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真戯武装パワードフォース  作者: 桜崎あかり
第1部
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第3話『リアルと虚構の境界線』その3


 神原颯人かんばら・はやと、彼は大手ARゲームメーカーに在籍していると表向きには通っている。

しかし、スリートライアングルと言うゲームを開発した際は、途中降板ではないが――バランス調整等は別スタッフが担当していた。

そう言う経緯を知っている人間からすれば、神原は別の意味でも『中途半端』と言われているのかもしれない。

一方で途中で外されるのはメーカー側からの指示と言う説もあり、実際に彼が開発していた別のゲームでは――意図的に外されたと言う。

実は、そのゲームこそ『アカシックストーリーズ』なのである。ただし、ゲーム自体は正式リリースがされた訳ではない。

これには別の事情があって、その調整が出来ていない為と言われている。

「ARゲームは、一定の売り上げが必須――ソシャゲの様なアイテム課金方式とも違う」

 神原は、昼食を取ろうと入った牛丼店でカウンター席ではなく別のお座敷へと通された。

牛丼店でお座敷も珍しいだろうが――チェーン店とは違う店舗なので、そう言うスペースもあるのだろう。

煙草のにおいが一切しないのは、全面禁煙の看板が入り口にもあった事による物。アルコール系のにおいは――通されるまではなかっただろうか。

 お座敷のテーブルにはメニューが置かれているが、牛丼以外には色々な丼物がある。

ちなみに、お座敷と言っても靴は脱ぐタイプではなく、雰囲気がお座敷なイメージのテーブル席と言うべきか。

近くからする海鮮系なにおいは――隣の客がマグロ丼を食べているからだろう。

神原は便乗して――とも考えたが、もう少しメニューを見てから決める事にする。

「どうするべきか? ここは牛丼がおいしいという話だが――」

 1分はメニューとにらみ合っていたが、ドリンクバーが書かれていたので、まずは――ドリンクバーを注文する。

専用のコップをバイト店員から渡されてからは、自分でコーナーの一角まで移動し、コーラを持ってきていた。



 今回の事件が発生する約2か月前、あるARゲームのロケテストが行われていた。

このARゲームは、アカシックワールドとは違うのだが――システムは若干類似している。

同じスタッフが関わっているので、似るのは当然という声が――ネット上で出るのも、10分と言う時間もかからなかったという。

「このゲームはヒットする要因がある。数字的に言い表しても負けフラグにしかならないでしょうし、敢えて言いませんが」

 ゲームに関与したと思われるプロデューサーは、こういう事をロケテスト前の会議で言っていた。

具体的な数字目標は、ARゲームでは死亡フラグにしかならない。

『ミリオン間違いなし』と言っても、超有名アイドルのCDとは違うので――そう上手くいくわけがないだろう。

彼らが売れているのは、政治的な部分等で都合のよい後ろ盾がいる事が判明している。その勢力が何者なのかは――この際どうでもいいが。

「しかし、この作品は明らかにパクリと言われるような要素がある」

 会議室の役員も内容を見た上で指摘する。

何も見ないで指摘しては、単純に芸能事務所AかJの全面タイアップを付ければいい――と言う雰囲気になりかねないからだ。

「そうでしょうか? 名称は全く違いますし、そちらの制作している会社にも事前に問い合わせて、類似する箇所がないか調べました」

 このスタッフは、こうした意見が出るのも承知で色々と調べたらしい。

公式コラボであれば――何も言われないかもしれないが、これはあくまでもオリジナル作品としてリリース予定の物だ。

トラブルがあっては大変とメーカーも考えているのかもしれない。

「このゲームがヒットすれば、スリートライアングルの失敗は――」

 ここまで発言した所で、挙手をして反対意見を出そうと考えている人物が現れた。

それは、背広姿で正装した神原である。スリートライアングルも、彼がプレゼンしている作品も――神原が元は作ったものだ。

「アレと失敗作と言うのであれば、貴方は――何を成功と見るのですか? フジョシ勢力が夢小説の二次創作で盛り上げてキャラ人気やカップリング支持されれば、ネットイナゴが炎上マーケティングを展開すれば――」

 神原の発言は、別の意味でも周囲の役員等が動揺するような痛いところを突く。

しかし、プレゼンしていたスタッフは言葉が出ない。つまり、反撃できるようなコメントが浮かばないのである。

所詮――ソシャゲの様に低予算や短期間でリリース出来ればネット炎上しようが無関係――という事なのかもしれない。

「ゲームは作ればそれまで、後の事はプレイヤーの勝手――そういう時代は終わったのです。オンラインにおけるチートプレイ、ネット炎上行為、それ以外にも――」

 神原は自分のコンテンツ流通における重要な事を訴える。役員の一部には、耳が痛い話ではあるだろう。

それは、数人のスタッフが議論中に退席をした事からも分かるかもしれない。



 そう言う事もあってか、神原はゲーム開発から手を引こうとも考える時期があった。

あの時に言及した発言は撤回する事はしなかったが――プレゼン後には、該当するスタッフが更迭される騒ぎにもなったのである。

「おまたせしました――コロッケ丼です」

 別の男性バイトが神原に持ってきた物、それはコロッケ丼と呼ばれる物だった。

丼と言う割には、長方形な弁当箱を連想しそうなお重に入っている。それがコロッケと言われれば、誰もが驚くだろう。

出来たてと言う事もあり、テーブルに置かれたお重の蓋に手を付けて――。

「これだ――」

 その中身は明らかにコンビニ弁当の三色弁当とも言える物である。きゅうりの浅漬け、ねぎとわかめの味噌汁、鳥の唐揚げ2個も付いて、580円はお買い得だ。

三色の内訳は、鳥そぼろ飯、特製のたれがかかった飯、おかか飯――コロッケは2個付いているが、その中身はメニューではじゃがいもと書かれていたような。

「さて、そろそろ食べると――」

 せっかく箸を持って食べる態勢だったのに、タブレット端末からメールの受信を知らせる着信音だ。

昼食時なのに――誰からなのか?

【ARゲームでトラブルがあったらしい】

 またか――と思い、メールの続きをチェックせずに食事をしようとする。せっかくの料理が冷めてしまうからだ

しかし、タブレット端末でページを下に進めていく内に――衝撃を受けるような発言が、出てきた事には衝撃を隠せない。

【該当する人物は、ジャンヌ・ダルクを名乗っている】

 食事時に、このニュースは悪いニュースとしか思えない。食欲を減らそうと――連中は考えているのか?

仕方がないと思いつつも、コロッケ丼をゆっくり食べている余裕はないだろう。しかし、こういうときは――何も考えないに限る。

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