第10話『ジャンヌの反撃』
5月25日午前10時、若干の小雨が混じるような天気の中で――ある人物が映し出された映像がショッピングモールに設置された大型スクリーンを占拠する。
まず、草加駅にある大型スクリーンにジャンヌ・ダルクが表示されている段階で、何かの異変を感じている人物がいるほどだ。
身長180センチほどの銀髪セミロングツインテール、眼は紫と青のオッドアイ――そこに素顔を晒していたのは、間違いなく、あのジャンヌである。
彼女の装備は重装甲のアーマーに、左腕には白銀の籠手と剣がセットになったようなARガジェットを装備していた。
アーマーの色は青がベースとなっているようだが、元ネタのジャンヌは銀だったのでは――という声がある。
【アレが本物なのか?】
【ジャンヌ・ダルクと言っても、色々な作品で出ている以上――識別が難しい】
【しかし、目撃例のあったジャンヌはアレだ。間違いなく、奴が事件の真犯人だろう】
今までの目撃例を踏まえると、彼女がジャンヌ・ダルクの本物で間違いないようである。
ネット上のつぶやき等でも色々な疑いの声は一部で存在するだろう。しかし、今はそれを議論している余裕があるような展開とは思えない。
【事件と言うと、アカシックワールドの事件か?】
【それしかないだろう。それ以外の事件は、今回の件とは無関係――むしろ、ネット炎上勢力がARゲームをオワコンにする為にレッテル張りをしているだけに過ぎない】
【運営は無能等の書き込みも――芸能事務所AとJが神事務所と言う事を布教する為の物だ】
【あの夢小説勢力は、歌い手や実況者という実在人物の夢小説を表に出して芸能事務所AとJより人気があると言う事を――】
【それとこれとは話が違う。どこのWEB小説で書かれた作品の話題を出している?】
【奴は不正破壊者の我侭姫ではない――】
ネット上の書き込みも混乱をしているようで、ジャンヌ・ダルクの出現に便乗して目立ちたいだけな書き込みも目立つ。
そうした書き込みはガーディアンによって削除され、書き込みをした人物の場所を特定してアカウント凍結、最悪の場合は逮捕と言う展開もあると言うのに――。
どちらを無知と言うべきなのか――? しかし、こうした動きもジャンヌ・ダルクにとっては百も承知なのかもしれない。
『初めてお目にかかる――と言う人物もいるだろうと思うので、改めて自己紹介をしよう。私の名は――ジャンヌ・ダルク』
ジャンヌの声が聞こえると同時に、周囲がざわつき始めた。
いわゆるひとつのジャック放送なのではないか、と疑う声もあったが――そうであればガーディアンがすぐに動くはず。
それもない以上は――公式の手順を踏んで放送している物とみて間違いはないだろう。それに対し、納得をしないメンバーもいるのだが――。
『一部の勢力は、私の目的がコンテンツハザードにあると考えているらしいが、そうではない』
コンテンツハザードと言う単語に言及するジャンヌだが、それに対して愛着があるような表情は見せていない。
これも演技の一つだろうか――と一連の映像を見ている人物は分析を行う。分析と言うよりは、まとめ記事――と言う勢力もいるが。
分析をしているのはガーディアン、各種ARゲームメーカー、神原颯人、アークロイヤル、斑鳩等――かなりに及ぶ。
それ以外にもまとめサイトやアフィリエイト利益を稼ごうとする人間、アイドル投資家等のような人種も――中継に注目しているようだ。
悪目立ちをするような勢力や、それをネタにして夢小説を書こうと言う人間もいる。
興味がないのは、ARゲームに首を突っ込まない警察や一般人位かも――と言う位にジャンヌの中継の注目度が高かった。
『コンテンツハザードと言う単語自体は、バイオ・ハザード――自然災害のコンテンツ版だ。つまり――』
コンテンツハザードを直訳するとコンテンツ災害――おそらく、彼女が言いたい事はアレの事だろう。
一部の人間は、その内容を察し始め、まとめ記事を作り出す。おそらく、ねつ造も含めた上での炎上目的があるのだろう。
『――君たちに分かりやすい言葉で言えば、ネット炎上と言えば分かるかな? 君たちが気に入らないコンテンツに対して行った事――』
彼女の笑みは――不気味や気持ち悪い等を通り越して、計画通りと言わんばかりの物だったのは間違いない。
おそらく、まとめサイトが内容を歪めて書くのも――織り込み済だろう。
【馬鹿な――】
【つまり、既に我々の行っている事がジャンヌ・ダルクの思惑通りだったのか?】
【ジャンヌに踊らされて、炎上マーケティングをしてしまったのか――】
【俺は違う! ジャンヌの言っている事は間違っている】
【芸能事務所AとJがジャンヌの操り人形だったなんて、認めない!】
ジャンヌの一言は破壊力が高かったらしく、ネット上の混乱もピークとなっている。
自分達のやった事がジャンヌ・ダルクの思惑だった事を否定するかのように、つぶやきサイト上ではネット炎上に関するカミングアウト合戦となった。
『私は――このような世界を生み出した人間に対し、宣戦布告をする事にした』
しかし、それでもジャンヌ・ダルクは言葉を続ける――。彼女の怒りは、これで収まるものではないからだ。
宣戦布告発言でも、強気な口調ではなく――普通の表情を続ける。宣戦布告と言う単語にも興味がないのだろうか?
『コンテンツハザードは、パワードフォースでも警告されてきた物――フィクションの作品で出来た事を、何故にリアルの君たちが実行できない?』
この一言を聞いて反応したのは、草加駅のホームにあるベンチに座っている状態で大型スクリーンを見ていたレーヴァテインである。
他の発言でも言いたい事はあるのだが、ここで八つ当たりしてもネット上でネット私刑やネット炎上で身動きを取れなくされてしまうだろう。
その為、敢えて彼は――手に持っていたカレーパンを一口かじった。
『君たちにとって、パワードフォースとは特撮ドラマと言う認識だが、私にとってはそうではないのだ』
『フィクションの作品によっては、二次オリや二次創作でコミュニティを形成したり、更には夢小説やフジョシ向け小説を妄想したりするだろう』
『私も、それと同じ事をしているにすぎない。この世界のコンテンツハザードを阻止する為に――』
他の発言に対してだが、神原も我慢の限界と言わんばかりに拳を作ってテーブルを叩こうとする。
しかし、ジャンヌの中継を見ているのはスタッフも同じなので――スタッフの気持ちを汲んで、あえて物に当たるのを我慢した。
『大量破壊兵器を用いるような手段は――私の趣味ではない。あくまでもデスゲーム以外の手段で、この世界を征服してこそ――私の目的は完遂する!』
デスゲームと言う単語を持ち出し、それ以外の手段で世界征服を実現させると明言した。
その時の表情は、先ほどまでの興味がなさそうな単語があると呆れていたジャンヌではなく――本気の表情を見せている。
【デスゲーム以外? つまり、彼女は戦争や大規模テロ以外の手段で世界征服をするのか?】
【まさか、アイドルで世界征服か? それとも玩具で世界征服と言うキッズアニメみたいなことをする気か?】
【分からんぞ。ゲームで世界征服とか言い出しかねない。確か、パワードフォースでは――】
様々な考察が出る中、実況板に張り付いていたのはヴェールヌイである。
彼女がいた場所はアンテナショップだが、アンテナショップでも混雑はしていたので屋内のネットコーナーの一角だ。
センタモニターも混雑していた関係で、中継を視聴できそうなのが、ここしかなかったというべきか?