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【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする  作者: 風の吹くまま気の向くまま
Ⅵ.神に行き会いし少年は世界を変える
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166. 脱出


12日目―――3



真っ二つになった大きな壺の下から、地下に続くと思われる隠し扉が現れたのを目にした『彼女』が、驚いたような顔になった。


「カケル! もしかして霊力で感知したのか?」

「いや、霊力は使えないままだよ」

「では何故、この扉の事が分かったのだ?」

「えっ? だって、この小さな光が……」


僕は、目の前をフワフワ移動していく小さな光を指さした。

しかし『彼女』は、怪訝そうな顔をした。

どうやら、『彼女』には、小さな光が見えていない様子であった。

だから僕は状況を改めて説明した。


「小さな光が見えるんだ。誰かが手助けしてくれているのかも」


僕は『彼女』にそう話すと、隠し扉を開けてみた。

その下に、地下へと続く階段が現れた。

僕達はその階段を下りて行った。

階段の下は、下水道のような場所に繋がっていた。

迷路のようなその暗がりの中を、さらに小さな光が僕を誘導していく。

やがて小さな光が、上へと続く梯子の所で停止した。

ここを昇れという事だろうか?


「ありがとう」


僕はその小さな光にそっと声を掛け、梯子に手を掛けた。

僕と『彼女』が梯子を昇りだすのを見届けたかのように、小さな光は溶けるように消えていった。

昇り切った梯子の突き当りは、蓋になっていた。

そっと押し上げてみると、蓋の隙間から裏路地のような場所が見えた。

注意深く確認してみたけれど、一応誰の姿も見当たらない。

僕が先にその裏路地に這い上がり、『彼女』に手を貸して引き上げた。


その裏路地は袋小路になっていた。

進めるのは一方向のみ。

僕と『彼女』は、周囲を警戒しながら慎重に進み始めた。

いつの間にか、上空に映し出されていた僕達の姿は消えていた。

一度地下に潜った事で、中継が切れたのだろうか?

その裏路地を抜けると大きな通りに出た。

奇妙な事に、通りには通行人含めて、人影は一切見当たらない。


「カケル、気を付けよ。明らかに様子がおかしい」


そう声を掛けて来た『彼女』が、緊張した面持ちで腰の剣を抜いた。

そのまま慎重に進んで行くと、別の大きな通りに出るT字路に行き当たった。

大通りの左右は、激昂する住民達で一杯だった。


『彼女』が小声で話し掛けてきた。


「街の外に通じる道で、私達を待ち伏せしているようだな……強行突破するしかないな」


そしてそのまま手に持つ剣を構え直し、飛び出して行こうとした。

僕は慌てて『彼女』の腕を掴んだ。


「街の住民達を傷つけたら、それこそ相手の思うつぼだよ。引き返して別の道を探そう」


『彼女』にそう声を掛け、方向転換した僕の目に、驚きの光景が飛び込んできた。


いつの間に現れたのであろうか?

たった今、僕達が来た通りのすぐ後ろ、30mばかりの位置に、数十名程の兵士達が通りを塞ぐように並び、槍衾を作っていた。


『彼女』が歯噛みした。


「しまった、囲まれた!」


僕としても信じられない思いであった。

まさかあの小さな光、僕達をここへ誘導するための罠だったのだろうか?


