最終話『勝者はアークロイヤル! 新たなゲームへレッツ・プレイ!』
ラウンド3に突入し、アークロイヤルとジャンヌ・ダルクにとって――ある意味でも大きなポイントが訪れた。
『最高のゲーム? アークロイヤル、お前と戦えればそれでいい!』
ジャンヌは目の前にアークロイヤルがいて、この瞬間のバトルが出来る事に対し――普段は見せないような喜びの表情を感じている。
それに対してアークロイヤルは、ジャンヌとは全く別の事を思っていた。目の前のジャンヌとの戦いも、おそらくは通過点なのだろう。
その先に見えるもの――アークロイヤルには、それが見えていたのである。今の現実で満足せず――。
「確かに有名なプロゲーマーと戦っている瞬間――それは価値があるかもしれないけど、その対決も――永遠に続くわけじゃない!」
アークロイヤルの目は本気だ。ARバイザーの事もあって、ジャンヌには表情が見える訳ではないのだが――。
ジャンヌが意図的にバトルを引き延ばしているようにも感じられる攻撃を続けているのに対し――違和感を持ち始めていた。
攻撃パターンが単調過ぎても、逆に周囲を白けさせるのは当然であり――下手に八百長やマッチポンプでもあれば、運営がバトルを止めるだろう。
それを踏まえると、ジャンヌの攻撃は単調と言う訳ではない。おそらく、攻撃力を意図的に下げている可能性はあるかもしれないが。
『アークロイヤル、君の言う事にも一理ある。プロゲーマー同士の対決とはいえ、この時間を永遠に続けば――と思う事はあるだろう』
「なら、どうして!? 今回の様な騒動を起こしてまで――」
『そうでもしなければ、君はこのフィールドに来なかっただろう。別のVRゲームで遭遇出来なくなった以上は――』
「発想が狂っている。あなたは、そこまでして何を得たいの?」
アークロイヤルはジャンヌが自分との対決をする為だけに、今回の騒動を起こした事に関して――激しく嫌悪する。
『得たいのは、この一瞬だ。過去にVRゲームでリアルチートとも言われていたウォースパイトー―今は、アークロイヤルだったか。君を倒す事で――』
「チート能力や炎上マーケティング――闇の力を使ってまで得たいのは――」
『その通りだ! 君も気づいていただろう――コンテンツハザードは、君を誘い出す為だけの理由に過ぎない』
「ジャンヌ・ダルク――私は、あなたを倒す事でネット上の炎上マーケティングに依存する勢力を――全て否定する!」
ジャンヌの一言を聞き、アークロイヤルも我慢の限界であると気付いた。
アークロイヤルがガンブレードから放つビームも、あっさりとジャンヌははじき返す。これでは、向こうが加減をしているとは言っても勝ち目がない。
ラウンド2は何とか勝てたが――それでも、実力差は明らかだろう。向こうが加減をしているのであれば、尚更だ。
ラウンド3も残り1分を切った辺りで、大きな動きがあった。アークロイヤルがガンブレードのリミッターを解除したのである。
『リミッター解除――クリティカルアクションか』
ジャンヌはアークロイヤルが賭けに出た事に気付く。そして、シールドビットを展開して防御しようとするのだが――。
「ジャンヌ・ダルク――これで、勝負よ!」
ガンブレードのオプションパーツをパージし、ブレードの刃は蒼く光を放っている。これが、アークロイヤルの本気だろうか?
