルン様達は来てないみたいだね」


返事がないため、いつものようにぼーっとしているのかと思いきや、僕は彼女が広場の一角を熱心に見つめているのに気が付いた、

メイの視線の先に目を向けてみると、一組の親子の姿があった。

母親とその娘と思われる幼い子供が、陽だまりの中で仲良く遊んでいる。

僕はそっと声を掛けてみた。


「メイ、どうしたの?」


するとメイは、はっとした感じでこちらに顔を向け、すぐに何でもないという風に首を振った。


家族の事でも思い出したのだろうか?


僕は、メイが最初に着ていた貫頭衣、素材は北方の植物だ、とミーシアさんが教えてくれたのを思い出した。

もしメイが北方のどこかの街か村出身であれば、故郷に近付く事で、メイの心に何らかの影響が出ているのかもしれない。


そんな事を考えていると、後ろから突然声を掛けられた。


「もしかして……カケル君とメイちゃん?」


振り向くと、そこには一人の少女が笑顔で立っていた。

茶色の髪を後ろで結んでポニーテールのように垂らし、銀色の軽装鎧を身に着け、腰には一振りの剣をさしている。

しかしいくら記憶を辿(たど)ってみても、彼女の顔に見覚えは無い。

僕はとりあえずたずねてみた。


「どこかでお会いしましたっけ? なぜ僕たちの名前を?」

「ノルンからあなた達の事を聞いていたの。私はハーミル。宜しくね」


ノルン様の名前が出る、と言う事は、どうやら、彼女も今回の調査の同行者らしい。

そう感じてふっと気を抜いた直後……!


突然全身が総毛立つ感覚に襲われた。


なんと、ハーミルと名乗った少女が、予備動作無しで、恐るべき速度で腰の剣を抜き放ったのだ。

その剣尖は芸術品のような美しさで弧を描き、確実に僕の命を刈り取ろうとでもするかの如く、尋常ではない速度で首筋に迫ってくる。

なぜか、僕にはそれがスローモーションのようによく“見えた”。

なんとかそれを避けようと試みたけれど、身体の方はまるで反応してくれない。

と、その剣は僕の首を両断する寸前で停止した。


「ふ~~ん。なるほどね」


何かを勝手に納得したらしいハーミルが、剣を腰に差した鞘の中に納めた。


「い、いきなり何を!?」


僕は声が上ずるのを自覚しながらも、ハーミルを睨みつけ、慌てて彼女から距離を取った。

そして腰の剣を抜き、身構えた。

ハーミルの唐突な行動に虚をつかれ、しばし固まっていたらしいメイも、少し遅れてハーミルから距離を取り、魔法の詠唱を開始した。

ハーミルの方は、なぜか楽しそうな雰囲気のまま、僕達の様子を見守っている。


普通に戦っても勝てる気がしないし、街の衛兵に助けを求めようか?

あ、でも、衛兵を呼んだら当然事情を聞かれるだろうし、調査の隠密性を考えたら、衛兵を呼ぶべきではないかもしれない。


僕がこの襲撃者? にどう対処するか決めかねていると……


「ハーミル! 何をやっておる?」


大声と共に、勢いよく走って来たノルン様が、その勢いのまま、ハーミルの頭を思いっきりぶん殴った。

ハーミルが悲鳴を上げた。


「痛い。暴力反対!」

「何が暴力反対、だ? 遠目にも見えておったぞ。大方(おおかた)、カケル達の実力でも測ろうとしたのだろうが、私の恩人に何て事をする! それ、ちゃんと謝るのだ!」

「分かった、分かった、謝るから……って痛い痛い、耳引っ張らないで」


ノルン様に右耳を引っ張られ、やや涙目になっているハーミルを見ていると、僕はすっかり毒気を抜かれてしまった。


「すまぬな、こやつ根は良い奴なのだが、強そうな奴を見ると見境なく切りかかるという、厄介な病魔に侵されておるのだ」

「いくら幼馴染だからってそれはひどい。人を戦闘ジャンキーみたいに言わないで」

「本当の事だろうが。ほれ、ちゃんと謝るが良い」

「……その前に、そろそろメイちゃんの方止めないと、魔力がとんでもない事になっているんですけど?」


見ると、メイの魔法の詠唱が終わりかけていた。

彼女の頭上では、練成された魔力が、凄まじい威力の熱球に姿を変えようとしていた。

突然の熱球の出現に気付いた広場の人々が、驚愕の表情を浮かべながら逃げ出していく。

広場はちょっとしたパニックに陥っていた。


「メイ、ストップストップ!」


魔法のキャンセルを求める僕を、メイは不思議そうな顔で見返してきた。


「ソノオンナ カケルノコト コロソウトシタヨ?」

「もう大丈夫! 色々誤解があっただけみたいだから」

「ジャア ソノオンナ テキジャナイ?」

「敵どころか、今回の調査の仲間だ」

「……」

「だからその魔法、一旦キャンセルして」

「……」


メイは頭上の熱球と僕の顔とに代わる代わる視線を送った後、やや困惑したような表情を浮かべた。

嫌な予感がした僕は、一応聞いてみた。


「もしかして、キャンセル方法分からない……とかじゃないよね?」


メイが困惑したような表情のまま、言葉を返してきた。


「イクタスハ キャンセル オシエテクレナカッタヨ」

「「えええっ!?」」


僕とノルン様の驚愕の声がハモる中、結局、その熱球を思いっきり高空に打ち上げ爆散させる事で、僕達はその場を切り抜けた。


その日、マーゲルの街をその季節には珍しい生暖かい風が吹き抜けた。



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