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仮題「廃城に歌う抜剣鎮魂歌」、古試作、三人称、ハイファンタジー、ダークシリアス

「死んだらしまい? そりゃ素人の理屈だ。聞けねえ聞けねえ」

――――末番騎士『戦争職人』ビリー・ヴァン・フェンドリクス



 ◆◆◆



 さ、物語ろ。三百年越しの逆襲を。報復の物語を。


 伝説のジュリオン騎士団が、いかにして『怪物』と戦い、敗れたのか……それは生き残りの誰もが知るところ。彼ら彼女らの勇気は、滅びゆく我らが誇りを確かめる拠りどころ。


 けれど、悔しかろ? 救いが欲しかろ?


 彼ら彼女ら十二人の、敗北のその先を聞きたかろ?

 

 であれば、さ、物語ろ。見事痛撃で報いたジュリオンの伝説を。


 それはとてもとても昔のこと。世界にまだ闇が深かったころのこと。おぼろげで、おおらかで、あたたかで……世界はまるでここのようだった。そこかしこに暗がりが残っていた。幻想が息づいていた。


 不便な時代ではあったろさ。精霊が好き勝手振る舞っていたのだから。


 危険な時代ではあったろさ。魔物がそこかしこうろついていたのだから。


 だから、ま、『怪物』は望まれてやって来たのだね。疑いようもなく。往々にして破滅というやつは救済の顔をして立ち現れるもんさね。清く正しく見目麗しく、ね。気づいた時にはもう遅い。


 『怪物』。


 それは輝ける存在。驚嘆すべき畏怖すべき存在。息を吸うたびに闇を喰らい、息を吐くたびに光をまき散らした超越の者。人も獣ものべつまくなしに虜囚とし、精霊も魔物も諸共に支配した異常の者。その姿は語ることも憚られる……ああ、讃美歌はよしとくれ。闇がぺちゃくちゃと穢れちまう。


 そら、禊ぎな。口をつぐんで目を閉じて、耳を塞いで独りになって。


 そして想いな。エルフが森の奥に潜んでいた頃を。ドワーフが坑道で土に汚れていた頃を。ケットシーが夜に遊び、ゴブリンが群れを成し、ドラゴンが咆哮を上げていたその頃を。


 見えたかい? 聞こえたかい? それが失われた世界だよ。


 今や世界は乱暴に照らされていて、何につけ薄っぺらくて、ありとあらゆるものが児戯に等しく成り果ててしまった。月はただの白い真ん丸に、海はただの広い通り道になってしまった。舌をとろかす酒と頭をとろかす薬とが飲まれ呑まれて、もう、物語の居場所など目蓋の裏にしかありゃしない。


 ああ……暗き影。深き闇。遠き黒。畏き夜。


 それらに焦がれる者すら今は少ないのだから。


 抗ったのだよ。当時の人々は。『怪物』の正体に気づくなり、剣を手に取る決断をしたのさ。エルフもドワーフもケットシーもね。他の多くの魔物と同じくゴブリンはもう滅んでいたし、他の多くの幻獣と同じくドラゴンも『怪物』の愛玩動物に成り下がっていたけれど、人々は彼らの分もと奮起したのさ。


 けれど、ねぇ……全ては遅きに失したね。悲しいまでに。


 戦争になったその時には、もう、『怪物』の勢力は圧倒的だったもの。世界には光が満ち満ちて、夜は蒸発し、まさに湯の沸く時間ほどの夕闇が訪れるのが精々という体たらくだったもの。


 それでも人々は戦ったのさ。誇らしく在るために。意味ある生と死を謳うために。己の内に孕み育んだ暗黒を全うする、そのために。


 ジュリオン騎士団はその最精鋭さね。


 十二着のロング・サーコートを揃えた英傑たちさね。


 彼ら彼女らは希望だった。他の全戦力を囮にして、たった十二人きりで、『怪物』の巣食う王城へと攻め入ったんだ。人類の総意でもって意地を見せたのさ。


 結果は敗北だよ。そりゃあね。


 けれど、間違いなく『怪物』に届いたのさ。その勇敢なる決死行は。


 なぜって、我々がいる。我々が生きている。息も絶え絶えとはいえ、暗闇を抱いて、こうして生き残っている。『怪物』の思惑が外れた証左さね。いわば我々はジュリオンの子なんだよ。誇り高くもね。


 だから、さ、物語ろ。敗北の先の逆襲を。


 確かに人類は敗れたし、ロング・サーコートは一着とて王城の外へ戻ってきやしなかった。万骨枯れ果てて『怪物』ぞ驕り輝くというやつさ。またぞろピカピカと安っぽくね。


 けれど一つの秘話がある。


 ロング・サーコートの内の一着が、持ち主の生前に譲られたという秘話がね。


 嘘じゃあないよ。心の闇に賭けてもいい。真実として、その一着は譲渡された。託されたのさ。窮地にあって、この者ならばと見込まれて。


 そうさ、これは十三人目の物語。


 その少年は、騎士じゃあなかった。兵士としても三流以下の、不器用で無様な少年さ。遠い遠い異国から流れてきたという、常識知らずの異邦人さ。あるいは忌まれ人だったのかも。何せ誰も彼の正体を知らぬ。だからこそ伝承されなかった。記録されなかった。


 荷運び従卒だったんだ。その少年は。


 剣も魔法も使えないそいつはね、騎士団のための水と食料を運ぶという、ただそれだけのために死地へ赴いたんだよ。自ら望んでなのか、強いられてなのかはわからないけれどねえ。


 言ってしまえば二本脚で歩く荷馬という扱いさね。戦力としては期待されてもいなかったし、当然、真っ先に脱落すると目されていた。どこまで荷物を運べるかで、そいつの人生の価値が量られたってわけさ。


 少年はね、名を『ナルミ』といった。


 憶えておくといい。


 何しろ、『怪物』に目に物見せた者の名前なのだからね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 少し昔の映画の冒頭を思い起こさせる語り部の導入(´ω`) ゲームなら……スタートはまだかとボタン連打する人にはスーパーイライラタイムか、うっかり飛ばさないようにしっかりムービー観たい派な私に…
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