09 柴犬の戸締まり
強烈なゾンビビスエキスにより、学園は阿鼻叫喚の地獄と化してしまったのであーーった!!
そこかしこにエロティック・グロ・性欲モンスターが這いずり回る!!
エロティック・グロ・性欲モンスターがなにかと言えば、それは説明するまでもなく、中学2年生男子の夏休み以降のことだ!!
中学2年生の夏休み以降とはなにか!?
それは思春期に入り、下の毛も生え始め、修学旅行で皆と入る大浴場で、「恥ずかしくてイヤだなぁ」なんて考えていた中1の頃の初々しさは消え、ちょっと覚えたての性的単語の連呼だけで大興奮し、真面目に図書室に行ったかと思えば、読むのは保健体育系の本、もしくは大辞典の性的単語を調べてはマーカーで塗りたくり、朝起きてから夜寝るまで、そして寝ている間もエロエロな妄想に耽り果て、エロ本コーナーのある古本屋を聖(性)域と呼んではばからぬ、寝ても覚めても女体の神秘にばかり全集中してしまうような、今流行のチェンソー男もビックリのスケベッティなMAMONOなのであーーる!!
スケベによるスケベのためのスケベイしか考えられなくなった哀れなる存在!
そして、そんなスケベッティはやっぱり感染する!
覚えているだろう! あの転校してきたばかりのウブな少年のことを!
なにも知らない彼を、連休となる週末に誘い出した悪ガキども(エロティック・グロ・性欲モンスター)!
秘密基地と称した、高架線の下の河川敷の小汚ねぇ小屋へと連れ込む!
そして、河川敷の草むらで見つけたエロ本を披露し、「親や先生にはチクるなよ」と、秘密を共有することで悪い友情を深め合い、鼻の下を伸ばして、みんなで読み耽ったあの秘密の日!
んでもって、週明けには少年は一皮剥けて、とんでもねぇスケベッティな変態となってしまっていたじゃあないか!
あれだけ親御さんは「悪い友達なんて作るんじゃないよ!」と警告してくれていたのに、もはや時は遅し!
そう! そんな風に、週末にスケベッティってのは、酷く伝播して拡散されていくのだ!
これで解って貰えただろう! 週末……もとい! “終末のスケベッティ”とは、まさにゾンビビスのことなのであーーる!!
そして、ゾンビビスの群れに囲まれたキジシロッティとコリッティはたくましくも生きながらえていた!!
なぜ生きながらえていたのか?
そりゃヤラれちゃったら物語がそこで終わりだからに決まっている!!
みんな大好きM16自動小銃を右肩に掛け、左手にはウージー短機関銃を持ち、どこぞの復讐軍人よろしく二挺持ちでぶっ放す!
「うおりゃあー!!!」
バラバラバラバラッ!!
ミリタリーマニアからすれば、雌雉ごときがそんな撃ち方するのはリアリティがないとかかんとかクレームが来そうだが、これはキジシロッティが実現させた世界であるがゆえに、そんな細かいことはどーでもいいのであーーる!!
「キジシロッティ様! 弾薬ですわ!!」
顔に耐熱ドーランを塗り、穴の空いたヘルメットを被ったコリッティが弾帯を手渡す!
補給している間にも、ゾンビビスたちは群がりーのなのだ! 童貞はしつこいのよ!!
そして童貞どもがなんで襲い掛かるのか!?
雌雉でも雌犬も、オニャノコならとりあえずオーケーだからだ!!
古い文献に、漁師はエイで✕✕✕したとか、馬とか犬とか猫とかで✕✕✕したとか、果ては愛車と✕✕✕したとか、まさに畜生な具合な男ども!
とどのつまり、繰り返すが、そんなスケベッティなMAMONOこそがゾンビビスなのであーーる!!
「コラーーッ!!」
血相を変えたゴッデムッティが空を飛んでやってくる!
