第13話『決戦前夜』その2
ヴェールヌイが神原颯人から聞いた一言、それは衝撃度合いとして想像を絶する物だった。
最初は動揺程度の物だったが――次第に表情は深刻化していく。
「こちらとしても時間がないのだ。アカシックワールドのサービス終了は迫っている。メーカーとしては『打ち切り』と考えているようだ」
アカシックワールド自体、正式サービスに移行したというニュースは出ていない。公式サイトでもβテストと明記されている。
どのタイミングで正式サービスに移行したのか――ヴェールヌイには分からなかった。それ以外にも――アカシックワールドで使用されていた技術は謎が多い。
「それを私に話して、何を考えている? 仮に運営の人間であれば、メーカーの極秘情報を流すのは――」
ヴェールヌイは、ようやく彼の話した内容に関して――気付き始めた。
サービス終了すればARゲームの場合、家庭用ゲーム機に移植されるケースがないので――プレイする機会は失われる。
ロケテストだけで開発中止と言うタイトルがない訳ではないのだが、アカシックワールドはネット上でも話題に――。
「そのメーカーに関しても、既に発表済みだ。それに――特定のまとめサイトが盛り上がっているかのようにマッチポンプを行った事も、問題視されているようだ」
「マッチポンプ? どういう事だ――」
「そのままの意味だ。首謀者はアイドル投資家や夢小説勢力だろう。既に該当する人物は摘発済だが――」
「それが第3者に――」
ヴェールヌイは、ふと思う。既に公式サイトで発表されているというのであれば、ARガジェットにもショートメッセージ等で配信されている。
つまり、この情報はジャンヌ・ダルクの耳にも入っているという事を意味していた。
6月5日、ARパルクールのロケテストは最終日だったのだが――それ以上にネット上でアーケードリバースが話題となっていた。
その理由は単純明快――ジャンヌ・ダルクが動いた事を意味している。そして、彼女は本格的に作戦を実行しようと動き出す。
案の定というよりも、予想通りと言うべきなのか――センターモニターでジャンヌの動画が公開されていた。
しかも、このジャンヌは正真正銘の本物である。しかも、ARメットを被っていないので正体バレバレだと言うのに。
『アカシックワールドがサービス終了をすると公式から発表があった。何故だと思う?』
『意図的に盛り上がっているように自作自演とも取れる宣伝を行った結果――運営側が終了を宣言したのだ』
ジャンヌの口調は変わらない。センターモニターで流れる動画を見て、衝撃を受ける者もいれば――ようやく終了するのか、という人物もいる。
アカシックワールドに関してはネット上でも様々な部分で叩かれる要素もあったのに加え、そこにジャンヌ・ダルク事件が起こった。
どう考えても、超有名アイドルの宣伝で利用される事は目に見えていたのかもしれない。
『その状況を生み出した人間は――単独犯ではない。かなりの数だ』
『様々な部分で革新を生み出したSNSだが、光もあれば闇も存在する。その闇とも言える欲望が――』
『一連のネット炎上を生み出した。それは誰もが目撃した事だろう。様々な部分で警告されて来たことでもある』
『私は、ネット炎上やマッチポンプを引き起こす存在を排除する。それに関しては既に、こちらも警告をしてきた――』
ジャンヌの発言は、どれを取っても刺さるような物ばかりだ。
ネット炎上は自分には無縁だと思う人物でも、まとめサイトを鵜呑みにしたりネット炎上を引き起こすようなつぶやきを拡散していれば同罪――そうジャンヌは考えている。
『だからこそ、本格的にネット炎上を利用して利益を稼ごうと言う勢力を――本格的に潰す事を考えた』
『君たちは、今までSNSを使って発言してきた事が――時に人を傷つけ、更には追い詰めていく――その事を自覚するべきだったのだ』
『幸い、この世界はデスゲームやリアルウォーのような世界ではない。だからこそ、君たちは――世界の真実を知るべきだろう』
ジャンヌは特に動く事はない。立て看板だったり、等身大人形を身代わりにしていたり、フルCGで出来ている訳でもない。
ARアーマーはCGだが――そこへ突っ込む人物はいないだろう。
『VRゲームにおける、あるプレイヤーを炎上させた案件。それはネットイナゴやまとめサイト勢力、更には――』
ジャンヌの動画はここでノイズが入り、途中で途切れた。一体、彼女はないを訴えようとしていたのか?
「なるほど――それが君の考えか」
神原は草加駅のセンターモニターで動画を見ていた。彼は、ジャンヌの行動に関して何かあると考えていたのだが――。
結局、彼女はネット炎上勢力を利用して目立とうと言うネット動画投稿者に過ぎなかったのか?
その一方で、この動画に関して疑問に思う人物もいる。その一人は意外な事にレーヴァテインだった。
「ジャンヌは何かを急ぎ過ぎている可能性が高い。だからこそ、あの動画を流した。そして――行動は別のエリアで起こす気だろう」
レーヴァテインはロケテスト会場の松原団地にいたのだが、今から駅へ向かって草加へ向かって――間に合うのか?
それに加えて、VRゲームでのあるプレイヤーを炎上させた事件を取り上げたのも気になっている。
VRとARではシステムが違う部分もあり、お門違いとネット上で叩かれる――そのはずだ。
「こちらの懸念が当たらなければ、いいが――」
駅へ向かおうとするレーヴァテインを妨害する勢力は、当然いるだろうが――そうした勢力は、あっさりと片づけられていた。
それこそ、ジャンヌの『計画通り』と言う説も非常に高い。彼女は、何を潰そうと焦っていたのか?
あるいは――焦っているような場面や最後の部分がノイズで途切れたのも演出だったのか? 全ては、草加市で決着する。