表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする  作者: 風の吹くまま気の向くまま
Ⅰ. 気が付いたら異世界
10/239

10.伝承


第002日―3



ノルン様の自己紹介を受けて、僕も改めて自己紹介をした。


「僕はカケルと言います。一応、駆け出しの冒険者で、その女の子はメイといって……」


と、そこで僕は少し言葉に詰まった。


メイは自分にとって、どういった存在なのだろう?

なりゆきで連れまわしている迷子?

それとも友達?

でも、さっきは命がけで自分を(かば)ってくれて……

なので、僕は一番無難な言葉を選んだ。


「大切な仲間です」


ノルン様が微笑んだ。


「駆け出しとは謙遜も(はなは)だしい。そなた、名のある冒険者であろう? ウルフキングを一撃で(ほふ)ったではないか」


僕はやや(あせ)りながら言葉を返した。


「そ、そうなんですか?」


確かに、自分が何かをした、という感覚は残っている。

ノルン様の言葉と、今の状況から類推すれば、あの人狼――ウルフキングとかいうモンスターらしいけれど――が死んだのは、僕が何かをしたからだ、という事になりそうだけど……

ただ、自分が何をしたのか、記憶に(かすみ)がかかっているようで、全く思い出せない。


仕方なく、僕は正直に説明する事にした。


「実は……無我夢中だったものでして、どうやってそこのウルフキングを(たお)したのか、よく覚えていないんです」


ノルン様が大きく目を見開いた。


「なんと、火事場の馬鹿力みたいなものだったのか? それにしても、遠目にも凄まじい斬撃であったぞ」


どうやら彼女は戦いの最中、馬車の中からこちらの様子を(うかが)っていたらしい。


そうこうしている内に、メイが目を覚ました。


「メイ!」


僕は思わずメイを抱きしめてしまった。


「カケル クルシイヨ……デモ ブジデ ヨカッタ」


腕の中のメイが、少し頬を赤らめて軽く身を(よじ)った。

そんな彼女の姿に、今更(いまさら)ながら少し気恥ずかしさを覚えた僕は、慌てて彼女を解放した。


「ご、ごめん! 嬉しくてつい……」


と、ノルン様が突然立ち上がり、身を強張(こわば)らせるのが見えた。

僕は彼女に声を掛けてみた。


「どうしました?」

「何者かが、こちらに向かってきておる」


警戒心を(あら)わにしたノルン様は、どうやら街道の向こうに視線を向けているようであった。


まさかさっきの巨狼達が、増援を連れて戻って来たんじゃ……


僕も慌てて立ち上がり、ノルン様の視線の先に目を向けてみた。

巨大な戦斧を背負った、2m近くある戦士風の男が一人、街道沿いをこちらに向かって歩いて来ているのが見えた。

どうやら向こうも僕達に気が付いた様子であった。

思わず身構えてしまった僕の視界の中、しかしその男の顔には、敵意など微塵も感じさせないような笑顔が浮かんでいた。

やがて僕達の傍までやってきたその男は、周囲をきょろきょろ見回しながら、おどけた感じで口を開いた。


「よっ! こりゃまた派手にやったな」


しかしノルン様は、警戒心を(あら)わにしたまま、その男に問い掛けた。


「……おぬしは何者ぞ?」

「わしはドワーフの戦士ガスリン。ちょいと所用で、アルザスの街に向かっていたところよ」


なおも警戒の色を隠さないノルン様をよそに、ガスリンと名乗ったその男は、右半身が吹き飛んだウルフキングの死体に視線を向けた。


「ぼうず、おまえがこいつをやったのか? 大したものだな!」


僕はチラっとノルン様に視線を向けた。

そして彼女が軽く(うなず)くのを確認してから、自分が覚えている範囲内で、僕達の事情について簡単に説明した。


「ほう……では、襲撃されている馬車の様子を見に来て、よくわからん内に、ウルフキングを倒してしまったってか?」


ガスリンさんは心底面白い話を聞いたかのように、ひとしきり豪快に笑った。

そして、ふと真剣な表情に戻ると、ノルン様に話しかけた。


「しかし、なら姫様よ。そのキラーウルフ――どうやら、あの巨狼もまた、モンスターだったようだ――共が増援を連れて舞い戻ってくる可能性もあるんじゃないかい?」


ノルン様が(うなず)いた。


「おぬしの言う通りだ。兵らの遺体はあとから回収させるとして、ここは一刻も(はよ)うここを立ち去り、街に戻らねばならぬ」

「なら急ごう……とその前に」


ガスリンさんが、僕の方に向き直った。


「ぼうず、折角(せっかく)倒したモンスター共の魔結晶、回収していったらどうだ?」

「魔結晶……ですか」


僕は固まってしまった。

選定の神殿で魔結晶の話は教えてもらったし、イリアが回収(第4話)するのも目にはしたけれど、実際の取り出し方が分からない。


「なんだ、そんな事も分からんでは、冒険者としてやっていけんぞ」


ガスリンさんは少し(あき)れたような顔をしたけれど、僕に実際のやり方を教えてくれながら、手早くモンスター達から魔結晶を抜き取り始めた。

結果、巨大なウルフキングの魔結晶1個と、キラーウルフの魔結晶10個が、僕のリュックに収められることになった。

僕はガスリンさんに頭を下げた。


「手伝って頂きましてありがとうございます。お礼をしたいんですが」

「お礼? ガハハハ、魔結晶の抜き方教えただけだぜ? じゃあ、さっきの授業料と、ここからアルザスの街までの護衛料って事で、キラーウルフの魔結晶1個だけ貰っておこうか」