「なによ! こっちは…!」
「アー」
ゴッデムッティに文句を言おうとしたキジシロッティに、ゾンビビスの1体の魔の手が迫った!
「チッ! 邪魔よ!」
ズガッシュ!
「ンガガッ!」
キジシロッティは、ゾンビビスと化した元父モロハラッティの頭にナタを振り下ろす!
肉親だからって関係ない!
血も涙もないのが畜生だ!!
「はー。返り血ウッザ! …見てわかんないの! 今ちょー忙しいんだけど!」
「なにが忙しいだ! イケメソ男子と結ばれんかったら世界は終わるんだぞ!」
「こんな状態でどうやって結ばれろって言うのよ! もうすでにゲームオーバーじゃないの!」
こんな会話をしている余裕はなかろうと思われるかもだが、そこはコリッティの適切なサポート……手榴弾投げ等のお陰で成り立っているのであーる!
爆風がヤベェーので、キジシロッティとゴッデムッティが大声をだしているわけではなく……まあ、実はそんなこと関係なく怒鳴りあっているわけなのであーる!
「ううむ! しかしてそんなことはないぞ!」
「なにがよ!」
「忘れたとは言わせん! 性ウマシカ学園の法則その④に『卒業式までに、校庭の柳の木の下で、白い着物の女を目撃すると永遠に結ばれるという伝説あり』っていうのがあっただろう!」
「そうだっけ?」
「さすが3歩歩けば忘れる鳥類だな! しかし、今はそんなことはどーでもいい! キジシロッティよ! ちょうど貴様が立っている場所こそが、なにを隠そう校庭にある柳の下なのだ!」
「な、なんですって!?」
そういや、バカにデッケー柳の木を背にして戦っていたのであーった!
なんともご都合主義である。
「でも、白い着物の女だなんて…」
「あ…。キジシロッティ様…」
「え? あ、アタシ?」
ゴッデムッティはコクリと頷く。
そう! なにを隠そう、いまキジシロッティは白装束だったのであーーる!!
手に銃を持っているのだからてっきり迷彩服だと思いこんでいた、安易な想像力しか持たぬ読者諸君には大いに反省してもらいたい!!
そう! 今話では、今の今までキジシロッティの服装は描写されていないではないか!!
決死の覚悟を持った超日本人ならば、丑の刻参り衣装!
白装束に、頭に2本のロウソクは常識中の常識なのであーーった!!
「でも、結ばれるって誰と!? 雄はアンタ以外、みんなゾンビビスになっちゃったのよ!?」
「確かに! それに俺は神故に恋人枠にはなれん!! あとは…」
ゴッデムッティの視線を感じ、コリッティは頬を紅く染める。
「雌犬よ?」
「その卑猥な感じはアリだ! スケベッティ的な感じがする!!」
ゴッデムッティは親指を立てる。
ぶっちゃけ面倒になったんじゃないかと、キジシロッティは疑った。
「最近は百合展開がもてはやされている! 『畜生転移』も時代の流れに乗らねばならん! それ故に認めよう! 心がイケメソならば、性別が雌でもイケメソで合体してもよい! スケベッティをしてもいい! そこに愛があればなんでもいい!!」
「ええーっ!?」
キジシロッティはびっくらこいているが、度重なるこんなぶっとんだ展開には、『畜生転移』に重度に慣れ親しんだ中毒症状気味の読者諸君は、ごく当たり前のように受け入れて下さるだろう!
「キジシロッティ様。私は一緒にこの危機を乗り越えていく間に、自分が自分でなくなるような不思議な感覚に囚われておりました。そしてそれがなんなのか。いま、学園長のお言葉でそれが確信に変わりましたわ」
コリッティはヒロインらしく、キラキラとした少女漫画にありがちの輝く瞳でキジシロッティを見つめる。
「これは愛! 私の溢れんばかりの愛を受け取って下さいませ、キジシロッティ様! そしてスケベッティ(18禁)しましょう♡」
告白タイムである!!
