第10話『ジャンヌの反撃』その2
大型スクリーンのジャンヌ・ダルクの演説は続く――。周囲には数百人は集まっているだろうか?
そして、警察が出動する展開にもなっていた。しかし、さすがの警察もARゲーム絡みには首を突っ込みたくないので、あくまでも一般人がスーパー等へ入られない状況を解消する為の交通規制しかできない。
『大量破壊兵器を用いるような手段は――私の趣味ではない。あくまでもデスゲーム以外の手段で、この世界を征服してこそ――私の目的は完遂する!』
この発言を受けて、ネット上は様々な個所で炎上をしていたのである。
ある意味で、彼女はコンテンツハザードがどのようなものか――分からせようとしたのかもしれない。
その一方で――このやり方に関してはゴリ押しと言う声もあれば、効果を疑問視する声もある。
ネット炎上を止める為には――やはり、憲法で規制するか禁止するしかないと言う極論に発展しかねない発言さえあるだろう。
「やはり、このやり方には――何か裏がある」
この考えに至ったのは、アークロイヤルだった。この手法には覚えがあると言うよりも――。
【あのアークロイヤルを騙る人間は――】
ジャンヌの発言を聞いた時、過去に見たことのある書き込みを思い出したのだ。
その時の書き込みでは、犯人は別にいると言う事だったが――真相は自分がVRゲームを離れる辺りまで、分からずじまいだったと言う。
最終的に芸能事務所Aのアイドルファンが炎上させた事実が公表されたのは、それからしばらくしての事である。
「ジャンヌ・ダルク――自分が炎上勢力に仲間入りしてどうするつもりなの?」
アークロイヤルも、ジャンヌの演説を聞いて、それを感じている。
しかし、彼女としては炎上勢力とは違うとでも言いたそうな気配がするが――。
『もう一度だけ言う――アカシックワールドを使って、ネット炎上勢力を一掃する! これは遊びではない――コンテンツ市場を守る為の聖戦だ――』
演説は、ここで謎のノイズに妨害される形で中断される。ノイズは動画サイトで配信されている物限定で、大型ビジョンでは発生していない。
動画サイト側で見ていたヴェールヌイは、大型ビジョンのある場所へと向かおうとするが――行ける距離なのかと言うと、別の問題で行けない状態になっている。
「まさか――こういう事になるとは」
アンテナショップを出たヴェールヌイは、草加駅の方へと向かおうとしたのだが――交通規制が敷かれていたのだ。
この状況では、タクシー等も迂回、シャトルバスも満員で乗れない可能性も高い――歩くか、該当の場所までARマシンを使うか、どちらかしかないだろう。
「彼女の考えが、仮に――」
ヴェールヌイが危惧しているのは、彼女の発言を歪んで受け止めた結果として――大規模テロを起こそうと言う人間が現れることだ。
ジャンヌは命の奪い合いを望んではいないし、そうした世の中を全て否定しようとも考えているかもしれない。
だからこそ――あの時にデスゲームと言う単語であるワードをオブラートに包んだ可能性が否定できなかったのである。
大型スクリーン付近では、警察が誘導を行っているのだが――ジャンヌの方を見ている警官はいない。
やはり――スルーしているのが正解と言うべきか。その一方でガーディアンも一般人の誘導を行っているが、こちらは――モニターの方を見たりもする。
これがARゲームに関与しない側と関与する側の差と言うべきだろう。それをリアルで見せられているような光景に、周囲は衝撃を受けた。
『今回の映像をジャンヌの名を騙った人物によるネット炎上と言う人物もいるだろう。その辺りの認識は人それぞれだ。私は否定しない――』
『しかし、一部芸能事務所やアイドル投資家の様な暴走を行う勢力が歪め、まとめサイトを利用してネット炎上をビジネスにするような事――そう言った過去の拝金主義を引きずるコンテンツ流通の考え方は改めるべきだ――』