僕は、キラーウルフの魔結晶を1個差し出した。

それを受け取りながら、ガスリンさんが口を開いた。


「出発前にもう一度だけ、周囲の状況を確認して来るから、お前達は少しここで待っていてくれ」




---------------------------------------


ガスリンは、他の三人から少し離れて周囲を警戒する素振りを見せながら、耳元のピアスにそっと手を添えた。


「現場の処理は無事終了した。『力』が振るわれた事には誰も気づかぬはずだ」


---------------------------------------




「しかしなんだって第一皇女様ともあろうお方が、そんな少人数で移動していたんだ? 帝都に戻るんなら、転移の魔法陣使えば、すぐなんじゃねえのかい?」


アルザスへの道すがら、ガスリンさんがノルン様に話しかけた。


「……こちらにも色々事情があったのだ。しかしあのタイミングで襲撃を受けるとは……もしや、情報そのものが罠であったのか?」


ノルン様は思案(しあん)げに目を細めた。


「とにかく、まずはアルザスの街へ急いで戻ろう。知事のリュート公と善後策を相談したい」

「アルザスの街からなら、転移の魔法陣で帝都にも一瞬で戻れそうですしね」


相槌がてら、二人の会話に口を挟んだ僕に、ガスリンさんがおどけた雰囲気で話しかけてきた。


「ほう、ぼうず、魔結晶の取り出し方は知らんくせに、転移の魔法陣の事は知っとるとは、どこぞのボンボンか?」


ボンボンって……

僕は苦笑しながら言葉を返した。


「違いますよ。ただ昨日、勇者の皆さんに、選定の神殿からアルザスの街まで転移で送ってもらったので、知識として知っているってだけの話ですよ」


僕の話を聞いたノルン様が、怪訝そうな表情になった。


「勇者とな? 昨日、勇者ナイアは選定の神殿におったのか? 彼女は確か数カ月前に、北方に向かったはずだが……」


勇者ナイア? 

昨日、勇者の試練を突破したと話していたのは、確かアレルと名乗る男性だった。

彼の仲間達にも、“ナイア”という名前の人物はいなかったはず。

もしかすると、あの場にいなかっただけかもしれないけど……


僕は改めて、昨日の出来事について、ノルン様とガスリンさんに話して聞かせた。

僕の話を聞き終えたノルン様の顔に、驚きとともに困惑している感じの表情が浮かぶのが見えた。

僕はおずおずとたずねてみた。


「アレルさん達の話、何かまずかったですか?」


ノルン様が首を振った。


「いや、まずくはない。勇者の試練を乗り越える者が現れること自体は僥倖(ぎょうこう)だ。しかし、それが二人目となると……」


どうやら神殿で出会ったアレルさん以外に、ノルン様が口にした“ナイア”という勇者が別に存在するらしい。

でも勇者が二人いれば、それだけ魔王とやらを倒しやすくなりそうな……?


「ガハハ、ぼうず、そこの姫様は、恐らく伝説の事を気にしているんだろうよ」

「伝説ではない。古き時代より伝承された、かつて何度も起こりし史実だ」


ノルン様はガスリンさんにそう言葉を返した後、僕にその“伝説(史実)”について、簡単に説明してくれた。


古来より、魔族の側に魔王が現れると、必ず人間の(がわ)にも勇者が現れ、闇を打ち払ってきた。

ただ、運命の悪戯か、時折、複数の魔王、複数の勇者が同時代に現れる事がある。

その場合、『大いなる力の干渉』が行われ、必ず魔王も勇者も最終的には1人ずつになり、最後の決戦に臨む事になる。

ちなみに『大いなる力の干渉』が具体的に意味するところは、伝承の(かすみ)彼方(かなた)に隠され、誰も知る者はいない……


どうやら、ノルン様が懸念している事が、『大いなる力の干渉』とやらである事は理解出来た。

しかし、そもそも魔王も勇者も、今の僕にとっては、あまりピンとこない話題だ。

ガスリンさんもあまり関心が無い様子であり、自然と話題は別へと移って行った。

ちなみにメイは相変わらずぼーっとした雰囲気のまま、僕達の話に加わる事も無く、ただ黙々とついてきている。



こうして僕達は、西日の中、アルザスの街へと戻って来た。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