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【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする  作者: 風の吹くまま気の向くまま
Ⅵ.神に行き会いし少年は世界を変える
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135. 死闘


第045日―1



結局、ハーミルがヤーウェン最寄りの街の転移の魔法陣を経由して、帝国軍の軍営に帰り着いたのは、翌日の昼過ぎになってからであった。

ナレタニア帝国皇帝ガイウスは、ハーミルの帰着を幕舎の外で、直々(じきじき)に出迎えた。


「おお、ハーミルよ、無事であったか? それでカケルはどうした? 一体何があったのじゃ?」


ハーミルは型通りの臣礼を取った。


「申し訳御座いません。実はあの巨大魔法陣が、カケルの存在そのものを標的にしているのでは? との推測を立てまして、咄嗟(とっさ)の機転で、カケルに、別の場所への霊力による転移を提案したのです」


結社イクタスの話を詳細に語るわけにいかないハーミルは、昨夜の自分達の行動について、そう説明した。

そして某所への転移後、一旦はあの巨大魔法陣を撃退した事、

しかし再度出現した巨大魔法陣により、結局、カケルをいずこかへ連れ去られてしまった事を説明した。

もちろん、あの船上での(くだ)りを改変しての説明ではあったけれど。

しかしカケルを連れ去られた事を、まだ現実として受け止めきれていないハーミルは、途中何度も涙で言葉に詰まってしまった。


一方、ガイウスを含め、帝国の首脳達は、動揺の色を隠せなかった。


カケルが連れ去られた!?


それは帝国にとって、今回の戦いにおける戦略の練り直しを迫る事態を意味していた。

そんな中、ハーミルを気遣ったノルンが、彼女に声を掛けた。


「ハーミル、大変であったな。しかし不死身の加護を持つカケルの事だ。きっとどこかで生きている。我等帝国の総力を挙げてカケルの行方を探し、必ずや彼を救出して見せようぞ」


