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第2話



すーはー、すーはー。


教室の入り口に立った俺は、深呼吸を繰り返す。


「がんばれ翔。お前なら行ける。勇気出せよ」


「お、おう…」


隣では夏彦が神妙な声で励ましをかけてくれてる。


俺はゴクリと唾を飲んで、教室内のある女子に視線を移した。


安藤蘭子。


このクラスにおいて二、三番目ぐらいに人気がある子。


運動神経抜群のバレー部。


髪は栗色でショートボブ。


体はスレンダーで引き締まってる。


いつもニコニコ笑顔で明るくて、見ているだけで癒される、そんなやつ。


彼女が、今現在、このクラスにおいて俺が想いを寄せている女子だった。


…正直、俺からすると高望みもいいところだった。


どちらかというと、夏彦にお似合いな相手。


だが、ここまできた以上、もう後に引き返せない。


必ず親しくなって告白まで漕ぎつけて見せる。


「よし、翔。作戦通り行くぞ」


「おう」


俺たちは互いに頷き合う。


「翔、ちゃんと持ってきたか?」


「もちろん」


俺は今朝、家の冷蔵庫からかっぱらってきたあるものをポケットから取り出す。


「いい色のケチャップだ。これなら確実に気づいてくれる」


「だといいんだが」


俺はケチャップを自分の口の周りに塗りたくった。


「ど、どうだ?」


「よし、バッチリだ。行ってこい」


「お、おう!」


そうしていよいよ、教室の中へと乗り出していった。


なるべく自然な足取りで安藤へ近づいていく。


バクバクと心臓がうるさい。


いつもの教室のはずが、まるで戦場にでも足を踏み入れたかのような気分だった。


「お、おはよう安藤」


いかにも通りすがりを装って、俺は安藤へと挨拶をした。


「あ、おはよう、原田くん」


安藤が明るげな声で挨拶を返してくれる。


俺は軽い会釈と共に流れのまま歩いていく。


…あれ、気づかれてない?


「あ、ちょっと待って原田くん!」


来たっ!!


「な、なんだ…?」


「ほっぺたにケチャップついてるよ?」


「えっ、まじ!?」


わざとらしく驚いてみせる。


内心では作戦がうまく行ってガッツポーズをしていた。


「どの辺?」


「えーっと、ここら辺かな?はい、これあげる」


安藤がポケットティッシュを一枚くれる。


やさしい。


「サンキュー。悪いな」


「ううん」


安藤に教えてもらって、自分で塗りたくったケチャップを拭き取る。


「助かった。大恥掻くところだった」


白々しくも、俺はそんなことを言った。


「あはは。朝ごはん、何食べたの?」


「えーっと…」


「あ、ちょっと待って!当てさせて!お願い!」


片目を瞑って懇願してくる。


なんだこの可愛い生き物は。


「わかった。当ててみてくれ」


「やった!それじゃ…うーん…なんだろ…ハンバーグ!…は流石にないか…オムレツ!も違う気がする…うーん…」


頬に手をあてがって、頭を悩ませる安藤。


あと千年ぐらい眺めていられそう。


「あ、わかった!」


「なんだ?」


「トースト!」


「正解」


「やったっ!」


嬉しげに飛び跳ねる。


すみません。


今朝ギリギリに起きたせいで、俺、朝食食べてません。


でも、安藤が可愛すぎて罪悪感とか吹っ飛んだ。


「流石の洞察力だ、安藤」


「えへへ〜。ありがと」


安藤が頬を緩ませる。


その後、俺は安藤としばし談笑し、最後には「原田くんって、すっごく喋りやすい人だったんだね!知らなかった!」というご評価もいただいた。




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