第2.5話:『その手にした物の正体』
神原颯人とアークロイヤルは動画を視聴する事にした。
ガジェットの事に関しては、ダンマリではないのだが――横道にそれた話ばかりで、なかなか本題に入らない。
そう言った事もあり、百聞は一見に如かず――と言う事で動画を見る流れになったのである。
「特殊なガジェットと言っても――ネット上ではMRと呼ばれているが、それとも違う物を――生み出したと言ってもいい」
そして、タブレット端末とは別のモニターを操作し、何かの動画を検索し始めた。
動画に関してはVRゲームやARゲーム以外にも、様々なサイトの動画を視聴できる。
ただし、アダルトビデオの様な年齢制限がある物、ニュース的な物、政治色が強い物、倫理観の問題が指摘されるグロ画像等は公開されていない。
「これは――」
アークロイヤルも初めて見る動画なのだが、これがARゲームと言うらしい。
拡張技術を利用し、CG等で疑似的なごっこ遊びが可能――と一部のまとめサイトは言及しているが、あながち間違いではなかった。
「これがARゲームだ。VRとは違って、広いフィールドが必要、現実とゲームの区別がつかないと言う事で――色々とネット上では議論が尽きないが」
現在見ている動画では、まるで本物の格闘ゲームを見ているかのような――非現実的なバトルが展開されている。
プロレスや相撲、格闘技中継では体感できないような空間が、目の前で展開されていたのだ。
例えるならば――バトル漫画を実写化とは違う形で映像にしたような――そんな気配がする。アニメ化とも――違うかもしれない。
流れている動画では、気功波の様な光線系の必殺技、更には瞬間移動の様な高速移動までやっている。
これは――さすがのアークロイヤルも開いた口がふさがらない。
VRゲームでも、ここまでの物は出来るのだが、それはあくまでも――VR空間での話。ARは現実空間で行われているのだ。
「信じられない。これが、ゲームだと言うの? 下手をすれば、怪我だってする。更に言えば――」
思わずアークロイヤルも熱く語っている。先ほどまでは興味すら湧かなかった話題なのだが、映像を見て何か感じたのかもしれない。
「ARゲームは、あくまでも現実空間に付加情報を表示させて、現実空間を拡張――それを利用したゲームだ」
そして、動画の終了時間になったタイミングで別のゲーム動画をタッチして表示させた。
次の動画はレースゲームに見えるが、乗っているのはバイクや自動車と言った物ではなく、ボードだと言う事にアークロイヤルは驚く。
しかも、そのボードは変形してロボットになった事には――。
「しかし、アカシックワールドは違う」
神原の目つきが変化し、遂に本題――という感じを彼の表情から感じた。
それ程に重要なガジェットを自分が手にしたのか、アークロイヤルは改めて思う。
「アカシックワールドは、ネット上ではMRと言う複合現実とも言及されているが――それとはもっと違う物だと、思っている」
動画を閉じて、アークロイヤルが手にしているガジェットとは違う物を取り出した。
この形状には――アークロイヤルも見覚えがあったのだが、それもそのはず――。
「これって、真戯武装パワードフォースの――変身アイテム!?」
見覚えがあったのは当然である。目の前に出てきた物の正体、それは真戯武装パワードフォースのバトルガジェットだったのだ。
ガジェットの名称はシリーズによって異なり、形状も違う。この辺りは玩具メーカーの商品戦略もあるのかもしれないが。
神原が取りだしたバトルガジェットは、ハンドコンピュータと言うなブレスレット+投影型モニターと言う変わりものである。
時計型の携帯電話なども商品化されて話題となったが、それ以上に最先端を行くようなガジェットだったのだ。
放送当時、まさか類似形状のガジェットが現実化するとは――玩具メーカーサイドも予想外だったかもしれない。
「アカシックワールドが目指している物、それは真戯武装パワードフォースのリアルゲームを生み出す事だ」
神原は本来の目的を話す事は、この段階では非常に危険と判断し――予定を変えて若干ぼかした形で話した。
