最終話『勝者はアークロイヤル! 新たなゲームへレッツ・プレイ!』その3
アークロイヤルは、もう思い出せない――あるいは完全に捨ててしまったと思っていた、アレを再び目撃する事になった。
それは、かつてVRゲームで共闘した事のある島風蒼羽とのプレイだったのである。
「VRゲーム時代のパターン? まさか――本当に?」
頭の中では思い出せなくても――何故か、身体は反応している。
おそらく、これならば――勝ち目はあるかもしれない。仮にジャンヌ・ダルクの行動パターンであれば、それもいくつかは研究済みである。
『これがある意味でも最後の一撃だ――お前がVRゲームを捨てたというのであれば、打ち破って見せろ!』
ジャンヌ・ダルクは完全にネタ切れと言う気配を感じさせるような、捨て身の策――そう周囲は思うだろう。
使用する武器は、別に召喚した訳ではなく――ビームダガーを二本手に取った。おそらく、二刀流と言うべきか?
手に取ったビームダガーは、それと同時にビーム刃の部分が伸び始め――50センチ程の長さになっていた。
島風自体のクラスは――アサシンだった可能性もあるが、それを即座に思い出せる状況ではないだろう。
しかし、向こうもネタ切れである可能性は――否定できない。それがフェイクであったとしても――アークロイヤルが行動を変えることはないだろう。
「私は――更なる未来へ、ARゲームが見せる新たな世界へ向かう! その為にも――」
アークロイヤルの方もガンブレードを展開し、ブレードの一部分がパージする。おそらくは――クリティカルで向かってくるのだろうか。
そのブレードは1メートル位にまで伸び、刃のブルーも若干薄い透明要素が含まれている物から、更に濃いブルーへと色が変化していった。
『これが――』
「これで――」
お互いに踏み出し、50メートル程は間合いを広げていた展開から――数メートルにまで間合いは狭くなっていく。
ジャンヌの動きは素早いのだが、目視を出来ないほどの速度ではない。アークロイヤルの方もバーニアユニットを使っているようだが――。
『私の全力――』
ジャンヌは刃の長くなったビームダガーを振り下ろすのだが、それはアークロイヤルがあっさりと切り払う。しかし、一本が切り払われても――。
「決着にするわ! ジャンヌ――いいえ、島風蒼羽!」
アークロイヤルがビームダガーの切り払いに使用したのは、パージしたと思われたガンブレードのパーツである。
実際には刀における鞘にも該当するものだが、それをアークロイヤルはショートソードとして利用したのだ。これでビームダガーの片方を切りはらい、間合いを詰めていく。
『先ほどの――クリティカルで来るのではなかったのか!?』
ジャンヌの方もビームダガーを弾き飛ばされ、完全に打つ手を失っている。しかし、それでも彼女には負けられない理由があった。
ネット炎上勢力や様々な炎上要素を持つネット住民やまとめサイト、そう言った存在を根絶させなければ――という目的が。
「ガンブレードは通常武装よ――クリティカルでも使うけど、こういう利用法もあると言う事――」
ガンブレードでジャンヌの重装甲アーマーに傷を付け、それが彼女にとっても致命傷となった。
まさか――戦法の変更が完全に裏目に出てしまうとは。そして、ステータスを意識せずに戦った結果が――今回の敗北にもつながった。
バトルは3-1でアークロイヤルの勝利。見事に、彼女はジャンヌ・ダルクに勝利したのである。
しかし、彼女にとって勝利と言う実感はわかない。このバトルも重要なバトルと言う訳ではなく、対戦相手が変わっただけの大戦に過ぎないという事だろう。
「こうなるとは予想外だった」
「遂にネット炎上の元凶は倒されたのか?」
「ジャンヌは英雄として祭り上げられていただけに過ぎない。一部の二次創作改変作品が原作よりもカルト的な支持を受けるのと――同じ原理だろう」
「それでネットが祭りになっていたという事か。しかし、ジャンヌが倒された事でブームが終わってくれればいいが――」
「今回の件で、色々とネット炎上や炎上マーケティングの恐ろしさを知る事になった。これが、本当にデスゲームのような物に発展すれば――」
周囲のギャラリーは熱狂しているのと同時に、様々な思いをバトルの結果を見て抱いていた。
更なる炎上マーケティングや風評被害を懸念したりする人間もいれば、ジャンヌ・ダルクに無言の同情するような人間もいる。その辺りは人それぞれだろう。
『遂にこの私も――これで最期と言う事か』
ジャンヌの重装甲アーマーがCG演出で消滅していく。お互いにログアウトはしていないはずなのだが――どういう事なのか?