しかし周りは地獄! ゾンビビスが蠢き、ゴッデムッティがガッツポーズしている地獄!
ムードもへったくれもない!
さらに付け加えるなら、キジシロッティは白装束に重火器を持ち、コリッティは軍服だ!
誰がどう見ても、これが悪役令嬢の学園物恋愛のスケベッティがテーマだとは誰も思うまい!
しかーし、もはやそんなことはどーでもいい!
必要なのは愛!
愛だけなのだ!!
愛以外は汚物と言っても過言ではない!
キジシロッティは考える。男がいない世界、そんな世界にもはや未来はない。
最近じゃ、刀や馬を戦艦を擬人化して、薔薇展開とか百合展開とかにもっていくという需要もあるではないか。
んならば、雌雉と雌犬の畜生百合があってもいーのかも知れない。
「接吻だ!!」
ゴッデムッティの合図で、2体の畜生が身を寄せ合う。
その間のゾンビビスはどうするのか?
そりゃゴッデムッティが殴り飛ばすに決まっている! 彼は武神だ! 百合を邪魔する無粋な輩は鉄拳制裁だ!
そして2体は熱いヴェーゼを交わす。
中身は畜生だが、見た目は美少女同士だ。
絵面的に美麗であれば許されるルッキズムな現代。
いやでも本能には抗えまい。
しかし、警鐘を鳴らすために敢えてもう一度言おう。
中身は雌雉と雌犬だ!!!
「よかった! これで世界は救われ……なにぃ!?」
しかーし、ゾンビビスの行進はまったく止まらない!
むしろ勢いを増している!!
百合尊しじゃないのかと思われるかもだが、皆様は肝心なことを忘れている!!
雄が百合を尊しとするのは、あくまで自分が“観察者”として存在することができるからだ!!
大好きな二次元キャラ。中には二次元でも関係ないと超越した愛情で受け入れる猛者もいるが、大抵の者たちはそのアニメの世界に自分は入れないという制限に囚われてしまう!
しかーし、その二次元キャラには素敵な恋愛をして幸せになって欲しい。物語を通して喜怒哀楽を経験し、登場人物に自己投影した読者は皆がそう思うに違いない。それは子供の幸せを親心にも似た感情だろう。
だが、二次元のイケメソやましてやモブ男と彼女が付き合うなんて耐えられない(好きなアニメのヒロインが非処女だった時に荒れるのもこういった心理があるのが原因だ)!
うーん、困ったぞ。
そして思い当たるのが、推しほどじゃないけれども、同じくらいは好きな“準”推しである。もちろんそれも女の子だ。
はて、待てよ。
なら、推しちゃんと凖推しちゃんが付き合ったら…推しちゃんもハッピー、凖推しちゃんもハッピーじゃね?
不思議と嫉妬心は湧いてこない。
なぜならば自分の推しキャラであるし、なによりも清い女の子同士のウフフ、キャッキャの恋愛が美しくないはずもないからだ。
嗚呼! それはまさに幼子のような無邪気な戯れを見る微笑ましさすらある!
そんな中でエチエチな展開……これは天使の営み!
それを自分が“観る”背徳感と幸福感が渾然一体になった込み上げるエナジー!
場合によっちゃ、百合のふたりの間に挟まれる自分を妄想したりもするが、それを公に口にするのは憚れるので紳士の嗜みとして夜のオカズにするだけにして、公の場では体面を保つため「百合尊し!」と言っておこう!
よーし、さっそくネットで共感する人たちの二次創作探しちゃうぞ〜(なろう小説の作者や読者ならばご理解いただけるだろうが、これが絵描きや小説書きといった創作活動の走りになる場合も多々ある)!
そんなわけで、ゾンビビスはそんなことでは止まらない!
「ユ、ユリモエ〜!」
そう! これは百合萌!
