ナニモノにもなれなかった、俺に捧ぐ物語。
誰でもない、何者でもない、ただの男のありふれた話です。スマホで書いたのでスペース等読みにくいかもしれません。
現在視点と過去視点がぐちゃぐちゃに混じってます。
「君の描く漫画は、エンタメじゃない。面白くないんだ」
何度目かの持ち込みの時、編集者がそう言った。見せたのはアクション短編だ。
「ほらここ、ここのショートカットの子、女の子だよね? 可愛くないんだ。もっとエロくしないと。読者が求めるのは、欲だよ。モテたいとか、尊敬されたいとか」
それはボーイッシュなキャラだから、あえて男っぽく描いたんだ。純潔だから、エロさはない。
俺より年下だと思われる編集者はクソでかため息をつく。
「あのさあ、山下さん、だっけ? 何歳?」
俺はつい先月に26歳になった。
「もう、諦めた方がいいんじゃないですか? 十代でデビューできなきゃ、もう、無理でしょ。それに今時アナログなんてね。うーん、絵も古臭いし、話はつまらないんじゃ。歳とったら、正社員だって厳しいんだから。考えた方が、いいですよ?」
さっきは面白くないと言ったくせに、今度ははっきりとつまらないと言われてしまった。と、編集部に制服を着た少年が入ってきた。
「あ! 先生!」
俺の目の前にいた編集者は、その高校生に向け声を2オクターブくらい上げた。
*
漫画を描きはじめたのは小学生の時だった。ノートの隅にひたすら描いた。誰にも見せなかった。
*
「絵、上手いんだね」
そう言ったのは、中学生の時のクラスメイトの女だった。美術の課題で隣の席の奴の似顔絵を描かなくてはならなかった。
「あんた、漫画家になれば?」
言われなくてもそのつもりだった。
*
同窓会に顔を出す気になったのは気まぐれだ。あの女がいるかと期待もした。
いた。俺を覚えていた。
*
「げえ! 山下、漫画描いてんの? オタクきもー!」
教室で描いていたノートを、金髪のヤンキーに奪い取られる。
「あれ、おい、この女、お前じゃね?」
「え?」
女がこちらを見た。ノートに描いてたのは、女がヒロインのラブコメだ。パンツも描いた。最悪だった。
女がノートを見る。
終わった。と思った。しかし女は笑った。
「いいじゃん。上手いじゃん。話も面白いよ。でももっと、あたしのおっぱい大きいよ」
*
「山下ー! こっち来てー!」
同窓会で酔っ払った女が俺を呼ぶ。
*
放課後の教室で女と向かい合う。
「ほら、もっと可愛く描いて」
なぜか、あれから女をモデルに漫画を描かなくてはならなくなった。
「あたし、芸能人になるから。そしたら、中学時代にあたしを主役に漫画を描いてたってテレビに出てね」
そう言って、ウインクを飛ばされた。
*
「漫画家になったあ? あんた、絵、ちょー上手かったじゃん!」
真っ赤な顔した女が大声で叫ぶ。酒の匂いが口から漂う。編集者につまらないと言われてから、描けなくなった。
*
中学の卒業式、女が言った。
「絶対、夢、叶えてね。あたしも頑張る。東京行くんだ」
俺は頷いた。
*
「おええ。きもちわる」
女が道端に吐く。昔のクラスメイトたちはカラオケに流れた。俺は女に水を買ってやる。
*
漫画が好きだった。純粋に描くことが好きだった。はじめは誰にも届かなくてもよかった。
でも欲をかいてしまった。
望まなければ、辛くなることもなかっただろうか。
*
カバンに入れっぱなしだった漫画を女が読んでいる。
「うん…すごく面白い。やっぱりあんた、才能あるよ」
公園で並んで座る。彼女はタバコを吸っている。
「あたしね、女優になりたかったんだ。東京行ったら、あたしより美人で才能あるやつごろごろいた。結局、向いてなかったんだ。馬鹿みたいに夢見たんだ」
煙とともに、そう吐き出した。
「中学の時の、すっげえ金髪のヤンキー、覚えてる? あいつと、ケッコンすんだ。あいつ、今は真面目に営業やってっから」
それから、原稿を俺に返した。
「あんたは諦めんなよ。あたしがファン一号なんだから」
*
やっと気付いた。
俺の漫画が、誰のためのものであったかを。はじめて認めてくれた奴に、届けばよかったんだ。
*
「山下さん、何かありました?」
編集者が言う。俺の疑問を感じたのか、言い訳のように続けた。
「なんか、話の雰囲気が変わったから」
手元にあるのは、新しい原稿だった。
いつか描いてたあの女を主役にした、オタクの少年との青春ラブコメ漫画だ。公園で話した後、急に描く気になった。俺の欲をひたすら描いた。ヒロインはどエロくした。
「ああ、うん……。ちょっと、原稿、預かります。編集会議にかけてみますんで……。あ、名刺、渡しときますね」
編集者はぎこちない笑みを浮かべ、そう言った。
*
俺は結局、一年後も、五年後も、十年後も漫画を描いているだろう。ヒロインはいつもあの女だ。
叶わなくても、届かなくても、いつだって、俺は醜く漫画にすがりつく。
その小さな紙を受け取りながら、そんなことを考えた。
お読みいただきありがとうございます!
ただ勢いのまま書いてみました。




