第13話『草加市ARゲームギガフィールド』その2
草加市ARゲームギガフィールドの1階にある大規模イベントルーム、そこで今回の打ち合わせが行われる事になった。
本来であれば会議室もあるのだが、部屋自体は完成済みでも――臨時のサーバールームとして使っている為、このような処置が取られた。
イベントルームのメインステージにはパイプ椅子とパイプ式の折りたたみテーブル、観客席にはパイプ椅子――まるで、学校の卒業式である。
椅子には特に来客者の名前が書かれている訳ではないので、そのまま座っても問題はない。神原颯人は、そのまま後方に置かれた椅子に座った。
一番前の列から一番後ろまでは10程度の横列にパイプ椅子が並んでいる縦も10列なので、事実上は100程度のいすが並んでいる事になるだろう。
10分後、メインステージには司会と思われる背広姿の男性が現れた。その人物は特にメーカーからのスタッフではなく、この施設のスタッフらしい。
『これより、アニメ・ゲームサミットの打ち合わせを行います――』
これ以降は録音禁止と言う事もあり、内容はメーカーへ持ち帰ることとなった資料に書かれている。
その内容は、メインイベントに各種ARゲームメーカーによるプレゼンが用意されていた。この辺りは神原も想定内――だったのだが、問題は途中から。
コスプレイベントも先日ニュースで報道された事があるし、新作ゲームのロケテストも有名ゲームサイトで情報が解禁されていた。
特に目立った物はない――と誰もが思っていたのだが、更なる衝撃は――別の内容だったのである。
『今回のイベントですが、あくまでも草加市ARゲームギガフィールドのPRが目的です。メーカー個人で悪目立ちがする事無いように、気を付けてください』
司会の男性からは色々と釘を刺されるような発言もあった。先日、ある歌い手がネット上で大炎上し――それこそ芸能事務所AとJのかませ犬にされたのである。
大方の予想通り、ネット上で炎上するような芸能人よりも芸能事務所AとJのアイドルをテレビ局やメディアが集中的に取り上げ、それこそ炎上系まとめサイトや便乗宣伝クラスと言える宣伝活動を行った。
こうした事例を司会が言及する事はなかったが、あの一言はそれに言及しなくても分かってくれるだろう――という意味合いがあるのかもしれない。
『そして、我々はある人物から最重要の機密を手に入れました。それは、ジャンヌ・ダルクに関してです』
まさかの発言が司会から――と思われたが、その発言をしたのは壇上にいる別の男性スタッフからだった。
彼は神原とは別のライバルメーカーに所属するスタッフで、過去には色々と黒い噂があったという話がネット上にはゴロゴロしている。
『ジャンヌ・ダルクに使用されているAR技術、それは我々よりもレベルが上の技術である事が判明しております』
この発言に対し、案の定というか周囲からは動揺が――。しかし、単純に不安を煽るだけであれば話す必要はないのでは――という意見も飛び交う。
確かにジャンヌ・ダルク事件はARゲームにとっても、コンテンツ市場を一変させるような事件なのは間違いない。他社メーカーも情報は仕入れている。
しかも、彼は声が震えることなく――淡々と発表したのだ。どう考えても、不安をあおる言い方ではないのは目に見えている。
「上の技術と言うのは、我々のレベルを10に例えると――ジャンヌは100とでも言いたいのでしょうか?」
『100で収まれば、こちらも深刻には考えないでしょう。逆に楽天的になったり、慢心する事もあったと思います』
「まさか――?」
『そのまさかです。彼女の技術は、最低でも300位はあると思っていいでしょう。それ以上なのは――明白でしょうが』
一人の男性スタッフの質問に対し、男性スタッフは断言する。ジャンヌの技術レベルは300を超えている――と。
それに加え、彼女の技術はサブカル的なアニメやゲーム、漫画と言った作品に影響された部分もあると言う。
以前にジャンヌが元々の小説作品とは違う部分――いわゆる二次オリであるという、あの人物の考えはあながち間違いではなかったようだ。
周囲が動揺するのも無理はないが、それでもジャンヌの一件は解決していかないといけない問題である。
そうしなければ、海外展開等にも支障が出る可能性が高いし、特定芸能事務所が流通ラインの独占をする可能性も否定できない。
炎上マーケティングやマッチポンプ的な超有名アイドル商法や賢者の石商法は時代遅れと言うよりも、過去の黒歴史と言われても文句は言えないだろう。
「では、私からも質問を――。今回のジャンヌに関する情報提供者――それを教えていただきたい」
神原はどうしても気になる部分があり、直球ではあるが質問をぶつける。
これが回答できないとなると、フェイクニュースに踊らされているか――別の陰謀説も否定できない。
『本来であれば、明日に発表する形でしたが――』
「明日?」
『イベント当日のサプライズです。そう言った形で発表する形を取ると情報提供者とも合意していました』
「合意しているのであれば、あえて言及は避けましょう。フラゲ発表でネットが炎上するのは日常茶飯事ですから」
『今回の情報提供者に関しては、明日のサミット当日でサプライズイベントを開くと言及しております。そこまでは秘密と言う事で――』
秘密と言われると、これ以上は何も言及は出来ない。神原は様子を見る事となった。周囲の様子を見て、盗撮をしている人物がいないかどうか――。
しかし、盗撮をしているような人物は見かけられないのは――どういう事か?
『一応、気になる方もいるかもしれないのですが――この周囲には特殊ジャミングを展開しております。その関係でARガジェット以外のスマホ、携帯等は圏外となりますので――』
神原も思っていた疑問は、これで解決した。ARガジェットは通常起動するのに――スマホが圏外で通話及びインターネットに接続できなかった事――。
「では、もう一つだけ。今回の情報提供者はアカシックワールドのプレイヤーですか?」
神原の発言は、ある意味でも自分にとっては情報提供者が分かるという意味での質問である。
他の参加者にとってはさっぱりな内容であり、このような質問に答えるとは考えられない――と言うのが周囲の反応だ。
『ヒントと言う意味であれば――向こうともある程度は了解を取っていますので』
どうやら、答えてくれるようだ。周囲の動揺はある程度想定済みだが――これは意外過ぎる。
『――確かに、アカシックワールドのプレイヤーなのは間違いないです。それを証明する、プレートも拝見しましたので』
彼の言う事に間違いがなければ、本物のプレイヤーで間違いない。しかし、1プレイヤーがそこまで知っている物なのか?
どう考えても、ジャンヌ・ダルク事件を把握している人物でなければ――!?
そして、神原はこの回答からある人物が情報提供した、と確信した。
おそらく、この場所にジャンヌ・ダルクが現れると言う情報を掴んでいるのかもしれない。
だからこそ、あえてイベントと言う形で大きな事件にはせずに決着を付けるつもりだ――そうでなければ、ここまで情報を出す事はないだろう。