百合展開となったキジシロッティとコリッティをもっとよく“観る”ために動物園にパンダを観るために殺到する民衆の如く、より一層勢力を増して襲い掛かってきたのであーーる!!!!
しかしゾンビビスの小さな脳味噌の中の米粒より小さな理性は、「俺は至って冷静だ」と思い込んでいた!
それはデマ情報で踊らされ、マスクや消毒アルコールやトイレットペーパーを買い占めが起きた時、「ホント、民衆って愚かだよな。買い占めなんてするなよ」とか言いつつ列に並び、「デマには惑わされてないけれど、買い占められたら困るからここで買っておこ」とか言い訳している、そんな“自分はデマに流されていない”と思いこんでいる流されている人たちと同じだった!
いや、もう並んでる時点でデマに踊らされてますから!!!
こうなったら後の祭りである! いかにマスメディアが正しい情報を訂正して流し始めようと、「隠蔽している!」「情報操作だ!」とレッテルを貼る者まで出てきて、余計に混乱は増すばかり!
悲劇! まさに悲劇!! まさしく悲劇!!!
あーもうなにが正しいかわからない!
でも、百合は尊いから集まろう!
皆が集まっているんだから間違いない!!
皆で集まれば怖くない!!
これこそが、ゾンビビスのムーブメント!!
「雌雉と雌犬? 何を言ってるんだお前は」ということに気付かない思考停止!
ああ、ファクトチェックを要求する!!
「寄るな! 空気読め!!」
さしものゴッデムッティも圧倒的人数差に、その額に冷や汗を浮かべる。
「ああ、このままじゃ見世物になってしまうわ!」
そう。観る側は観たい欲求でいいんだが、観られる側はそうは思っていない!
恥ずかしい秘め事は隠されてなんぼである!
そういった配慮に欠けるのは、二次元に実在性や人格を認める人々はどう考えておられるのだろうか!!
「こ、このままじゃ…」
服を脱がされ始めるコリッティ。この小説は18禁じゃないのに(あらすじとかに18禁とか書いてあった気もしないでもないが)! 大ピンチであーる(そういう問題かーい! ズコーッ!)!
「あ、あれを見て!」
キジシロッティがゾンビビスの群れの先、光り輝く柱を指差す。
「ま、まさか…」
「そんなことが…」
コリッティもゴッデムッティも、びっくら仰天して口元を押さえる。
コリッティもゴッデムッティも、びっくら仰天して口元を押さえる。
光の柱と共に昇ってきたのは、イヌジロッティだったのだ!!
「グルルルルッ!!」
しかも例のごとく、怒り狂ったイヌジロッティだ!!
彼は雄なのにゾンビビスにはならなかったのだ!
なぜか!?
それは柴犬は最強だからであーーる!!
そしてイヌジロッティの手には、あの大魔神の陰嚢玉が握られていた!
「グルルルルッ!!」
そして振るう!
無情な暴力を!!
ズコゴーンッ! スゴゴーンッ!
一撃で! 一気に! 何十匹も何百匹も吹き飛ばされるゾンビビスの群れ!!
口で言ってもわからんヤツにはこうだ!!
悲しいけれどこれって暴力なのよね。
命乞いするゾンビビスも現れるが、そんなの関係ねぇーとばかりに鉄球を振るい続ける!!
古来より、番犬として柴犬は活躍した。
うっかり飼い主が戸締まりを忘れた時も、泥棒を見つけて吠えかかり、事なきを得たという話も枚挙にいとまがないような気もしないでもなーーい!!
つまりここでサブタイトル回収である! 若干無理矢理感がある感じもしないでもないが、柴犬は可愛いので許されるのだ!!
可愛い柴犬は最強なのであーーる!!
「結局はこういうオチで終わるのか……」
ゴッデムッティの呟きに、キジシロッティもコリッティも激しく同意したのであーーった!!