執事イリア
side カーク
執務室のキングサイズのデスクは、いつも辺境伯が 手にしている書類以外、何も置いてなく シブい光沢を放っている。埃1つない 落ち着いた雰囲気の執務室は、辺境伯の 有能さを、鏡の如く写している。
「カーク…お前さぁ…、抜け出すの ムリじゃね?!」重厚感あふれる、ソファに腰かけ 肉の串焼きを、キンキンに冷えた ビール(エールではなく)で流し込みつつ、スコットは ため息をついた。
スコットは A級冒険者パーティ[恒久平和]メンバーだ。そのパーティリーダーは、カクタス・レッド・クルーズ 辺境伯爵その人である。
辺境伯は、王族の次に 高位の貴族であるし、実際 現国王は、カーク(カクタスのニックネーム)の腹違いの 弟である。
先王が、まだ即位前に娶った母親は カークと弟のジミーを産むと、その10年後行方不明になった。カーク12歳 ジミー10歳の正月明け、1月3日だった。父親は、その年の秋 王位を継承し 王妃を娶る。カークは、7歳から通っていた学院の 飛び級制度を 利用しつつ、15歳で王都魔法大学院を卒業 冒険者となる。王妃は、二卵性の双子を産み、ジュピター王子と コーデリア王女を育てていた。カークは、弟のジミーを 隣国の叔父の跡取にしてもらい(母の兄で 子どもがいなかった)、母親を 探す為に、冒険者になったのだ。
「王族や貴族なんぞ、伏魔城で 暮しているんだ。今も昔も、一番弱いのが 狙われる。オレはいつも 後悔ばかりだ」持っていた書類を、左の引き出しに入れる。それを 待っていたように、新しい書類が、デスクに現れた。
「いつも 不思議だが、そのデスクはマジックアイテムなのか?書類が 勝手に出てくるよな?」スコットは、カークの話しを 無理矢理方向転換させた。
「ああ…コレは、執事長セバスチャンの仕業さ!あいつ、オレの書類に埋もれる姿が めっちゃ嫌らしくて、魔法大学の錬金術クラブに このデスクを創らせやがった!」何の話しをしても、今のカークは、愚痴になるんだろうなぁ〜と、スコットは ソレも、キンキンのビールで 飲み込んだ。カークさんよ…お前、その執事長の 目を盗んで、この屋敷を飛び出そうと 悪巧みしてんだぞ?…スコットは、今日 何十数回目かのため息を、又々 キンキンのビールで飲み込んだ。
執事長セバスチャンは、カークとスコットに 紅茶を持って来た。コンコンコン3回ノック(2回ノックは トイレノックといい、幼稚園の入園テストでは バツになります。)して、「入れ」の指示を確認し ドアを開けた。
「旦那様、ワタクシは 午後より、有給休暇を頂く予定です。3日と半日 お暇を頂く予定です。」執事セバスチャンは、紅茶を 1メートル上から、カップに注ぐと 配膳し、イソイソと 部屋から出て行った。
「ありゃぁ!どういう風の吹き回しだ!?」スコットは、本当に驚いた。しかし、もっと びっくりしたのは、カークその人だった。固まっていた。
「オレは、紅茶は 飲まないんだ!。」一瞬で立ち直って ハッとしたカークは 叫びぶと、
「時間が勿体ない!直ぐ 出立するぞ!!」二人は、大急ぎで 辺境都市から飛び出した。
セナが 突撃消えてから もう一ヶ月。カークは パーティ仲間を、隣の大陸まで 迎えに行く。そして 辺境伯として出した セナ捜索の依頼を、パーティとして受ける。世界中で一番信頼出来る冒険者達に 捜索をまかせる為だ。
執事長セバスチャンは、3日と半日時間をくれた。多分 無理矢理スケジュールを やり繰りしただろう!そして、セバスチャンとて 出来る限りの事を セナの為にするハズなのだ。
3日と半日しかない。いや…3日と半日あれば、ダンジョンだって 攻略出来る!
