第11話『集うランカー達』その4
午後1時頃には――様々な所で動きがあった。
【ジャンヌが動いたという話が――】
【ジャンヌ違いじゃね?】
【あのジャンヌだとしたら、今回出没したのと外見が違いすぎる】
【別のプレイヤーネームをジャンヌと見間違えただけじゃないのか?】
【意図的に衣装を変えただけかも】
【それはあり得ない。今回の目撃されたのは、どう考えてもネット炎上目当ての勢力だろうな】
ネット上ではジャンヌ・ダルクの目撃情報があったのだが――それは偽物だという意見が大半だった。
その5分後には、あっさりと倒されたという情報がネット上で拡散し、予想通りとする意見が多く目撃される事に――。
『偽者が相変わらず現れる現状を踏まえて、ひとつ良い事を教えてやろう――』
一連の偽ジャンヌ騒動に目ざわりと感じ始めた本物のジャンヌは、ある動画を投稿した。
その内容は、ある特定の人物でなければ分からないようなレベルの情報だったのである。
『アカシックワールドはデスゲームではない。だからと言って、芸能事務所が主導するようなコンテンツでもない』
そして、ジャンヌはこう告げたのである。その口調は、まるでネット住民やまとめサイト等が予想していた説をあざ笑うかのような――。
『新たなコンテンツ市場を生み出す為に――古き悪しき慣習を根底から打ちのめす為のステージだ。芸能事務所の賢者の石を完全破壊する為の――』
彼女の口から語られた衝撃の事実、それはアカシックワールドは単純なロケテストではなかった事だったのである。
しかも、それは賢者の石と呼ばれるコンテンツ流通にとっては悪しき風習を排除し、正常なコンテンツ流通を行う事だった。
『これだけは言っておこう。私は偽物達や特定信者が言っていたような正義の味方ではない。ましてやアンチヒーローでもない――』
彼女は周囲の動揺が聞こえるかのような見下したような口調で、話を続けていた。まるで――まとめサイトをあざ笑い、閉鎖へと追い込むような――。
『私は単純に芸能事務所が暴走した結果としてのコンテンツ流通――それを警告する為だけに呼ばれた存在と言ってもいいだろう』
『つぶやきサイトで言及してもスルーされ、ブログ等の手段でもスルーされ続ける状況で、私はそれを語る事の出来るだろうフィールドを見つけた。それが――ARゲームだ』
『覚えているがいい――過去のARゲームを混乱させた事、VRゲームをサービス終了に追い込んだ事件――それらに芸能事務所AとJが関わっていた事実がある限り、全ては終わらない――』
動画は、ここで終了している。他に何か発言するような物があった訳ではない。これが全てと言うべきか?
ネット上でもジャンヌのやっていた事に対して、夢から覚めたような表情をする人間もいる。
彼女の発言や行動を美化し続けていたような勢力も、ジャンヌではなく別の歌い手や実況者の夢小説へとジャンルを鞍替えしているような――様子だったという。
それ程にジャンヌの真実は周囲を白けさせてしまったのか? 逆に言えば、これ以上の深入りをすれば容赦なく切り捨てると言う警告と考える人物もいた。
この発言を受けて、アークロイヤルは何かが気になったかのように情報収集を行っていた。
ジャンヌは、やはり何かを知っている――と。そして、VRゲームと言う単語にも数回言及した事で――ある疑惑まで浮上する事になる。
「あれは――やはり、別作品のジャンヌ・ダルクではない」
アークロイヤルは引っかかっているようなワードがあると考え――タブレット端末で情報検索を始める。
今のタイミングでジャンヌ・ダルクを検索しようとすると――例の動画に関するネガティブな意見をまとめたサイトやアフィリエイト系サイトが表示されていた。
これでは有力な情報が埋もれてしまい、真実へたどりつけなくなってしまうだろう。それでも――。
何度かワードを絞り込み、マイナス検索等をフル活用した結果として――あるWEBサイトの名称がトップに出てきた。
そのサイトは解説では『WEB小説投稿サイト』と書かれているのだが、本当にそうなのだろうか?
「このサイトは――!?」
アークロイヤルもサイトトップを見て驚いた。
このサイトには様々なWEB小説が投稿されている――その全てが一次創作だった。二次創作は全くないと言ってもいい。
しかし、小説と言う形ではないような物が目立つのも特徴だった。その内容は半数以上がコンテンツ市場批判であり、芸能事務所AとJの名前を出さないものの――会社の方針批判も多いだろう。
何故、このようなサイトが放置されていたのかは不明だが、デジタルアーカイブの類ではなく――現在も作品が投稿されている。
「これだけの作品が削除されずに――」
情報の役には立たないと思うが、掲載されている小説の内容を見てアークロイヤルは驚くしかなかった。
内容はフィクションである事を前提にしている為、コンテンツ市場批判でも的外れな物や古い物があるかもしれない。
それも、一連のARゲームとコンテンツ流通を巡る事件――。ネット上では都市伝説と言われているような物まで存在している。
本当に一連の事件がフィクションだったのかは、今となって探ることは困難だろう。一部で映像が残っていたとしても、特撮の撮影等で処理されかねない。
「これって、草加市の――聖地巡礼化の?」
その中で、一つの作品を発見する。それは、草加市がARゲームの聖地巡礼化を考えていたと予測されるであろう小説。
その中身は別の意味でもアークロイヤルを困惑させる。まるで、この小説は実際の出来事を参考にしたのでは――と。
「それに、このニュースは――!!」
思わず声が出てしまうような内容の小説を発見し、アークロイヤルは驚く。
その内容とは――ジャンヌ・ダルクと言う人物が登場する小説だったのである。それだけであれば、さほど驚くようなことはない。
過去にも類似小説は二次創作でも目撃していたし、ソーシャルゲーム等でも存在するだろう。
しかし、今回発見した小説は一次創作だ。決して、何かのジャンヌ・ダルクがベースと言う訳ではない。
「虚構神話の我侭姫――」
小説のタイトルには我侭姫とある。これをデンドロビウムと読ませる小説もあるのだが――それとは話が別物だ。
その作者名には見覚えがないのだが――何か引っかかるものがあったのは間違いない。その名前は――。
「青空奏――?」
顔には見覚えがないのに、その名前には何か覚えがあった。
一体どこだったのか――今のタイミングでは思い出せそうにない。