「ジャンヌ・ダルク! あなたは本当に何者なの?」
アークロイヤルは消滅していくジャンヌを見て、咄嗟に叫ぶ。正体は既に分かっているのだが、それでも――分からない部分はあるだろう。
『それを君が言うのか? 自分は――』
「島風――コスプレイヤーの島風でしょう?」
『それもある。しかし、自分は――色々とやり過ぎてしまった。ネット上でもリアルでも――』
「それは――」
『普通に謝罪しただけで、全てを終わらせるという手段もあるだろう。しかし、それだけではなく――別の方法を望む声もある』
「別の方法って、まさか――」
そして、ジャンヌはアークロイヤルの目の前から消滅する。ログアウトと言う意味でも――。
しかし、アークロイヤルはログアウトできない。システムの故障なのか?
「ジャンヌ・ダルク―ー」
アークロイヤルは、気が付くと泣いていた。せっかく、あの島風に会えたと言うのに――また離ればなれとなってしまうのか?
そして、彼女が別の方法で――と言った事も気になる。何とかして止めないと――そう思った。
午後3時30分、失意のまま――アークロイヤルは別のARゲームのロケテストを見学していた。
レーヴァテインが別のタイミングで見学をしていた、リズムアクションゲームの試作型なのだが――彼が来た時のような混雑はない。
ロケテストが中止になった訳でなく、整理券配布型に変更した事による物のようだ。それでも、まだ未体験のユーザーが整理券を求めているように見える。
彼女の両手は震えていた。ロケテストを見て気を紛らわせようとしても、ジャンヌが消滅したあの場面を思い出してしまう。
自分が――島風のARゲームに対するモチベーションを折ってしまった――そう判断されてもおかしくないような結果とも言える。
一般的な初心者狩りや悪意を持ったプレイヤー狩りのケースとは違うので、アークロイヤルを集中的に責めてネット炎上に追い込むのも――悪目立ち仕様と言う勢力のやることだが。
「こんな所にいたのですか――ミカ」
背後から姿を見せたのは、ヴェールヌイである。いつもの賢者のローブを思わせる格好に加えて――今回は何人かのメンバーと一緒だ。
しかし、彼女は確かに言ったのである。アークロイヤルにとっての隠しておきたい事実を。
「まさか、そんな名前だったとは――驚きね」
ヴェールヌイの発言を受けて、少しだけ驚きのリアクションを見せたのは斑鳩である。
彼女も別の場所でジャンヌ戦を見ており、途中でヴェールヌイの指示を受けて移動したのだが――。
「プロゲーマーは本名というか登録時の偽名禁止――というルールはあったけど、そう言う名前だったとは」
斑鳩の後に発言したのは蒼風凛である。彼女も有名ではないがプロゲーマーの為、本名でエントリーしているが――さすがに苗字は偽名だろう。
イベント会場の一件が終わってからは様々な場所でイベントを満喫し、ヴェールヌイに『サプライズがある』と言う趣旨のメールを受け取り、この場所に来た。
「自分は俳優としての本名を出せば、会場がトラブルになる――分かるだろ? こういう事情は」
更に駆けつけたのは、何とレーヴァテインである。ヴェールヌイとは色々とあったが、それも俳優ならではの役者としての演技だった。
どうやら、ご都合主義だったのは――。
「みなさん――どういう事ですか!?」
アークロイヤルは唐突にばらされる事になった自分の本当の名前、ミカに対して――軽く怒っていた。
