仮題「フルプレートマギウス」、一人称、ファンタジー、勇者パーティー追放、成り上がり
せめて、誇らしく終わりたいからさ?
バクバクするな、心臓。笑えよ、俺。ダルマ・ダイフク上等兵は頑張りのきく男だろ。カッコよく潔く、もはやこれまでって……諦めようぜ。
「兵士ども、今こそ報国護民の誓約を果たせ」
竜騎士様。わかってますって。あとは任せて皆様は退却してください。
「益体もなき貴様らは、その身命を捧ぐことをもって、人類の希望を明日へとつなぐ礎となる。」
あ、ここには俺一人で残ります。爆薬に点火するだけですからね。
「フン……勇者の安全は全てに優先される」
召喚士様。勇者様をくれぐれも頼みます。かわいそうに気絶しちゃってますし。いつか、故郷世界へ帰してあげてくださいね。
「のんびり演説してる暇なんてないわ! 兵士は死ぬのも仕事でしょ! あんた、恨むんじゃないわよ?」
おい聖女様。幼馴染へかける最後の言葉がそれか。別に恨んだりしないけどさ、ただ、甥っ子にだけは俺の最期を―――。
「急いで! お別れなんてしてないで荷物をかつぎなさい! そう、勇者をあまり揺らさないようにね……命に代えても安静に運ぶの。ほら、さっさと行くわよ!」
―――無視かい。こっちの声は届かないしな。この半球型兜は優れものだけど、こういう時にはちょっとさみしいや。集音はできるのになあ。
ま、仕方ない。諦めよう諦めよう。
ガッチョンガッチョン手を振るぜ。カタカタ鳴るのを誤魔化すぜ。
見納めなんだしよく見とこう。四人の見目麗しい英雄と、四体のずんぐりむっくりした全身鎧が地下道を行く。勇者隊と随伴兵隊。邪神討伐のために編成された、十人からなる特別部隊。行ってしまう。
……俺、独りぼっちで死ぬんだなあ。
ちゃんと死ねるかな。下手に身体を残したら魔獣になっちゃうかも。爆薬へ点火する前に鎧を脱いでおかないと。
錬金工房謹製の密閉式魔導甲冑『マシュマロン』―――こいつは堅牢だから。
見た目の丸っこさは装甲板の分厚さと内部機構の充実を誇示してるんだぞ。瘴気も完璧に遮断してくれる。めっちゃ濃いもんな、ここ。聖神のご加護ある勇者様たちはともかく、俺たちじゃ呼吸数回で死んじゃうぜ。
燃料魔力の残量は……針が赤色の深いところか。
物資運搬も盾役も張り切ったからだな。戦闘機動、やれてあと一回きり。もうどうあっても地上へは戻れない。だから、誰か一人残るなら、俺。それが正解。
「俺たちゃ魔導ー、甲冑兵ー。太った熊じゃー、ござんせんー」
陽気にやろう。人類大勝利の前祝いって気分でさ。
「金貨の袋が鎧の値段ー、俺の値打ちは銅貨の五枚ー、オッ、パオパオパー」
ありったけの爆薬、設置完了。あとは火打ち石を……って、ちょっと待て。あのヨロヨロ動くボロ雑巾みたいなやつは。
魔道士のお婆様! 生きてた! 邪神の攻撃で死んだとばかり!
うわ、後ろから有翼魔獣が! 戦闘出力で突進! うおおお! 喰らえ渾身の盾体当たり! からの! 盾殴り! 盾殴り! 死ねオリャアアアッ!!
やった! けども! 奥からはまだまだ来る気配!
お婆様を抱えて……うへえっ!? こ、この絶世の美女はどちら様?? 杖も服もお婆様のものに間違いないけど……?
(助かったわ、着ぐるみ兵! 腰を打っちゃって、ままならないのよ!)
わ、何これ、頭の中に声が!
(思念話よ! あたし本来の、歴史も伝統もある魔術なの!)