剣を構え直した『彼女』が、僕を(かば)うように前に出た。


と、兵士達をかき分けるようにして、一人の女性が姿を現した。

黒い生地に金色の刺繍が施された壮麗なローブを身に付けている。

そしてその頭部には、魔族の特徴である一対の角が見て取れた。

彼女は布に包まれた長い棒の様な物を手に持っていた。

その彼女の顔を目にした僕の心の中に、驚きが広がった。


「キガルさん!?」


僕は思わず叫んでいた。

僕の記憶が正しければ、彼女は1週間前(第141話)、神都の酒場で、僕とセリエに声を掛けてきたあの魔族の女性であった。


『彼女』が驚いたような雰囲気で、僕に囁きかけて来た。


「カケル、代行者を知っているのか?」

「代行者?」


その時、その魔族の女性が口を開いた。


「私は代行者エレシュ。(しゅ)の命により、冥府の災厄を殺し、守護者アルファを捕縛するためにここへ来ました」


そして彼女は、棒のようなものを包んでいた布を取り払った。

それは1本の槍であった。

その槍には、禍々しく黒いオーラが(まと)わりついていた。

その槍を目にした『彼女』の顔が強張(こわば)った。


「あれは、殲滅の槍!」


代行者エレシュ(キガル?)と名乗ったその女性の口元が歪んだ。


「さすがは守護者アルファ。よくご存じね。この槍を用いれば、霊力を持つ者の力を奪い、殺すことが出来る。今回特別に、(しゅ)から使用を御許可頂いた神器よ」

「キガルさん、僕はあなたの神様と戦うつもりは無い! 神様と話をさせて下さい」


エレシュが、酷薄な笑みを浮かべながら言葉を返してきた。


「冥府の災厄さん、久し振り。確か、カケル……って名乗っていたわね。残念ながら、あなたの企みは、事前に全て(しゅ)に見通されていたの。私は(しゅ)の命を受けて、情報収集のためにあなたに近付いた。間抜けなあなたと哀れな獣人の女の子が、色々話してくれたおかげで、あなたの計画の全貌が分かったわ。まあ、守護者アルファが、あなたに魅了されて寝返ったのは計算違いだったけど」


『彼女』が声を上げた。


「代行者よ、私はカケルに魅了などされていない。それに、カケルには(しゅ)と争う意思もない」

「ふふふ、守護者アルファ、惨めね。魅了されている者は、自分が魅了されている事に気付かないもの。慈悲深い(しゅ)が、せっかくチャンスをくれたのに、あなたは結局それをふいにした。あなた、“カケルと(しゅ)が争う時は、カケルの側に立つ”、なんて不遜な事まで口にしたそうじゃない?」


やはりあの女神は、何らかの方法で、ずっと僕達を監視していたようだ。

僕はエレシュに呼びかけた。


「僕は何も企んでないし、そもそも神様と争うつもりもない。キガルさん、いえ、本当はエレシュさんでしたっけ? 僕やセリエと話したあなたなら、僕が何も企んでいないのは、容易に分かるはずだ。僕はただ、セリエを生き返らせて、自分の世界に……」


しかし途中でエレシュが(さえぎ)ってきた。


「怖い怖い。守護者最強のアルファを寝返らせた冥府の言霊(ことだま)。あまり長く聞き続けていると、私まで魂を穢されてしまうかも」


エレシュが右手を高々と掲げた。

それに連動するように、僕と『彼女』の足元に、突然魔法陣と思われる複雑な幾何学模様が描き出された。

直後、僕達は身動きが取れなくなった。


「残念ね、お二人さん。霊力を使えれば、こんな拘束、すぐに抜け出せたでしょうに。今、この街全体は、ベータ以下の守護者達によって、霊力を完全に無効化する結界が張られているの。まあ、冥府の災厄が、獣あたりから妙な“邪法”でも授けられていない限り、この拘束からは決して逃れられないわ」


僕はダメ元で霊力の展開を試みたけれど、エレシュの言葉通り、全く霊力の流れを感じる事が出来ない。

隣で『彼女』も同じようにもがいている。



―――殺せ! 殺せ!



いつの間にか、周囲に住民達が集まって来ていた。

彼等は皆、一様に憤怒の形相を浮かべ、今にも僕達に襲い掛からんばかりの様子であった。

彼等をエレシュが制した。


「待ちなさい、ヨーデの民よ。この者達は冥府の眷属。“邪法”を隠し持っているかもしれません。とどめは、私が刺しましょう」


エレシュが殲滅の槍を手に、慎重にこちらに近付いて来た。


「油断してはいけません。相手は冥府の災厄。苦し紛れに冥府の“邪法”を使用してくるかもしれませんからね」


僕はエレシュの言動に若干の違和感を抱いた。

彼女は、なぜ先程から“冥府の邪法”なるものを連呼しているのだろう?

霊力を抑制され、魔力で拘束されている僕達には、最早抵抗する(すべ)は……


「!」


僕は目を閉じて、自身の身体に竜気を巡らせた。

幸い、竜気は封じられていないようで、すぐに彼等の“声”が聞こえてきた。


「「私達は風の精霊。私達に何か御用?」」


目を開けると、周囲を青く輝く何かが渦巻いていた。

僕は叫んだ


「僕達を街の外に運んで!」



―――ゴォォォ!




突如その場を、一陣の強風が吹き抜けた。

舞い上がる砂塵に、多くの者が顔を(そむ)けた。

風が収まると、そこにカケルとアルファの姿は無かった。

人々が動揺したように騒ぎ出した。


「代行者様の拘束から逃げたぞ!」

「探し出して殺すんだ!」


騒然とする人々に、エレシュが凛とした声で呼び掛けた。


「ヨーデの民よ、落ち着きなさい。街の外へと通じる門を固めるのです!」


彼女は率いてきた兵士達にも、てきぱきと指示を出していく。

そのさなか、街の外へそっと視線を送ったエレシュの右の口角が、わずかに吊り上がった。


「運命がどう転ぶのか、後は、あの二人次第……」



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