第13話『ジャンヌとアークロイヤル』
6月6日は午前中が雨だった事もあり、ジャンヌも姿を見せなかった。
アカシックワールドは屋内でも展開されているが、彼女にとっては都合が悪いのだろうか?
「アークロイヤル――やはり、あなたは何かを隠している」
あるARフィールドでアークロイヤルを発見したヴェールヌイは声をかけるのだが――あまり反応を示さない。
ヴェールヌイもアークロイヤルが意図的に何かを隠していた事は、調べ物をしている際に偶然発見した。
彼女が過去にネット炎上の被害にあった事はまとめサイト等にも記載されており、そこは知っている。
しかし、隠していると考えたのは――起きたきっかけだ。
「ネット上では、一部プレイヤーの暴走と書かれていた。しかし、実際は――」
ヴェールヌイの一言を聞き、彼女は震えた。数日前にも拡散したのだが――。
やはり、コンテンツ市場を変える為にも――そこに向き合わないといけないのか? 黒歴史として封印した――トラウマを。
「それ以上は言わないで。分かってるから――こういう使われ方をするのは、後に風評被害を起こす元だって」
アークロイヤル自身はヴェールヌイの方を振り向く事無く、一言だけ――。しかし、そのまま去ろうとした彼女をヴェールヌイは引き留めようとする。
「一部勢力の暴走――正しい意味でコンテンツ流通が行われていない証拠。二次創作や三次創作――更には――」
「それこそ――今更なのよ。彼らは超有名アイドル商法とは違った意味で自分を表現できると思う題材を探す。それこそコラ画像とか――SNS映え、承認欲求、かまってちゃん――そう言った意味で」
「ネガティブワードを嫌悪して、それを体現するような勢力を徹底排除する――詳細は言わないが、君がVRゲームでやろうとしていたのは――」
ヴェールヌイは、何かを察する。彼女が意図的に特定の単語を使いたがらなかった事――それはトラウマにも由来しているのかもしれない、と。
それ以上に――アークロイヤルが被害にあったのは、そうした単語を振りかざして悪目立ちしようとする勢力である。
アークロイヤルを一方的に敵対した勢力とは――承認欲求や自己満足、ストレス発散等でネット炎上させて、それこそ特定コンテンツに対して損害を出そうとした事。
これを裏で行っていたのが、芸能事務所AとJのアイドルファン――そう考えていたのが、アークロイヤルだった。その当時の名前は――ウォースパイトである。
「私は他者の評価は一切気にしない。しかし、特定芸能事務所の――」
アークロイヤルは何かを言おうとしたのだが、ヴェールヌイは右手を出して話を強制的に止める。
これ以上の議論をしていたとしても――ジャンヌ・ダルクの言うコンテンツハザードの進行は止められないし、それ以上に――別のまとめサイト等が更なる炎上を行いかねない。
「今の我々に必要なのは他人の評価や承認と言ったような物ではない。そうした評価にドラッグ並の依存をしていき、ネット炎上を加速させるまとめサイトを一斉駆逐することだ」
ヴェールヌイの言う事も一理ある。しかし、それを実行しようとした人間は次々とネット炎上の被害にあったと聞く。
「アークロイヤル、君の力を借りたい。コンテンツ市場の正常化をする為にも――力を貸して欲しい」
ヴェールヌイは頭を下げる。それこそ――。
その姿を見たアークロイヤルは、これ以上の意地をはり続ける事――それには限界があった。
何のためにガジェットを受け取ったのか、何のためにアカシックワールドを始めたのか――彼女は改めて考える。
「分かったわ。あなたに協力する――」
そして、アークはヴェールヌイの作戦に協力する事を決めた。今度こそ――VRゲームで起こした過ちを正す時である。
その後、作戦のメンバーにはレーヴァテインがいる事を告げられると、アークの表情は変わったと言う。
何故、そこで表情を変えたのかはヴェールヌイにはいまいち判断に困ったようだ。
午後1時からは雨が止み始め、屋外のフィールドも解放されつつあった。
しかし、屋外よりは屋内のフィールドにプレイヤーが集中しているのは――仕方がないと言うべきか。
路面がスリップして転倒するという懸念は、レースゲームであれば中止確定の案件だが――アカシックワールドでは関係ない。
逆にサバゲ―系列だと雨と言う気象条件も利用してしまうほどだからだ。特に気象条件は関係ないだろう。
問題があるとすれば、強豪プレイヤーが混雑している屋内よりも屋外を選び出したことである。
そのメンバーの中には、ミストルティンの様な下位プレイヤーだが強豪、斑鳩のようなランカーも存在した。
さすがに――ランカー相手に自分達が勝てるわけがない、その心理状態が屋内を選んでいる原因だろう。
極めつけとしては、蒼風凛というプロゲーマークラスも参戦していたのもある。
「まさか、屋内でのバトルで思わぬプレイヤーがいるとは」
実際、彼女は雨が降っている状態の屋内ARフィールドでのバトルで10戦9勝と言う成績を残していた。
1敗したのは自身の油断もあるが、相手がレーヴァテインではわずかな油断が敗因につながる。
彼女も――レーヴァテインが積極的に参加してきた事には驚きを隠せない。しかし、この試合は予想以上のギャラリーが視聴していた。
その一方でメーカー側も思わぬ反応には驚きを隠せないでいた。
ここ数日の動画視聴者も増え始め、エントリーの再開を希望する声もあったほどである。
しかし、サービス終了を告知した関係もあって――エントリーの受け付けは再開しないとも告知していた。
「これはどういう事だ?」
「サービス終了を惜しむ声があるのは事実。そうしたプレイヤーによる、最後の思い出作りでしょう」
「それなのに、これだけの10万再生オーバーのプレイ動画が増えているのは、どういう事だ?」
「こうした傾向も、ソシャゲのサービス終了近くにおける駆け込みと同じです。しばらくすれば――落ち着くでしょうね」
会議室でも話題に上げない予定だったアカシックワールドの話で持ちきりだ。
こうなる事を、神原颯人は予言していたのか?
大きなヒットでなかったソシャゲが何かをきっかけにスマッシュヒットとなるのも珍しくはないが――。
「神原は? この状況を知っているのか?」
「残念ですが、神原は不在のようです。既に草加へ向かっているとの事ですが――」
神原の所在を聞いた幹部は、スタッフに不在だと言われるとすぐに連れ戻すように指示をしようとするが――。
「ジャンヌの一件で話題になったのは、ある意味でも炎上マーケティングと言われかねない」
「しかし、神原がそれさえも承知で何かをしようと考えていたら――」
スタッフが驚きの発言をする。それに対して幹部からも動揺の声が聞こえるが――。
それを本人が聞いている訳はない。一体、神原は何処へ向かったのか?




