第13話『ジャンヌとアークロイヤル』その2
午後2時辺りになると――屋外でもプレイヤーの数は5:5位の割合になりつつあった。
その中でアカシックワールドのプレイ出来るアンテナショップでは、遂にあの人物が姿を見せたという事でセンターモニターが――。
「あれは、もしかして――!」
「本物のジャンヌだと言うのか?」
「便乗ジャンヌも、未だに出てくる中で――本物と言えるのか?」
モニターを見ているギャラリーは疑問に思う。本物のジャンヌである証拠はどこなのか――と。
その中継を見ている人物――それは神原颯人だった。
どうやら、彼は色々な場所へ向かって様子を見ていたらしい。自分の足で確かめる事も――手段の一つなのだろう。
「あなたが、ここにいる事が想定外でしたが――」
別所でアークロイヤルとあったと思ったら、今度は神原である。ヴェールヌイにとっては、好都合なのだろうか?
色々な意味でもご都合主義を思わせる展開に――彼女はまとめサイト等に誘導されている可能性すら感じていた。
「巨大な力が物語を完結に迎えている――そう言いたそうな表情だな」
しかし、神原は見破っていた。ヴェールヌイが懸念している事を――。
それを把握した上で、彼は彼女が行おうとしていた作戦を聞く。
「便乗ジャンヌと言う炎上要素を残したまま――実行するつもりか?」
事情を聞いたうえで、神原はヴェールヌイに尋ねた。
「ネット炎上勢力とジャンヌ・ダルクは利害の一致等で動いている訳ではない。分離と言うよりも、元々は別物だ」
「つまり、炎上勢力の偽ジャンヌは放置すると?」
「向こうは――自分がやっている事の重大性を理解していない――要するに発言には責任を伴う事を知らない」
「どうするつもりだ?」
「私は――ジャンヌ・ダルクの言うコンテンツハザードは止める。そして、まとめサイト等を――」
2人の会話は続いた。センターモニターでは偽ジャンヌが本物のジャンヌに倒されるシーンも写し出されているが――それに視線を移す気配はない。
そして、ヴェールヌイは本題に移った。今回の作戦で使う会場を――確保して欲しい、と。
「確かに、アイディアとしてはナイスアイディア――と言いたい所だ。しかし、サービス終了が迫っているゲームに割ける予算があるとでも?」
神原は遠回しにナイスアイディアと褒めつつも、協力に関しては否定する。
「ARゲームはソーシャルゲームの様なアイテム課金制度を禁止している事は――把握している。しかし、メーカーの指示で協力出来ない訳ではないだろう」
「痛い所を突くが、いくらゲームスタッフだからと言って特定プレイヤーを優遇する様な事をすれば――」
「自分の保身を理由に協力拒否――そう言う事か」
「保身とは違うな。あくまでも守秘義務だ――こちらとて、慈善事業をしている訳ではない。ソシャゲでも同じじゃないのか?」
「確かにソシャゲのアイテム課金システムは――そう言う事だろう。しかし、ARゲームはゲーセンのゲームスタイルの延長と――」
「そこまで別の方法論などで水掛け論をしたいわけではない」
「では、ブラック企業ではないのであれば――それなりのご協力を願いたい」
神原は協力の否定に関して、ヴェールヌイから保身と言われた事には傷ついていた。
ヴェールヌイのいつもの口調もあってか、何処を強調して発言しているのかも分かりづらいのだが――。
「そこまでARゲームメーカーはブラック企業やそれに類する企業ではない。むしろ、ブラックなのは芸能事務所AとJのやっていること全般だろう」
「今のネット炎上等の状況を見て、あなたが言うのか? それを――」
さすがのヴェールヌイも、今の発言をスルー出来るほど甘くはない。自分からネット炎上するような発言をするとは――話す人物を間違えたのか?
しかし、神原も理論などを語りたいだけの理由で言っている訳ではないのは――ヴェールヌイも分かっているつもりである。
「自分は、あくまでもメーカー側の人間だ。上層部の言う事には絶対従う――」
「ゲームの終了は自分の意思ではなく、メーカーの指示、と?」
これ以上は平行線と考えたヴェールヌイは、別のエリアへと向かう事にした。結局、ここでの話は時間の無駄だったのか――。
「こちらとて、アカシックワールドと言うゲームを生み出した事は――自慢できることだろう。しかし、それその物を広めるのにはメーカー側が拒否した」
神原は――このタイミングで本音を話し始めた。何故、このタイミングなのか――?
「アカシックワールドの世界観は、インパクトがない、権利関係でもめる可能性が高い――それ以外にも様々な事情があるのだろう――。こちらも、メーカーの賢者の石にも似たような――」
モニターの方では、偽ジャンヌが今度はレーヴァテインにあっさりと倒される映像が流れている。
その歓声で、神原の途中の発言は周囲に聞こえなくなっていた。そして、その話を聞いたヴェールヌイは――初めて涙を流した。
それから数日が経過した6月10日、ヴェールヌイは新規オープン待ちとなっている施設の前にいた。
この施設はARゲームのフィールドとしては規模が大きい物となり、屋外フィールドを含めて複数機種に対応するとの事。
それ以外でもショッピングモールやイベント会場等も兼ね備えており――その規模は有明の大型イベント会場にも匹敵するだろう。
形状に関しては、複数のビルが合体したようなショッピングモールを思わせるが――この辺りは草加市が定める防災マニュアルに従った結果だ。
新規で工事を行う施設は、基本的に大型地震にも耐えられる強度、避難施設としての利用を前提としたデザイン、更には太陽光や自然エネルギーを使用する自家発電――非常にハードルが高い。
あくまでもARゲームのアンテナショップやARゲームフィールドを建てる際のガイドラインであり、それ以外では一部のみしか適用されないが。
「オープンするのは7月か――」
しかし、入口近くのインフォメーション掲示板には7月オープンと書かれている。この掲示板はそのまま、イベント会場の掲示板としても使用されるらしい。
この施設を上手く利用できない物か――とも考えたが、アカシックワールドのサービス終了は6月末日と書かれていた気配がする。
結局――何もできないで終わるのか? そう考えていたヴェールヌイは、ある場所へ尋ねる事にした。
その日の午後1時、ヴェールヌイが向かった場所――それは草加市役所だった。
市役所の混雑具合は――さほどではないが、役所は相変わらず忙しそうに見える。駐車場には、テレビ局と思われる車も――。
「ARゲーム課に――」
ヴェールヌイは、自動ドアの先に見えた受付で用件を尋ねられたので、ARゲーム課の人物に会いたいと――。
しかし、周囲は困惑の表情を見せており――この様子にヴェールヌイは場所を間違えたのか、と思った。
「ARゲーム課は草加市役所にはない。それは――パワードフォースとは違う別の作品だろう」
ヴェールヌイの目の前に姿を見せたのは、レーヴァテインだった。
彼が草加市役所に来ていた理由を尋ねようとも考えたが――彼女は野暮と考えて言及はしない。