『私はコンテンツ流通を正常化しようという考え方を持つ人間に関しては、排除をしない。しかし、拝金主義や利益重視に走るやり方は――火を見るよりも明らかに失敗する』
『芸能事務所Aと芸能事務所Jを唯一神とするようなビジネススタイル――拝金主義を更に強めたような賢者の石を用いるコンテンツ流通ノウハウは、時代遅れなのだ』
一連の発言を聞いていたレーヴァテインは、心底機嫌が悪いような――そんな状態で一連の演説を聞いている。
それでも、彼が物を投げたりするような行動に出る事はない。駅のホームで視聴しているのも、駅の下の光景を見れば一目瞭然だろう。
「やはり、あのジャンヌ・ダルクは――そっちではないか。これで決まりだな――」
レーヴァテインはカレーパンを食べ終わった所で、ベンチから立ち上がり――近くの視線に入った階段から降りる事にする。
「次のターゲットは決まった。倒すべき敵は――」
レーヴァテインが立ち止まり、持っていたタブレット端末である人物を検索し始めた。
そして、数秒後に表示された人物――それはアークロイヤルだったのである。
『最後に一つだけ言っておこう。私はクールジャパン構想、聖地巡礼、市町村等によるコンテンツを盛り上げる為の方法――そう言った箇所に関心がない訳ではない』
『やり方を間違えれば、それらも大失敗してネット炎上し――それが芸能事務所AとJだけが盛り上がればいいという展開になる』
『一部の歪んだ愛情や感情、不満などが――歌い手や実況者を題材としたナマモノ文化の表舞台進出、一部アイドルファンのフーリガン化――そう言った傾向を加速されているのだ』
『私は警告をする。歪んだコンテンツ流通は、拝金主義者や特定芸能事務所に悪用され――リアルウォーを呼び込むきっかけに――と』
ジャンヌの演説は、そこで終了した。彼女の発言は――ある意味でも危険領域に入っていることは間違いない。
しかし、それを何の迷いもなしに否定できる人間は――演説を見ていた中には全くいなかったのである。
「確かに――我々は踊らされていた。芸能事務所AとJに」
「しかし、それは芸能事務所AとJに対して存在を抹消するようにも――」
一部ギャラリーは動揺する。ジャンヌは芸能事務所を滅ぼしたいのか、と。
しかし、そんな事をしなくても芸能事務所は自滅するとも言っていた気がした。つまり、彼女の発言はそこがメインではない。
結局はネット炎上こそが悪であり、別の意味でも形を変えた代理戦争等と同じ――そう言いたかったのだろう。
「だが、彼女は戦争を望んでいる訳ではない」
「血が流れるようなことは望まない。ジャンヌは、そうとも言っていた」
「だからこそ――考えを改めなくてはいけないのかも」
別のギャラリーからは血が流れるような事態に発展する事をジャンヌが嫌っていると考えていた。
だからこそ、彼女はデスゲームと言う単語を使用して――直接的な表現を避けている。
それが何を意味しているのか――。
「これがパワードフォースの撮影じゃないのか?」
「それはさすがにない。パワードフォースのエキストラ募集は行われていないはずだ」
「しかし、デスゲームと言う単語を使い、更にはパワードフォースを知っている口調だったのは――」
更には今回のジャンヌの演説をパワードフォースのロケと考える人間もいる。
確かにパワードフォースを知っているような口調であり、更には――と言う部分もあるだろう。
「それに、レーヴァテインは明らかにパワードフォースに出ていた特撮俳優に似ていた。彼も一枚かんでいるのは――」
男性ギャラリーの一人が発言した直後、彼は明らかに負けフラグを立ててしまった――。
彼が自覚をする前に、周囲が何かを言いたそうな表情をしているのだが――彼は全く気付いていない。
「なるほど――そう言う解釈もあるのか」
彼の背後で話を聞いていた人物――それはレーヴァテイン本人だったのである。
今更――発言を取り消せるわけもなく、その人物はガーディアンに通報され――ネット炎上の罪で逮捕された。