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【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする  作者: 風の吹くまま気の向くまま
Ⅰ. 気が付いたら異世界
16/239

16.修行


第004日―1



翌日……



―――ぎゃああああぁぁぁぁ……



もう何度目であろうか?

絶叫を上げながら、僕は宙を舞っていた。

やがて地面が視界一杯に広がっていき……


………プツン……


しかしすぐに、意識が無理矢理引き戻される。


「カケル!」


引きつったような表情を浮かべたメイが、こちらに駆け寄って来るのが見えた。

同時に、自分の身体の傷が、シュウシュウと湯気を立てながら見る見るうちに修復されて行くのも、はっきりと自覚出来た。

上半身を起こした僕の視界の中で、つい今しがた、僕を弾き飛ばし、一時的に僕の意識を刈り取ったグレートボアが雄叫びを上げた。



―――ブモモォォォ!



魔法でその身を焼かれ、(たけ)り狂っているらしいグレートボアが、僕にとどめを刺さんと突進してきた。

しかしその巨大な牙が僕を再度空高く跳ね上げる直前で、グレートボアは突然硬直したように動かなくなった。


メイが僕に抱き付いて来た。


「カケル シンジャヤダ」


泣きじゃくる彼女の背中を優しく撫ぜていると、イクタスさんとガスリンさんの“アドバイス?”が聞こえて来た。


「こりゃカケル! 身体強化に自動回復の魔法まで付与してやっておると言うのに、情けない奴じゃ」

「ガハハ、カケル、目で見るんじゃない! 心で感じるんだ!」


僕は、少し離れた場所でのんびりと腰を下ろしている二人の方に視線を向けた。


「あの……弾き飛ばされる時の痛みが、尋常じゃ無いんですが……痛みの方も、魔法で何とかなりませんか? あと実際、何回かは僕、本当なら絶対に死んでいますよね?」



今日、僕とメイは、朝から、ガスリンさんとイクタスさんに連れられて、昨日受けた依頼達成のため、『グレートボア狩り』にやってきていた。

ちなみにメイは、やはり元々魔法の才能が有ったらしく、イクタスさんから少し手ほどきを受けただけで、すぐにいくつかの初級の魔法を使えるようになった。


当初は僕がグレートボアの注意を引きつつ、メイが魔法でグレートボアの体力を削りつつ、最後は僕が剣でとどめを刺す、という流れの練習のはずだったのだが……


今は、メイの魔法で体を焼かれて怒ったグレートボアに、僕がかれこれ十数回弾き飛ばされ、それを見ている二人の先生が、あれこれ批評を加える、という流れが定着しつつあった。

僕は無駄と思いつつも、一応、文句を言ってみた。


「大体、メイの方はともかく、僕の方はガスリンさんに数分間、簡単な剣の振り方、攻撃の(かわ)し方を教えてもらっただけですよ? なのにいきなり中級のモンスター相手に実戦って、おかしくないですか?」

「何が不満だ? 今のおまえはイクタスの魔法で不死身同然。攻撃当て続ければ必ず勝てる!」


ガスリンさんは、それが世界の真理とでも言わんばかりに断言した。


「攻撃当たったら……ですよね? 出来れば、攻撃が当てられるレベルのモンスターから、始めてもらいたかったんですが」

「簡単に仕留められるモンスターなんぞ、一万匹倒しても何の修業にもならんぞ? やはり戦いは身体で覚えるのが一番じゃ」

「延々跳ね飛ばされるだけって言うのも、修業にならない気がするのは気のせいでしょうか?」

「ほれ、時間がもったいないぞ? もうすぐそいつの硬直が解ける頃合いじゃ」


そう。

今僕達がのんびり言葉を交わす事が出来ているのは、グレートボアが硬直しているからで、それは、あくまでもイクタスさんが一時的にモンスターの動きを止める魔法を使っているからに他ならない。