そのおかげではあるが、先ほどまでのシリアスムードはなくなり――何時ものアークロイヤルに戻ったと言ってもいい。
「すごかったわ――ミカ」
ヴェールヌイの軽い発言も、全くのフォローにはなっていなかった。
その5分後、アークロイヤルの前に姿を見せたのは――有名アイドルゲームのコスプレをした島風だった。
アイドルと言う割に地味なグレーメインな服、ジーパンにARガジェットを収納しているリュック――どう考えても島風が私服にしているとは思ない物である。
「今まで黙っていたけど――本当にゴメン! 守秘義務っていうのがあって、今まで言えなかったの」
島風の一言を聞き、アークロイヤルも驚きを隠せなかった。
ジャンヌ・ダルクの時とはテンションも全く違うので、周囲が驚くのは無理もないが――それ以上に驚いたのはアークロイヤルだろう。
「守秘義務って――まさか?」
アークロイヤルは察した。該当するような人物と言えば、指折り数える程度だろう。
「全ては、風評被害勢力や悪質な二次創作でもうけようと言う勢力を一掃しようと言う作戦だったのよ――ヴェールヌイの」
種明かしを聞いて茫然としたのは、アークロイヤルである。
守秘義務と言う事で神原颯人辺りが黒幕と思っていたが――まさかのヴェールヌイだったのには周囲も驚くだろう。
「こちらの作戦を中止にしたのは、実はと言うと――途中でジャンヌさんが接触してきたのが原因なのですよ」
ヴェールヌイも今までのクールな表情からは考えられないようなかわいい表情で、島風の発言に対し反応をした。
これには周囲もシュールな光景と受け流したいが――。
その種明かしとは、レーヴァテインとジャンヌ・ダルクは最終的な目的が同じだったことが全ての始まりだった。
チートプレイヤーやコンテンツ流通を妨害しようとする勢力の正体、それを探った際に芸能事務所が途中からノータッチになった事には違和感を持つ。
ヴェールヌイも、その辺りは様々な部分を踏まえてフェイクニュースの類とも考えたが――テレビのワイドショー等で取り扱わなくなった事が意味するのは、視聴率競争とは別に――。
「向こうが何をしようとしていたのかは別として、自分はARゲームもVRゲームと同様に炎上する事だけは避けたかったし――」
島風の真相語りは続く。そして、ジャンヌがヴェールヌイと接触したのはコスプレイベントの妨害の際に姿を見たことがきっかけだった。
そして――ジャンヌから真相を聞き、自分の作戦を行う必要性を若干失う事になり、ヴェールヌイの判断で作戦は中止となる。
「ネット住民が遊び半分でネットを炎上させる行為に対しては、本気で考えなければいけなかったのよ。人が傷つき、そこから気力を失い――」
島風が避けたかったのは、そうしたネット炎上で自分が追い込まれ、自ら命を――。
「そう言ったのはフィクションだけで、もうたくさんなのよ。だから――ヴェールヌイへ真実を話した」
その結果が、あの最終決戦となった。アークロイヤルは納得しているのだが――それでもミカという本名をばらしていい理由にはならない。
「でも、ネット炎上はまだ続くだろうし――アカシックワールドはもうすぐ終わる。だからこそ、なのよ」
そして、島風はリュックからARゲーム用のタブレットを取り出し、あるサイトのページを見せる。
「これからのフィールドは、ここになるだろうから」
そのARゲームは、目の前でロケテストを行っている――リズムアクションゲームだ。
つまり、プロゲーマーとなるであろうアークロイヤルの次のステージは、ここと言う事になる。