第3話『リアルと虚構の境界線』その2
5月11日、ネット上では例によってジャンヌ・ダルクの話題が上がっている。
しかし、それらが朝のワイドショー等で取り上げられている訳ではない。ワイドショーでは、大抵が芸能事務所AかJのアイドルの話題ばかりだ。
それに飽きた視聴者は別の通販番組や時代劇の再放送等にチャンネルを変えている場合が多いだろう。
そういう展開がワンパターンと化しているのも原因の一つだが、そうした報道が続くのはアフィリエイト系まとめサイト等を利用して印象操作やレッテル張りなどを行う芸能事務所AとJの陰謀説さえある。
過去には――そう言う事例が発生した事に対し、ガーディアンがネット炎上勢力を撃退したと言う都市伝説もあったらしいが、今は昔と言う状態であり、誰も言及しようとはしない。
こうした行為を規制できないか、という話もネット上では目撃例が少ないが実在する。
しかし、政府として動かないのは――単純に芸能事務所AとJだけで国家予算10年分の税収を得られる為――と言うのも、ネット上でのレッテル貼りの一つだ。
何処が拡散したのかは明らかではない一方で、どう考えてもWEB小説の見過ぎ等と言及されるのは目に見えている。
こうした発言が『WEB小説のテンプレ』や『ワンパターン芸』と言われていた中、そうとも言えなくなった原因はジャンヌ・ダルクにあるだろう。
彼女の出現は、ネット上の都市伝説やネット炎上事件にスポットライトが当たるきっかけにもなった。
【ジャンヌ・ダルクって、やっぱりあれか?】
【ジャンヌで検索しても、色々と対象が多すぎる。例の人物だけを絞りきれない】
【画像検索でも――似たような結果だな。コスプレイヤーやイメージAVビデオの様な物まで出てくる――】
【あのジャンヌは何者なんだ?】
【もしかすると、元ネタはないのでは?】
【ソレはおかしいだろう。ジャンヌ・ダルクと言えば歴史の教科書でも有名な人物――創作作品でも題材にしている作品は多いと聞く】
ネット上のつぶやきサイトでは、ジャンヌの話題だけでホットワードに浮上する程のレベルだが――。
ワードを絞り込んでもアカシックワールドに姿を見せたジャンヌをピンポイントで検索するのは困難であるのは言うまでもない。
その為か、情報を集めようと言う人間にとっては苦行と言っても――。
しかし、そういう苦行を緩和する為にまとめサイトが存在――しているはずなのだが、その多くはアフィリエイト収入を目的としたダミーサイトである事が多い。
結局はネット炎上に利用されてしまうのは、避けられない宿命なのか? あるいは一連の事件でさえマッチポンプや炎上マーケティングと切り捨てられてしまうのか?
午前11時、ネット上の記事をコンビニの入り口前でチェックしていたのは――セミロングのメカクレにメイド服、眼鏡と言う女性だった。
彼女の名前は斑鳩――あのジャンヌ・ダルクと交戦した斑鳩と同一人物である。ARゲーム時と普段ではギャップが激しいのもあるが――。
「また、あの事件のネット炎上が――」
彼女が手に持っているタブレット端末が若干震えている。バイブレーション機能的なものではなく、単純に右手が震えているだけだ。
その様子を見ているギャラリーはいないので、反応を悟られて正体がばれる事もないのだが。
それから数分後、斑鳩の目の前を通過する人物がいた。アークロイヤルである。
しかし、彼女の視線はコンビニの方角を見ていた訳ではないので――素通りと言うオチになったが。
「あの人物は、そう言えば――」
アークロイヤルの姿を一瞬だけ見た斑鳩は、ネット上で情報の検索を始める。
しかし、検索しても実在の空母や擬人化等しか発見できず、アカシックワールド以前にARゲームでの彼女を発見は出来ない。
まだ参加していないのか? それとも、更に偽名を使っているのか?
「情報がない? そんなはずは――」
斑鳩は慌てて別のARゲームサイトを開き、そこでアークロイヤルを調べるが――そちらでも検索結果は0だった。
登録から最低でも1週間経過すれば、情報は嫌でも入ってくる。それは、情報非公開などの特別な事情がない限り――。
ARゲームでは、アカウント転売を防止する為にARガジェットを準備後のエントリーを呼び掛けたり、不正転売をしないように啓発活動を行っている。
「こうなったら――」
斑鳩は奥の手と言わんばかりに、あるARゲームアプリを立ち上げた。
このアプリは、つい最近になってダウンロードしたばかりのアプリである。タイトルは『アカシックワールド』と言う、試作ゲームのアプリらしい。
ゲームの内容までは確認していないが、アクション系かFPSとメインジャンルで明記されていた覚えがある。
ウイルス系アプリやランサムウェアの類でない事は確認済みなので、裏アプリでなければ――データが出てくるはずだ。
プレイヤーの登録リストを検索するが、登録者の数は100人にも満たない。プレイヤーの個人情報を集めるアプリか――と言う予感もしている。
そこで、斑鳩は自分のプレイヤーネームがいつの間にかエントリーされている事に気付いた。
「えっ? このアプリってインストールすると強制登録なの?」
斑鳩は慌て始め、近場にあったARゲームのセンターモニター端末に自分のARガジェットをタッチする。
モニター部分にガジェットを近づけても何も起きないのは知っているので、赤っ恥をかかないように指定された場所でガジェットをタッチした。
すると、モニターではなくタブレット端末には、アカシックワールドのアカウントが作られている事が――明記されている。
それに加えて、バトルリザルトも存在していた。つまり、何処かのタイミングでアカシックワールドをプレイしていた事になるのだが。
「このバトルって、まさか?」
そのまさかであった。初登録後にバトルした事に加え、第1戦でリザルトに表示されていたのは――ジャンヌ・ダルク戦である。
その結果は、敗北になっているのだが――結果ではなく、プレイしたような覚えもないようなゲームをプレイしていた事の方が驚愕の事実と言えるだろう。
アカシックワールドとは一体――斑鳩は、あまりにも都市伝説を思わせるような唐突な出来事に驚く暇もなく、目当ての人物の名前を発見した。
ただし、今の心理状態でアークロイヤルの名前を発見したとしても――本来の目的を達成したとは言えないのかもしれないが。