しかし、ジャンヌは先ほどまでの動揺を何とか抑えており、ニアミスでクリティカルが直撃する事は――ないと。
『この私を誰だと思っている? 私は、不正破壊者だ!』
タイミング良くジャンヌは指を鳴らし、シールドビットでアークロイヤルの斬撃を受け止める。
格闘ゲームでは、ある意味でもクリティカルガードに該当するようなタイミングでガードしており、これは防がれた――ギャラリーはそう思っていた。
シールドに亀裂が入ると同時に、瞬時でCG演出のように展開されたビットは消滅した。
ジャンヌのシールドビットは確かに展開されていたが、それを上回る威力をアークロイヤルの一撃が――と言う訳でもない。
『ぬかったか――』
右腕でアークロイヤルのブレードを受け止めるが、物理ダメージは全くない。それでも、これに関してはジャンヌの戦略ミスだった。
クリティカルアクションの攻撃力を細工する事は出来ない――それはガイドラインにも明記されている。
彼女がミスをしたのは、加減した際にクリティカルアクションも考慮しなかった事だろう。
「勝てた――?」
アークロイヤルも、この勝利には実感が沸かない。確かにアークロイヤルのクリティカルアクションはジャンヌに命中はした。
しかし、今の消滅演出は――普通にガードを無効化してダメージを与えたものではない。
『ジャンヌ・ダルク――島風蒼羽と言うべきか』
周囲のスピーカーから聞こえてきた声は、何とヴェールヌイの声だった。一体、彼女は何を公表しようと言うのか?
「ヴェールヌイ、これはどういう事なの?」
アークロイヤルも先ほどの演出を含め、違和感を持つ箇所は多い。加減の事も含めて――である。
それら全てを彼女が種明かしするとは――到底思えないが。
『君はある人物によって利用されていた。それが全ての始まりと言ってもいい。その人物とは、神原颯人と誘導させるべきだったのだろう』
『神原が? しかし、彼は確かに――』
ヴェールヌイの話に何か違和感を持ち、ジャンヌは神原が言っていた事を説明する。
『悪党か――確かに、自分のゲームを何とかして広めようと、手段を選ばずに行動したのは悪党にも等しいか』
ジャンヌは、ふとある事を思いつき――神原の音声を流す。ここの部分は中継でも流れたのだが――中継動画からの物ではない様子。
『そう言う事ですか。確かに――彼も利用されていたと言う事です。全ては、まとめサイトを含めた勢力に』
ラスボスの正体を知っても、ジャンヌの表情が変わる事はない。ある程度は想定されていた事もあって。
それに――彼女にはもう一つ別の目的もあった。そして、ジャンヌはARバイザーのシステムをカットする。
「既にヴェールヌイが言った通り――自分はジャンヌ・ダルクではない。ジャンヌと言うキャラを演じしていたにすぎないと言えるだろう」
島風は、自分はここまでだと考えた。今まで炎上させてきた事も含めて、全て謝罪するのが――幕の降ろし方と判断した。
しかし、その先を止めたのは――何と、アークロイヤルである。
「まだ、ラウンドは残っている! サレンダーするなんて、私は認めない!」
アークロイヤルも疲労がたまっており、先ほどのヴェールヌイが話をしている間は息を整えるのがやっとというレベルだった。
何とか体力も戻ってきたので、次のラウンドで――アークロイヤルは考えている。
『バトルの方は無効試合だ。それ以上、戦う必要性は――』
ヴェールヌイの話を遮るように――その人物は姿を見せた。
センターモニターに表示された人物、それはレーヴァテインである。何故、ここに気付いたのか。
『ジャンヌ・ダルク――今のバトル見せてもらった。これを無効試合にするには――もったいないと思わないか?』
レーヴァテインの話を聞き、周囲のギャラリーが沸き上がっていた。今のを無効試合にするにはもったいない、と。
マッチポンプでもなければ、チートガジェットも確認されていないバトルを無効にするのは――越権行為では? そう考えているのだろう。
『ギャラリーも、ここまで盛り上がっている以上――止める権限は、自分にもないし――ヴェールヌイにもない。思う存分、バトルを盛り上げてくれ』
それだけを言い残し、システムをヴェールヌイに返還する。まさか――センターモニターで、ああいう事をしてくるとは。
『分かりました。このバトルは――運営側でもチート等は検出されていない以上、レーヴァテインの言う通りです。最後まで、続けてください』
ヴェールヌイも会場の反応を見て、これを止めた方が炎上するだろう――そう考えた。
そして、ラウンド4のコールが始まろうとしている。全ては――これで決着――。