猫の瞳【短編ホラー】
猫を飼っていた友人から聞いた話だ。友人は猫を溺愛しており、猫も友人について回り、布団の中にもよく潜り込んでいたそうだ。だが、ある日の深夜。
「……ん?」
季節は冬。凍えるような風で目が覚める。暗闇の中でうっすらと室内を見渡すと、寝室の扉が開いていた。閉めたはずなんだけどな。
「ちょっとごめんよ」
腕の中で眠る猫を避けて、布団から出る。猫は起こされたことに抗議するかのように、一声鳴くと、体を伸ばしてついてくる。
「ちょっと閉めるだけだ」
その光景に微笑ましいものを感じた直後、のどの渇きを覚える。ついでに水でも飲んでおこう。猫を抱き上げ、キッチンで水分補給をし、猫にも水を飲ませ、寝室に戻る。扉を閉める直前。
「シャー!」
「な、なんだ」
猫が威嚇の鳴き声を上げる。なんだ急に。と、その威嚇先が背後に向かってのものだと分かり、背後を振り返る。だが、誰もいない。電気のついていない廊下は真っ暗で、人はいない。
「……やめてくれよ」
怖くなり、そそくさと寝室の扉を閉め、布団の中に潜り込む。
「よしよし」
落ち着かないのか、布団の中から顔を出して周囲をきょろきょろと見渡している。
「何なんだよ……」
やがて猫も大人しくなり、再び寝入った頃……
「……?」
再び、寒気を感じ、目が覚める。部屋を見渡すと。
「なんで……」
扉が、開いていた。間違いなく閉めたはずなのに。猫も布団から顔を出し、開いた扉に向かって威嚇している。
「………」
明かりを点けようとしたが、月明かりが差し込み、猫の顔が照らし出される。その一瞬、猫の瞳に映ったものに背筋が凍る。
「っ!」
とっさに明かりを点け、開いた扉を見る。そこには、やはり誰もいない。でも、今……猫の瞳に映ったのは……人だった。誰かが、あの扉の前に立っていた。でも、いない。猫は今も扉の前を凝視している。恐る恐る、その瞳を覗くと……
「……う、うあああああああ!?」
猫の瞳には、笑う男の顔が、映っていた。
完