そして父ガイウスに向き直り、提案した。


「陛下、ハーミルは今まで我が帝国に多大な貢献をして参りました。ここらでしばらく、実家での静養を許可してはいかがでしょうか?」


ガイウスは少しの間思案する素振りを見せた後、口を開いた。


「そうじゃな……ハーミルよ、希望するなら、しばらく自宅での静養を許可するが?」

「……お心遣い、感謝致します。ですが長期の静養は不要に御座います。今夜一晩だけ、自宅へ戻る事をお許し願えないでしょうか?」



ガイウスの(もと)を辞したハーミルが、自分達に与えられている幕舎に戻ると、ジュノやクレア達が心配そうに出迎えた。


「大丈夫か? 顔色……凄い事になっているぜ?」


ハーミルはジュノの言葉に、無理矢理作り笑いを返そうとするけれど、うまくいかない。

ジュノやクレア達に、先程ガイウスに奏上したのと同じ内容を説明した後、ジュノが改めて、昨夜からの軍営内の動きについて教えてくれた。


「お前とカケルがどこかへ転移した途端、突然あの巨大魔法陣がかき消すように消え去ったんだけど……」


ジュノの話からすると、やはりあの巨大魔法陣は、カケルの存在そのものと同期していたらしい。

そして丁度、カケルがあの“召喚門”の彼方(かなた)に連れ去られたと思われる時刻に、コイトスへの転移門も消滅してしまったのだという。


「陛下はコイトスへの転移門、物資補給の当てにしていた感じだったからな……これから色々大変かもな」



ジュノとクレア達に、今夜は一度自宅に帰る事を伝えた後、ハーミルは帰宅の準備のため、自分に与えられた部屋へと戻った。

そして簡単な荷造りの後、軍営内に設置されている常設型の転移の魔法陣へと向かった。

常設型の転移の魔法陣は、3日前、ヤーウェン郊外に着陣した直後、ジェイスンら宮廷魔導士達によって設置されていた。

カケルの設置したコイトスへの転移門と違い、こちらは帝国各地への伝令等に使用されている。

ハーミルが転移の魔法陣へ近づくと、転移担当の魔導士と共に、ノルンが彼女を出迎えた。


「ハーミルよ。気を落とすでないぞ。カケルは必ずおぬしの(もと)に連れ戻して見せる。父上は勇者アレルと勇者ナイアにも、早速カケルの捜索をお命じになられた」


ハーミルは、カケルがどこかに連れ去られた、としか皆に伝えていなかった。

そのためノルンは、カケルが魔族あたりに再度拉致されたもの、と考えているようであった。


「気遣ってくれてありがとう……」


少し言い淀んでから、ハーミルは再び言葉を継いだ。


「ノルン、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」


ハーミルの様子に気を利かせてくれたらしいノルンは、傍に付き従う衛兵らに、少し席を外すように告げた。

二人きりになったのを確認して、ハーミルは改めてノルンに、南海で実際に起こった詳細――結社イクタスの存在を除いて――を語って聞かせた。

ノルンの目が驚愕の色に染まった。


「なんと……それでは、カケルは別の世界へと連れ去られてしまった、という事か!?」


ならば、救出しようが無いのでは……

絶句するノルンに、ハーミルが言葉を重ねた。


「ただ一つ、カケルを連れ戻せそうな方法に心当たりがあるわ」


ノルンの目には、ハーミルが何かを思いつめているように見えた。


「宝珠を顕現して、『彼方(かなた)の地』への扉を開くのを手伝って欲しいの」



――◇―――◇―――◇――



2日目―――3



「ケ、ケルベロス!」


セリエが上げた叫び声に、僕の五感が一挙に緊張した。

そしてその直後、霊力の感知網に、強力なモンスターが1頭入って来るのが“視えた”。

以前、ハーミルと共に討伐依頼を受けたヘルハウンドを、遥かに上回るような体躯の双頭の魔犬……!


僕はチラっとセリエの様子を確認してみた。

彼女の顔は、恐怖で引きつっていた。

恐らく獣人としての感覚の鋭敏さで、僕の霊力による感知の網よりも早く、まだ視界に入っていないモンスターの存在に気付いたのだろう。

ともかく僕は、急いで光球の顕現を試みた。

が、やはり果たせない。


「セリエ、逃げろ!」


叫ぶと同時に、僕自身はケルベロスの方に向かって走って行った。


倒せないまでも、囮になって、セリエの逃げる時間を稼がないと!


ケルベロスはうまい具合に、唸り声を上げながら、僕に襲い掛かってきた。

僕は霊力の盾を展開した。

しかし今の微弱な霊力量では、ケルベロスの攻撃を完全に防ぐ事は出来ず、僕は盛大に弾き飛ばされてしまった。

地面にしたたかに打ち付けられ、痛みをこらえながら起き上がろうとしたところに、ケルベロスがのしかかってくる。

そして無造作に、僕の身体に牙を食い込ませてきた。


内臓が食い破られ、骨が噛み砕かれる凄まじい激痛!


僕は薄れゆく意識をなんとか繋ぎ止めながら、右の拳にありったけの霊力を集中させた。

その拳を、自分に食らい付いてきているケルベロスの左側のこめかみに、思いっきり叩きつけた。

ケルベロスが絶叫を上げて()()った。

その隙に、僕はなんとかケルベロスの下から這い出した。

態勢を立て直した僕は、再び右の拳に極限まで霊力を集中させ、それをケルベロスの胸部目掛けて叩き込んだ。



―――グシャ!



嫌な音と感触と共に、ケルベロスの胸元が破裂した。

ケルベロスはそのままゆっくりと地面に崩れ落ち、しばらく痙攣していたけれど、やがて動かなくなった。

それを見届けた僕は……

あれ……?

意識……が……

……

…………

……どれほど意識を失っていたのであろうか?

気が付くと、真上から覗き込むようにして、両目を泣き()らしたセリエの顔があった。

どうやら森を出たすぐの草地に、仰向けに寝かされているらしい。

そして自身の身体のあちこちには、何かの葉っぱが貼り付けられている事にも気が付いた。


薬草かな……?


ぼんやりそんな事を考えていると、僕が目を開けた事に気が付いたのだろう。

セリエが泣きながら抱き付いて来た。


「うわぁぁぁん!」


気持ちは分かるけれど、まだ治りきっていない僕の身体は、少しばかり悲鳴を上げてしまった。


「痛いよ、セリエ……」


しかし彼女は泣きじゃくるばかり。

僕は小さな子供をあやすように、ただ彼女の背中を撫ぜ続けた。



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