「スコット!マジで ぶっ飛ばす!!」二人は辺境都市から離れると 秘密基地まで、一瞬で 転移した。
side 冒険者パーティ パキラ
A級冒険者パーティ [パキラ]の、現リーダー魔法剣士クリナムと 剣士アマナイメージズは、愛馬に ヒールをかけ続け、出来る限り ぶっ飛ばして、王都を目指していた。王都の クールズ辺境伯邸にいる、前辺境伯夫妻を 迎えに行くのだ。
「昨日、姫に会ってきた。セナ様の 捜索状況を報告したんだ。姫は このままでは、壊れてしまう!。」クリナムは、日頃から真っ白い顔色を 青白くして、痩せ細った顔を顰める(しかめる)。
「実家の両親では、全然説得出来ないネ!やっぱり、鬼の舅と 姑セットじゃないと、姫は 説得出来ないネ!」アマナイメージズは、長くため息を吐いた。
彼女達は、15歳で 花嫁学校でもある、王都魔法学校を 姫主席、クリナム2位 アマナイメージズ3位で卒業。女の子だけの 超アイドル冒険者になり、A級合格 最短記録保持者となった。つまり、親の小言など どこ吹く風の、超オテンバ3人組みなのだ。中でも、一番美人で ソコら辺の、男など ドリブルして蹴飛ばしてた姫。その姫が、次男の失踪から 一ヶ月、食事も殆ど取れず 憔悴してしまっている。
婿殿の言うことも 両親の説得も、仲間の言葉も 全くうわの空。とにかく 食べないと、笑わないと 人はこわれてしまう!
姫を救わないと、セナ様は 絶対戻れない!二人には 確信があるのだ。あんな異常な 失踪の仕方、信じられない。両親と 執事イリアの、ホンの目の前、何歩か前の 穴に吸い込まれて消えるなど。
二人は、同じ事を考えていたのか 同時に、左右に首を振ると 愛馬のスピードをあげた。
転移の魔法が使えたら!今回の 事件は、絶対いい方向に 解決してみせる!
そして、転移のマジックスクロールを 絶対手に入れる!ダンジョンを ぶっ壊しまくる!
二人が馬を ぶっ飛ばす表情は、マワリには モンスターより 恐ろしくみえただろう。
side 執事イリア あの瞬間
「チッ!」執事イリアは、上品に 舌打ちをした。ソレを観ていた 神界の父親も、全く同じ様に 舌打ちをした。《何を モタモタしておるのだ!セナ様は 命の危機なのだぞ!!嗚呼 儂も、人界にユカネバ!》
執事イリアは、女神達も ソノ美しさに、俯く程の 眉目秀麗な天使だった。天使長である父親から 密命を受け、嫌々人界に転送されて来た。
砂の大陸に誕生する 二人の兄弟を、勇者として 育てる。一人前の勇者になれるよう また、勇者として 活動出来るようサポートするのだ。
辺境伯家に誕生する 兄弟が、無事誕生し スクスク育つのを、日々 24時間身守り続けていた。ナンなら 両親より、誰より 身近で。ペンギンが 卵を温め、ヒナを育てるように。
執事イリアは、常日頃 とても無口だ。論理的思考と 神ワザな仕事振り(神格なのだし)、隙ナドあるハズも なかった。なかったのだ。
なのに突然、サポート対象の セナ様が、目の前で消えた!奥様ではなく、最後の一瞬 セナ様は、自分と目を合わせた!
消えた瞬間、天を仰いだ!本当の意味で 神界を仰いだ!…が…、、天使長である 父親は、人界には 手が出せない。それゆえ 自分がいるのだ。
セナ様に渡してある、神器の アイテムBOXや魔剣グラムは、セナ様のご無事を示している。今は、ご無事だ。しかし 次の瞬間は わからないのだ!何も出来ない 無力感に、自分にイライラするっ!
執事イリアは、神界でも 人界でも、コレ程動揺したことはない。
ワタクシの セナ様。ワタクシの ヒース様。二人は、二人の笑顔は 執事イリアの全てになっていた。
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