第11話『動き出す勢力達』その3
ヴェールヌイと遭遇した蒼空名城だったのだが、彼はすぐに姿を消してしまった。
どうやら、偽警備員が気になったという可能性が大きいだろうか? 特に話を聞くような相手とも思えなかったので、この対応は正解かもしれない。
【草加市役所の近くで騒動があったらしい】
【偽警備員か? その手のニュースは見飽きている】
【ソレとは違う物もあった。おそらく――】
【しかし、一部の芸能事務所は今までやって来た賢者の石に背を向けて、一連の事件を炎上させようとするだろう】
【それこそ、パワードフォースの再現か?】
【パワードフォースの再現は、速い段階で否定されたはず。ジャンヌ・ダルクが姿を見せた段階で】
【ジャンヌ自体はパワードフォースには存在しないキャラだ。しかし、こうも例えられるのでは――クロスオーバーと】
【それこそあり得ないだろう。権利関係とかクリアする課題が多すぎる。パワードフォースと別の作品をクロスオーバーさせるなんてことを――】
【ソシャゲのコラボ枠みたいな扱いであれば――あり得るのでは?】
【しかし、ARゲームのコラボ枠もあるにはあるが――】
【最近になって超有名アイドルの楽曲をリズムゲームにゴリ押し収録しようとした芸能事務所が、運営に警告されていたな】
【それ位にARゲームのコラボ枠には壁が多い。実現したとしても――ジャンヌの様な存在が登場するかどうかも疑わしい】
【しかし、ARゲームのアバターデザインは特に制約がないはず。さすがに権利関係が危険な海外作品はアバター再現している人間はいないが――】
【つまり、ジャンヌ・ダルクも実はプレイヤーの一人と? それこそ冗談がきつい】
【考えても見ろ、ARゲームのNPCやターゲットキャラと同じようなCG演出で消えるようなプレイヤーが――】
【そう言えば、アカシックワールドではCG演出や一部のガジェット回りもオプション設定出来ると書かれていたような――】
【こう言いたいのか? ジャンヌ・ダルクの正体は――】
ヴェールヌイはスマホで一連のつぶやきサイトをチェックする。もちろん、歩きながらではなく市役所前で立ち止まった状態で。
周囲の視線もあるのかもしれないが――彼女を指差す人物もいないので、そのまま画面に集中しているようだ。
「――ジャンヌ・ダルクの正体が判明しつつあると言う噂、あながち嘘ではなかったか」
冷静に状況を整理したヴェールヌイは草加駅方面のアンテナショップへと向かう事にする。
その姿を見て、スマホで写真を撮ってネットで拡散しようとするような人物は――大抵が監視ドローンに捕捉され、ガーディアンを呼ばれる事になるのだが。
チートプレイの現実は、やはりというかARゲームの運営にも影響を及ぼしていた。
一部運営では使用禁止を明言してはいたが、使用者が後を絶たない為に――遂にはアカウント凍結等の対応を取る事になる。
チートを規制しただけで神運営と呼ばれる訳ではないし、ARゲームの運営は別の事情で『神運営』と呼ばれる事を避けている傾向があった。
それはアークロイヤルの関与したと言われているVRゲームの炎上騒動、マッチポンプ疑惑がありつつもうやむやになった一部のARゲームで起こった超有名アイドルの宣伝行為――。
こうした事件がARゲーム運営の神運営と呼ばれるのを嫌う事情なのだろう。神運営という称号は、彼らにとって芸能事務所AとJにコンテンツ炎上の口実を与えるものだから。
「神運営という呼称は、あくまでもネットスラング――そう割り切れない運営にも認識の違いがあるのかもしれない」
会社でのデスクワークに集中する神原颯人は、ネットの情報を鵜呑みしない方向で情報収集を続ける。
ゲームの運営であれば、誰もが理想の運営にする為――様々な対応をするのは当たり前だ。しかし、人間がやる事なので確実に失敗しないと言う事はない。
失敗が一切ない運営があれば――それはフィクション上のゲーム運営なのは間違いない。もしくは欠陥だらけのゲームに対して――と言うのもWEB小説のVRMMO物にある傾向だ。
しかし、わずかなミスに対しても『詫び石』と要求するようなソシャゲも存在し、プレイヤーのモラルも問われているのは事実だろう。
ARゲームに関しては最初からプレイするのに投資が必要なので、ソシャゲの様なアイテム課金制度と言う概念はない。
それでも――アイテム課金のソシャゲと同率にARゲームを騙るような人間がいるのは事実であり、そうした勢力がネット炎上を起こしている。
「コンテンツハザードとは――良く言った物だ」
神原はジャンヌ・ダルクの言った事を思い出しながらも、情報収集に全力を注ぐ。
しかし、何でもタダで入手出来るような――そう錯覚させるようなコンテンツ市場にも問題提起を起こす声もあり、そうした勢力が炎上すると言う話もある。
いっそのこと、コンテンツ市場の話題から撤退してジャンヌ・ダルクの思うままに変革を起こさせるのも手かもしれない――そう考える人間もネット上では少数いた。
「しかし、コンテンツに対し――理想の対価が得られる事をゼロから教えなくてはならないのか」
一次創作至上主義ではないが――そうした意見も存在する。しかし、こうした意見は歌い手や実況者を題材とした夢小説を書くフジョシ勢力が容赦なく炎上するだろう。
共存共栄出来るのか――という疑問も浮上する中、神原はあるプロジェクトを始める為の計画を密かに進めていた。
《アカシックワールド・ネクストステージ》
企画書と思われる電子ファイルの表紙には、そう書かれていた。
どのような内容なのかは、トップシークレット表記もあって――現状では不明のままである。