第9話『レーヴァテインの反撃』その3
アークロイヤルが発見した動画、それはレーヴァテインのプレイ動画だった。
これは先ほど終了したばかりの物であり、それを見かけた――と言う事らしい。
「あの人物を御存じなのですか?」
そこへ姿を見せたのがヴェールヌイである。しかし、アークロイヤルは覚えがないらしく――初見の様な表情をしていた。
ちなみに、ヴェールヌイはパワードフォースに関してはある程度勉強はしたのだが、細かいシリーズまでは分からずじまい。
レーヴァテインも外見でパワードフォースなのは分かったとしても、どの作品かまでは特定不能だろう。
「仮に知っていたとして、話すと思う?」
アークロイヤルのいう事も一理ある。見ず知らずに近い人物に、有力な情報を渡すとは思えない。
逆にネット上の掲示板やまとめサイトを探せ――とも返される可能性は否定出来ないだろう。
「しかし、あなたはあの人物を見て――見た事があると思った。それは間違いなく――」
「だからと言って――それだけで決めつけるのも、問題があるのでは? 明らかにネット炎上勢力のレッテル貼りと同じ――」
ヴェールヌイはセンタモニターの方を振り返ったアークロイヤルを見ていたらしい。
しかし、アークロイヤルの返事は明らかにレッテル貼りをされるのを嫌がるような――そんな口調である。
動画の方は――ラウンド2が始まる所だった。
ラウンド1はレーヴァテインの圧勝と言える展開だったが、彼自身は満足をしていない。
周囲のギャラリーは――レーヴァテインの勝利に沸いているようでもあったが、彼自身はアウェーの空気を感じている。
レーヴァテインが有利な空気なのに、彼がアウェーを感じるのは何かおかしいと思うが。
『バトルは3本先取――まだ1本取っただけだろう?』
レーヴァテインのいう事は一理ある。しかし、明らかに不利なのは――相手側だろう。
それを踏まえると、降参するのも一つの手と考えたくなる。
『しかし、アーケードリバースで降参と言う手段は考えない方がいい。チートを使っている事が発覚すれば、アカウントはく奪は回避できないし――』
レーヴァテインとしては警告と言うよりは――忠告というニュアンスかもしれない。
しかし、それを素直に聞き入れるとは考えにくいし、向こうが素直にチートを使っているとは認めないだろう。
『バトルの状況を見て、おかしいと運営が判断すれば――降参をする前に運営が強制ログアウトをするだろうが――』
「こっちとしては強制ログアウトは覚悟の上だ――と言ったら?」
『そこまで愚かなのか? いつからARゲームプレイヤーの民度は下がった? これでは芸能事務所AやJ、他の三次元アイドルファンと同じだな――』
「その手には乗らないぞ――レーヴァテイン!」
レーヴァテイン側もバトルが白けるのは――と言う事で、色々と考えるが、相手は向こうが何かに誘導しようとしているのを見破っている。
こうなってしまうと、レーヴァテインも打つ手なし――というパターンは、あくまでも特撮番組のレーヴァテインの場合だ。
『この流れでテンプレ的に様式美を決めるのは、特撮番組であれば――の話だ』
レーヴァテインから、この一言が出た時――相手側は失敗したと考えたらしい。
全てが攻略ウィキや攻略ガイドの様に上手くいく――それは、家庭用ゲーム機や一部ジャンルでの話だ。
ここはARゲームであり、目の前で行われている事も対人戦である。そこの見極めを――彼は明らかに間違えていた。
結果の方は――ほぼ見るまでもなく決まっていた。向こうが負けフラグを立てた段階で――勝負は決まっていたのである。
対戦相手側は未だに茫然としており、立ち直るには時間がかかるかもしれない。しかし、レーヴァテインがログアウト儀にはガーディアンが駆けつけ、彼は逮捕された。
理由はチートプレイなのだが、彼が使っていたガジェットは公式のガジェットであり――どう考えてもチートの様な個所は見当たらない。
この辺りは調査待ちになるだろう。チートアプリも、プレイ後には自動消滅するタイプの証拠隠滅を行うタイプがある位なので。
「相手のチートアプリを、どう思う?」
動画を見ていたヴェールヌイはアークロイヤルに尋ねる。しかし、その質問は――するまでもなく反応は分かっていたが。
「チートプレイが許されるはずがない。ARゲームでチートを使えば、自分にブーメランとなって返ってくる。どのような形であれ」
アークロイヤルの方は若干呆れ気味に応えるのではなく、視線をモニターに向け――真面目に答える。
ここで言うブーメランとは、ネット炎上やアカウント凍結、最悪のケースでは大事故にもつながるだろう。
ARゲームで大事故と言う物は怒っていないように見えるのだが――過去にはロケテ中に怪我人が出たという理由で中止になった作品もある。
あくまでもARゲームはWEB小説でいうデスゲームではない。命のやりとりをするようなゲームではないのだ、本来の意味では。
それを勘違いし、一瞬のスリルや快感を求めるあまりにアクロバットプレイに走るプレイヤーが存在し、動画サイトにも危険なプレイ動画が拡散している。
運営側も対応に追われているが、ジャンルによって対応がバラバラなのも――このような動画が拡散する環境のひとつかもしれない。
「チートプレイは、どのジャンルでも禁止されている――が、WEB小説ではチートの様な主人公が無双する作品が多いという」
「それは別の意味での当てつけなのかな?」
「そうではない。パワードフォースでもチートを否定するような展開が描かれ、最終的にはチートプレイを止めよう的な終わり方になって大団円――違うか?」
「パワードフォース全てが、そのテンプレートには当てはまらない。しかし、ゲームにおけるチートプレイは現実世界でも色々な形で起こっている」
「それを止める為に――」
「それ以上、口にしたらいけない。そこから先は――後戻りが出来なくなる」
ヴェールヌイは何かを言おうとしていたが、それをアークロイヤルは止めた。
ジャンヌ・ダルク、レーヴァテイン、それに――様々な人物。そうした人物の思惑が、アカシックワールドの中には存在するのかもしれない。