しかし、アークロイヤルの方はバトルガジェットの現物を見て目をキラキラしていた為に、そこは聞いていないと思うが。
現実世界と仮想世界の壁を破壊し、将来的には真戯武装パワードフォースの世界が日本で実体験できるような――と行きたい所だが、色々と上手くいかない。
神原は噛み砕いて色々とアークロイヤルに話すのだが、バトルガジェットを操作していてそれどころではないようだ。
「そう言えば、最新作も玩具のCMは見たけど――アレも?」
「さすがに――そちらは、まだ無理だな。権利問題よりも、別事情だが」
アークロイヤルは、神原の回答を聞いてガッカリする。それでバトルガジェットから手を離すかと言うと、そうではなかった。
自分も同じような物を――と神原は思うのだが、アークロイヤルにとっては目の前にあるバトルガジェットの方が重要かもしれない。
神原は、更にもう一つ、伝え忘れそうになった事があった。
それは――あの時のバトルを無効にした手段について――アークロイヤルが興味を持つかどうかは別にしても、話しておく必要性はあった物である。
これに関しては、ガジェットにダウンロード済みのアプリをアークロイヤルに見せた。
「そのアプリって、ARパルクールの――?」
アークロイヤルもある程度のジャンルは知っていたので、タブレット端末に表示されているアプリアイコンがARパルクールの物であると分かった。
しかし、これとバトルの中断に何の関連性があるのか?
「噛み砕いて説明すれば、ゲームフィールドの予約をギリギリのタイミングで入れた。そして、アカシックワールドは強制中断――と言う事だ」
原理を説明してしまうと犯罪に転用される恐れもあるので、神原は噛み砕いて説明するにとどめる。
ゲームのダウンロードを行っていたのは、ARパルクールのアプリをインストールしていた為だろう。
そして、ギリギリのタイミングでアプリを起動して――フィールドを予約する形でゲームを中断させた。
実際に別ゲームの待機プレイヤーを見かけたのは、このゲームをプレイする為だったのかもしれない。
アークロイヤルには、若干どうでもよい事だったが。
その後も色々な話をアークロイヤルとしていく中、午後4時となった。
「そろそろお時間ですが――延長しますか?」
5分前位にはスタッフが訪ねてきたのだが、延長しない事を既に告げていたのである。
そして、話も終わったので店の入口でアークロイヤルとは別れる事に――。
店の外へ出て、帰路に就こうとしたアークロイヤルだったが、ふとした事でコンビニに設置されたモニターが気になった。
モニターの形状としては薄型テレビの様なスペースを取らないタイプと思われがちだが、色々と装置が付いているので実は巨大な機械でもある。
センターモニターでは、該当フィールドで行われているARゲームへのエントリー、動画や中継映像の視聴と言った物も可能。
しかし、ゲームアカウントその物はアンテナショップでエントリーを行う必要性があった。
インターネット上でもアカウント作成は可能だが――手続きはアンテナショップでやった方が時間がかからないだろう。
アンテナショップだと手数料が若干かかるが、インターネット上では手数料が無料になる。
それを踏まえると、少し手までもインターネットで行う人間が多い――とは限らない。
「ネームは――?」
プレイヤーのネームを見て、アークロイヤルは別の驚きを覚えた。
それは、真戯武装パワードフォースにも登場する人物と言うよりもパワードフォースと同名だったからである。
「斑鳩――? それに、対戦相手は――見覚えがある?」
そのネームは斑鳩と表示されている。漢字も出ていた為に判別出来たような物だが――。
もう一方の相手は、あの時に戦った騎士とも似ていた。騎士と言うモチーフ自体、出尽くしている気配はするだろう。
「アレが噂の――」
「ネット上では、既に100人ほどは倒されているという話だ」
「ゲーム荒らしか?」
「単純な荒らしであれば、運営がアカウントをはく奪するだろう」
「しかし、噂では彼女に関する通報は行われていないようだな」
周囲のギャラリーの話が聞こえてきた。ネット上では既に噂が出ている事に――アークロイヤルは言葉に出来なかったようだが。
それに加えて、彼らの話で聞こえてきた単語と言うのが――。