僕はメイを(うなが)して、慌ててグレートボアから距離を取った。

そして、改めて剣を構え直した僕に向かって、硬直の解けたグレートボアが突進してきて……



―――ぎゃああああぁぁぁぁ……

…………

………

……


今日の“修業”は、日が(かたむ)くまで続けられた。



「つ、疲れた……」


すっかり馴染みと化した感のある『バルサムの力車亭』。

注文した料理の到着を待ちながら、僕はテーブルに突っ伏していた。

仕事を終え、僕達に合流していたミーシアさんが、心配そうに声を掛けてきた。


「カケル君、修業大変そうね」

「大変と言うより、“凄惨な”とか“惨憺(さんたん)たる”とかそんな感じの修飾子が似合う一日でした」


というか、冒険のイロハを教わるだけのつもりだったのが、いつのまにか、明らかに格上モンスター相手の命懸けの修行になっているし。


そんな僕の心の内なんて、当然気にも留めていなさそうなイクタスさんとガスリンさんが、のんきに会話を交わしている。


「なんじゃ、気合いが足りんなカケル! たかが63回、グレートボアに跳ね飛ばされただけで疲れるとは」

「64回ではなかったかの? 一回、わしの硬直魔法が間に合わんで、硬直寸前についでで弾き飛ばされたのも勘定すると」

「……僕は30回目あたりから後は、数えるの放棄していましたよ……」


一人ぼやきながら、僕はメイの方に視線を向けた。

彼女はいつもと変わらない雰囲気で、ぼーっと座っていた。

その様子からは、疲労感は全く感じ取れない。

魔法をバンバン使っていたけれど、元々の魔力が多くて、あんまり疲れていない、とかだろうか?


魔法と言えば、イクタスさんの魔法は凄い。

普通なら絶対に死んでいそうな傷が、たちどころに治ってしまう強力な自動回復魔法に、防御力を格段に上げてくれる身体強化。

さらに、象ほどもあるグレートボアを時間制限付きとは言え、一瞬で硬直させてしまう魔法も連発していた。

まあ、イクタスさんの凄い魔法のせいで、本当に“死なない程度”に修業させられる羽目になっているんだけど。


やがて料理が運ばれてきて、次々とテーブルに並べられていく。


「カケル、しっかり食っとけよ。明日も朝から忙しいぞ」


モンスターを変えての修業という選択肢は全くないのであろう。

ガスリンさんが楽しそうに、巨大な何かの肉塊にかぶり付きながら話しかけてきた。



ガスリン&イクタスプロデュースの(僕にとっては)地獄の修業初日は、こうして過ぎて行った。




第006日―1



僕達のグレートボア相手の“修業”は、結局三日間続く事になった。

何度も弾き飛ばされている内に、段々とタイミングが掴めてきた僕は、次第にグレートボアの突進を(かわ)せるようになっていった。

それに伴い、それなりに攻撃も当てられるようになってきた。

そして三日目の朝。

ついに僕とメイだけでグレートボアを斃す事に成功した。


「どうじゃ、わしの言った通り、身体で覚えるのが早いだろ?」


ガスリンさんが得意げな表情を浮かべているのが、なんだかとても悔しかったけれど、その後はグレートボアを順調に狩り続ける事が出来るようになった。

まあ、メイがぶっ放す魔法の威力も上がってきて、僕に突進してくるグレートボアの体力をガリガリ削ってくれていたことも、大きく影響していたのだけど。


それはともかく、僕達は三日目のお昼前に、ギルドで受けていた依頼――『グレートボア5匹討伐で銀貨20枚』――を無事、達成する事に成功した。


「カケル、それにメイ、二人ともよく頑張ったな」


イクタスさんが、(ねぎら)いの言葉を掛けてくれた。


「さて、これで依頼達成じゃな。早速ギルドに戻って報告じゃ」


僕達は連れ立って街に戻り、冒険者ギルドへと向かった。



「カケル君、メイちゃんおかえり~」


ギルドの受付台の向こうから、ミーシアさんが明るい笑顔で手を振ってきた。


「依頼達成じゃ。グレートボアは5匹ともカケルとメイで仕留めたぞ」

「二人とも凄いじゃない」

「ガハハ、先生が良かったからな」

「魔法を使って色々手助けしてくれたイクタスさんはともかく、ガスリンさんは見ていただけですよね?」

「何を言う。わしの的確なアドバイスがあればこその短期間での上達だろう」

「……アドバイスって、そこはガーっといなして、ズシャっと切る! ってあれの事ですか?」


僕は苦笑した。

まあ戦いの時はともかく、それ以外の場面では、この三日間でガスリンさんとイクタスさんから多くの事を学ぶ事が出来た。

モンスターの習性や魔結晶の取り出し方、魔法や各種薬草類、状態異常の治し方、武器防具の種類や選び方等々。

それらの知識は、きっと今後、僕がこの世界で生き行く上で、大いに役立ってくれるに違いない。


僕は心の中で、二人にそっと頭を下げた。



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