魔術? 魔法のこと? あ、じゃあこの姿も変身の魔法ってやつなのかな。魔獣が人間に変身してたこともあったし、魔道士のお婆様なら同じことできそう。
「あーあー! 聞こえますか! 兜脱ぐと! 死んじゃうんで! 聞こえて!」
甲冑同士なら、兜と兜をくっつけるとそれなりに会話できるんだけども。
「撤退です! 勇者様を追ってください! ここで追撃を阻みますんで!」
いよいよ燃料魔力がまずい。早く爆薬を……ちょちょちょ、お婆様、そこいじらないで! 魔力容器が……おおお!? 燃料魔力が黄色まで回復した! 何で!?
(ほら、あたしを抱えて走りなさい!)
「あいや! しかしですね! 俺はここを爆破しないと!」
(……自爆する気? 捨て駒よ、それって)
「軍務です! 勇者様たちに代わりはいないですから!」
俺は、俺たちは兵士だ。戦えない人たちを護る盾だ。あいつの言った通り死ぬのだって仕事さ。親父もジイジも、お姉ちゃんだって、立派に戦い果てたんだから。
今、俺の順番が回ってきただけ。笑って死ぬとも。
(ほうら、火の魔術)
おお、空中に火の玉が。それが、ゆっくりと落ちてくる……爆薬のところへ!?
(あらー、困ったわねー。あたし歩けないしー? このままだと死んじゃうー)
「何やってんですかああああ!!」
出力最大! うおおおお! 走れ走れ走れ! 段差も跳ぶうっ! 壁だってしがみついて駆け上がるうっ!
(アハハ! すごいすごい! 大猿魔獣みたい!)
拍手してる場合かな!? あ、爆発の予兆! あああ、盾置いてきちゃった!? 岩陰へ! お婆様をお腹のところに! 覆いかぶさる! 魔導甲冑よ頼むうううう!!
(……勇気と献身。人の魂の輝き……)
あばばば! 震動やばい! 装甲がガンガン打ち鳴らされるうっ!
(……この素晴らしさを歪める力が、奇跡だなんて……)
お、収まった? よかった、助けられた……すごい爆発だったなあ。ひえ、岩がボロボロだし。通路も隙間なしに崩落だ。さすがは邪神へぶちかます用の特製品。
……これ、次に攻め込む時、どうするんだろう……掘るにしたって……。
ま、まあいいや。とにかくお婆様を送り届けないと。
(勇者たちとは別の道を戻るわ)
は? 何だって?
(ほら、あれよあれ。囮ってやつなのよ。まっすぐ戻ったら敵もついてきちゃうでしょ? また自己犠牲を強いられたら困るじゃない? いっそのこと、こう!)
おお! 土や石がウニョウニョと動いて……来た道を塞がれた!? 何てことを!
(退路は別にもあるでしょ。そっちへ走んなさい、とりあえず)
「どういうことです! 走りますが!」
(あんた、名前は?)
「ダルマ! ダルマ・ダイフクです! 上等兵であります!」
(そ。あたしはユングキルヒ・アイスレイス・トリンフラウ)
「おお! 魔道士殿のお名前! 初めて伺いました! 思い出したんですね!」
(そう……名前すら奪われてたのよね……許せない……許せないわ……!)
む! 魔獣! この道順は未踏だから……回避! こっちにもか! 蹴るう!
(ユキと呼びなさい。あと、あたしは魔道士なんかじゃないわ)
うわあ! 海老蟹魔獣の巣窟だ! ひいっ! 装甲がベコッて! ベコッて!
(魔女よ。聖院が邪神の手先と決めつけるところのね)
こうなったら……戦友スティーブ、技を借りるぞ……必殺! 竜巻回転脚ぅ!!
(あたしは聖神をほっ? ほおおおおおお!?)
「ひぎぎいいいいっ! か、回転の制御がああああっ!」
さっきからおかしいなって思ってた! 何この出力! お婆様、じゃなくてユキ様、何かやったでしょ! かかか壁にぶつかっ、げふうっ!? 止まらなっ! ぐわあっ!? ゆ、ユキ様だけは護らないと! うごおっ!?




