第12話『暴かれる世界』
別のエリアで展開されていた斑鳩とレーヴァテインの戦いは、結果としてレーヴァテインの勝利で終わった。
しかし、そこで語られた衝撃の事実は――彼女の耳には届いていない。何故なら、アークロイヤルはレーヴァテインが2本取った辺りでARパルクールの行列に並んでいたからである。
「そんな事実があったとは――」
「まとめサイトのつぶやきに見覚えがあるフレーズがあった段階で気付くべきだった」
「全ては仕組まれていたのか?」
「芸能事務所を陥れる為とか――犯人は何を考えているのか」
周囲のギャラリーは、そんな事を言っているが――彼女はARガジェットに集中していて、耳を貸していない。
今の彼女にとって――雑音にしかならない話題ではないのは分かっているが、周囲がそれを邪魔している。
本来であれば、この映像は動画サイト経由等で拡散するべき内容だったのだ。
それをARセンターモニターで公開設定したのは――彼女にとっては失敗と受け止められている。
バトルが終わり、ヴェールヌイは残った菓子パンやドーナツを食べつつ、動画の再生数を確認していた。
中継ではある程度のギャラリーが見ていた事は、コメント数等を見れば分かる。しかし、問題はそこではない。
「一定のプレイヤーに注目はされたかもしれないが、これでは失敗と言うべきか――」
多くのプレイヤーが視聴したのは事実だが、そのコメント内容は――民度の低さが目立つ一言ばかりである。
中には放送禁止用語もあった為、該当コメントは非表示になっているが――後は、顔文字や赤文字コメント等も目立つ。
ヴェールヌイは滅多にしないような深刻な表情で、動画の反応を注視している。
「どうだったの?」
ARスーツを解除し、メイド服姿に戻った斑鳩がヴェールヌイの元へと向かうが――表情が何時もと違う事に疑問を抱く。
「反応は――あった。しかし、これでは失敗と認識されても仕方がない」
何が間違っていたのか、ヴェールヌイには回答が見えない。しかし、それとは違う反応を示した人物も何人か存在する。
その人物の一人、それはリアルタイムで中継を視聴していた人物だった。
草加駅のアンテナショップ近くにあるコンビニ、そこで中継を視聴していたのは――神原颯人だ。
「第三者の介入は――間違いない。しかし、どの勢力が介入したのか分かれば――」
既に開発も完了したはずのゲームに、ここまで愛着を持つのも彼にとっては珍しい。
開発が終われば、後はメンテナンスなどの一部作業以外でゲームに介入する事はないのである。その彼が、異例とも言える反応をしていた。
それに加えて、彼はこの作品を何としても広めようとも考えていたのだ。滅多に組めないような人物と組めた事――それが理由だろうか?
「ネット炎上勢にしては手口が幼稚だ。芸能事務所もネット上で警戒されている以上はあり得ない。アイドル投資家は、もっと違う――」
神原は口には出さないが、様々な勢力に関してエゴサーチしていく。しかし、手がかりになるような情報は出てこない。
レーヴァテインの言っていた事も気になるが、それ以上に気になったのは――。
『あなたがジャンヌ・ダルクと言っている人物、それはVRゲームでも有名だったコスプレイヤーゲーマーよ』
バトル中の唐突な斑鳩の一言だ。これは、自分にとっても引っかかる要素にもなっている。
確かにアカシックワールドでは、オプションとして出現演出等をカスタマイズできるが――特定演出は禁止していた。
主に点滅要素が強い物――に限定されるが。しかし、ジャンヌ・ダルクはその様な演出は使っていない。
使っていた演出は、アバター出現演出と消滅演出である。おそらく、上手くカスタマイズしてそう見せかけた物かもしれないが。
「ジャンヌの正体がわかっても、次は――あのつぶやきコメントの出所か」
神原も薄々は気付いていたのだが――まとめサイトや一部の炎上系サイトで使われていたつぶやきコメント――それは全てねつ造されていた物だったのである。
本物のつぶやきもあるかもしれないが、素人ではすぐに見落とすか、あるいはそこまで気にしないで拡散をしていくだろう。
それが向こうにとっては狙いだったと言える。それを証拠に、あるまとめサイトがアカシックワールドを取り上げた結果、ゲーム名称や内容も一気に広まった。
ゲーム作品をネット上で拡散し、広めてくれること自体は悪い事ではない。それは逆に歓迎すべき事なのだ。
しかし、彼らの場合は――その内容を歪めている事が問題視されている。俗に言うネット炎上、ジャンヌの言葉で『コンテンツハザード』か。
一部コンテンツだけが生き残り、他は排除されるような選民思想やディストピア、フジョシや夢小説勢力や一部の過剰なファンによるオリジナルキャラの俺TUEEEに例えられるような考え方をする二次創作――。
賢者の石と揶揄される芸能事務所側の超有名アイドル商法、特定芸能人のゴリ押し――それらを放置する訳にはいかないのだ。
全てのコンテンツが正常に流通していく事、それを神原は望んでいる。