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【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする  作者: 風の吹くまま気の向くまま
Ⅴ. 正義の意味
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130. 禁忌


第044日―6



霊晶石に関しては、その出所が少し気になる所ではあったけれど、結局、結界の解除を優先することになった。

もし本当にあの銀色のドラゴンに会えたなら、その時聞けば良い話だ。


僕は改めて、島を覆う結界に意識を集中した。

魔力を用いた結界が島全体を覆い、さらにその外側を、すっぽりと霊力による結界が包み込んでいるのが“視えた”。

僕は“視えた”状況について、その場の皆に説明した。


「なるほどのう。道理でこの5日間、あれだけやってもびくともせんかったわけじゃ」


そう口にしながら、イクタスさんが得心した様子で(うなず)いた。

彼の話によれば、結界解除のため、連日連夜、ミーシアさんの精霊魔法も組み込んで、強力な魔力を島を覆う結界に向けてぶつけ続けてきたのだという。

それがさっぱり効を奏さなかったのは、島全体を(おお)う霊晶石を使用した結界によって、(ことごと)く無効化され続けていた、という事なのだろう。


イクタスさんが声を掛けてきた。


「カケル、外側の霊晶石による結界、解除出来るか?」

「やってみますね」


僕は改めて光球を顕現した、

そしてそれを、霊力による紫のオーラを(まと)った杖へと変えた。

僕はその杖を島に向け、霊力を解き放った。

幸い、島を包み込む霊力による結界は、さほど強力な物では無かったらしく、僕の霊力の直撃を受けると、虹のような(きら)めきを放ちながら消えて行った。

さらに、その内側の魔力による結界に対しても霊力を放とうとした瞬間……!



―――オオオォォン!



島の方角から凄まじい咆哮が響いてきたかと思うと、魔力による結界が勝手に解除されるのが“視えた”。

同時に、見る見るうちに、島を覆い尽くしていた濃霧が晴れていく。

そしてその霧の切れ目から、巨大な銀色に輝くドラゴンが、島から上空へと飛び立ち、こちらへ向かって来るのが見えた。

皆が空を見上げ、身構える中、銀色のドラゴンが念話で語りかけてきた。


『結界を破りしは、汝らか?』


どうやらこの念話は、この場全員の頭の中に響いたらしく、僕以外の皆も、一斉に顔を見合わせた。

イクタスさんが、僕達を代表する形で、上空を舞う銀色のドラゴンに言葉を返した。


「いかにも、我等が破り申した。神竜殿の眠りを妨げた非礼はお詫び申し上げるが、是非お聞きしたいことがあるのだ!」


銀色のドラゴンが念話を返してきた。


『詫びる必要があろうか。むしろ汝らには感謝しておる。しかし、どうやってあの結界を破ったのじゃ? おぬしら人間どもには、霊力を操れる者はいないはず』

「感謝?」


その場にいる誰かが、不思議そうに(つぶや)くのが聞こえた。

結界を破って感謝されるのも不思議な話だけど、上空を悠然と旋回する銀色のドラゴンは、少なくとも、眠りを妨げられた、といった不快な感情とは無縁に見えた。


僕は銀色のドラゴンに呼びかけた。


「ドラゴンさん、お久しぶりです。あの400年前の世界でお会いしたカケルです。すみません、僕なんです。外側の霊力による結界破っちゃったの」

『!? おおっ! カケルか。実に久しぶりじゃ。しかもその物言い、400年前に我と出会った後のカケルという事じゃな? なるほど、守護者の力を持つ者なら、あの程度の結界の破壊、容易(たやす)い事であったな』


僕はおずおずとたずねてみた。


「ところでその……怒ってないんですか?」


銀色のドラゴンが、不思議そうな声音で念話を返してきた。


『何に対してじゃ?』

「結界破っちゃって……」

『我を封じ込めていた霊力による結界を破ってくれたのであろう? 感謝こそすれ、怒る理由は無い』

「封じ込められていた?」


念話を聞く皆が怪訝そうな顔になった。

その皆の疑問に答えるかのように、銀色のドラゴンが説明してくれた。


『数週間前、何者かが400年前同様、いやそれ以上に禁忌に触れんとしているのに気付いてな。この島を出ようとしたのじゃが、いつの間にやら霊力により封じ込められておったのよ』


どうやら霊晶石による結界は、島を守るためではなく、銀色のドラゴンを島から出さないのが目的だったらしい。


イクタスさんが、ポツリと(つぶや)いた。


「魔王エンリルじゃな」


銀色のドラゴンからの念話が届いた。


『魔王と勇者が、また誕生したのは感じておったが、当代の魔王はエンリルと言う者か』

「さよう。魔王エンリルは、恐らく400年前、神竜殿が勇者ダイス殿に助力して魔王バラスを倒したのを教訓にしておったのじゃろう。加えて、恐らく神竜殿の言う禁忌とやらにも関わっておるので、二重の意味で神竜殿が(うと)ましかったと見える」

『しかし、その魔王エンリルとやらが我を封じたとして、いかにして霊晶石を手に入れたのじゃ? あれは、もはやこの世界には存在せぬはず』

「少し込み入った話なのじゃが……」


イクタスさんは、魔王になる前のエンリル、宝珠の顕現者ディース様らと共に、17年前、『彼方(かなた)の地』への扉を開き、守護者と出会い、彼女が霊晶石をこの世界にもたらした事を簡単に説明した。


イクタスさんの話を聞き終えた銀色のドラゴンは、明らかに不機嫌になった。


『……イクタスとか申したな。知らなかったとは言え、いらぬ事をしてくれた。それに、守護者も守護者じゃ。ほいほい、霊晶石を配って回るとは……本当に全てを忘れておるのか、無頓着なだけなのか……』


イクタスさんが素直に頭を下げた。


「申し訳ござらん」


銀色のドラゴンが嘆息した。


『過ぎたことは仕方あるまい。それで、先程我に聞きたいことがある、と申しておったが、もしや、禁忌についてか?』

「いかにも。魔王エンリルは、わしらが17年前に行ったのとは異なる手段で、各地の祭壇の封印を解いておった。儀式に霊晶石を介在させておったのじゃ。わしは、これが禁忌に至る道と推測しておるのじゃが……」

『何!? 魔族どもが霊晶石を用いて祭壇の封印を解いただと? 宝珠の顕現者が、魔族に協力したというのか?』

「宝珠の顕現者については、少し複雑な事情がありましてな。ともかく、始原の地を除いて、他の祭壇の封印は解かれております」

『何という事じゃ! 世界が終わるぞ』


銀色のドラゴンの念話は、焦燥感に満ちたものとなっていた。

構わずイクタスさんは、言葉を続けようとした。


「わしらの推測では、禁忌とは、魔神に……」



―――オオオォォン!



しかし、イクタスさんの言葉に(かぶ)せるように、銀色のドラゴンが、再び凄まじい咆哮を放った。



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