「ジャンヌ・ダルクとは――何とも皮肉な名前を付けた物だな」
これを聞いたアークロイヤルは、何かを思い出していた。それは、トラウマと言っても過言ではない物である。
確かにジャンヌ・ダルクと言えば歴史上の偉人であり、それをモチーフにしたゲームやアニメの登場人物は――大勢いるので、特定困難なのは間違ない。
しかし、あの時に見たアーマー、素顔を隠す気配がない様子は――VRゲームでの類似プレイヤーを思い出し――。
『私の最終目標、それはコンテンツハザードを起こすことだ』
その時に彼女が言い放った一言――それが彼女の脳裏にフラッシュバックする。
あの時のバトルでは何も言及はしなかったが、おそらくは自分があの場にいた事に向こうが気づかなかったから――と言う可能性も否定できない。
バトルの方は、1対1と言う仕様で行われている。これは、アークロイヤルが行った時と同じ物だった。
どうやら、基本システムは同じと言う事のようであるが――明らかに不利なのは斑鳩。
「既にゲージは2割弱――向こうはノーダメージにも等しい。明らかにチートが使われているような疑惑もあるのに」
若干に気を切らすような――不利な状況。北欧神話チックな鎧は、アーマーの耐久に関係しないようなマーキングや装飾が若干は出であった。
それに、ARメットはフルフェイスタイプであり、そこに神話の騎士を思わせるアーマーが発生しているような状態である。
ARアーマーはインナースーツとARメットに装着される、テクスチャーの様な物に該当していた。
それでも、耐久度がある事は――不思議ではあるが、それも一種のご都合主義としてゲーマーには受け止められている。
使用している武器は、既に遠距離武装のビームキャノンと中距離用の30センチ位の小型ブーメランは使用不能――打つ手なしだ。
持っているのは、近距離の2メートル前後はするであろう大型のシールド一体型のロングブレード、これでは機動力と言う部分で勝ち目がない。
射程としては1メートル未満でなければ、大型過ぎてまず当たらないだろうか。実際、斑鳩とジャンヌの距離は5メートル以上ある。
『チートだと? チートではないのは、ゲーム前のチェックでも明らかだろう』
一方のジャンヌは余裕の表情で斑鳩を追い詰めていく。
彼女には挑発や煽りという感情で言及している訳ではないが、ネット上のまとめサイト等ではそう捉えられていた。
まるで、彼女が突如として現れたコンテンツ流通を妨害する刺客――そう言う筋書きをまとめサイトや一部メディアが考えているようでもある。
そう言う風にしたいのは、芸能事務所AとJから資金提供を受けてネットを炎上させている悪目立ち勢力やフーリガンと言う単語で例えるのも、サッカーファンには失礼な集団――。
『タイムオーバーも間近だ。素直に降伏をすれば――』
ジャンヌは、まさかの降伏勧告である。冷静に言及している辺り、もしかすると余裕の発言なのか?
「ここで降伏する位なら――」
斑鳩の目は――まだあきらめていなかった。だからこそ、距離を詰めて一撃を加えようとしている。
武器の威力を考えれば、この一撃が当たれば――数割は削れるだろう。そこからチャンスを――。
『降伏をしないか。ならば、仕方がない――』
右手でパチンと指を鳴らすと、何もなかった空間から斑鳩を取り囲むように1メートルほどの細長いシールドが複数出現した。
まさか――と考えた斑鳩も、瞬時に出現した物体に即座対応できるような空気ではない。
いくら、彼女がプロゲーマーに片足を突っ込んでいるような実力者でもあっても――勝負は見えていた。
『舞え――エクスカリバー!』
細長いシールドは、分離と変形を繰り返し――1本の剣に変化した。
その剣を、彼女はエクスカリバーと言った。聖剣エクスカリバーの逸話は有名だが、あまりにもメジャーな武器を――彼女が使うのか?
結局はなすすべもない斑鳩は、エクスカリバーに切り裂かれるような形で敗北する事なる。
アーマーブレイク等はせず、アーマーに傷はあっても血が流れているような描写は全くない。
リアルとゲームの中間点――と言う意味でも、パワードフォースの原作再現と言って差し支えはないだろう。