第9話『レーヴァテインの反撃』
5月20日、空は雲ひとつない快晴であり――風も台風に匹敵するような物が吹いている気配がない。
台風の様な悪天候であれば、屋外のARゲームが成立する訳がないのだが――。
そんな天候で、谷塚駅近辺のアンテナショップに人だかりが出来るような――ゲームフィールドがあった。
そこでプレイしていた人物は、草加市内で相変わらずのチートプレイヤー狩りという仕事をしていた――レーヴァテインである。
彼自身も無差別にチート狩りをしている訳ではない。中にはゲーム内で公式に使えるような公式チートとネット上で言われる物も混ざっていたからだ。
そこはジャンヌ・ダルクや一般コンテンツを炎上させようとするアイドル投資家や炎上請負人とは決定的に違う。
彼らの場合は――それさえも一般人には過ぎた兵器として排除する可能性が高いし、ARゲームを軍事利用可能なシステムと言及してネットを炎上させるのも朝飯前かもしれなかった。
レーヴァテインの場合、そう言った細かい事はどうでもいい。単純にゲームの楽しみを奪うチートプレイを許せない――それだけで動いている。
実際、原作版のレーヴァテインでもそう言った描写があったりするし、戦争に利用されそうな技術を保護して何とかしようと動く場面はあった。
『こっちとしては、単純なゴミ掃除をしている訳ではないのだがな――』
チートプレイヤーを倒したレーヴァテインが捨て台詞の様に語る。
その口調は、パワードフォースに登場したレーヴァテインその物と言ってもいい。
周囲の人物で、ここの部分にツッコミを入れようと言う人物はいないし、別にコスプレイヤーはたくさんいるので個別にツッコミを入れている余裕がないと言うべきか。
「この力をゴミだと言うのか!?」
レーヴァテインの対戦相手は激怒する。かなり分かりやすい――そう言えるだろう。
強い力を手にすれば――全てを手に入れられるのは、WEB小説のチート物だけであり、そこまで現実がご都合主義で動くわけはない。
『チートの力は本当の意味で力とは言わない。それこそ、ご都合主義――シナリオ通りに進む存在と分からないのか?』
レーヴァテインがチートを否定するのにはゲームを楽しみが奪われる――だけではないような気がした。
あくまでも、チートプレイが許せないと言うのは特撮番組としてのレーヴァテインであり、彼を指すとは限らない。
『本当の意味で強さと言うのは――』
その後、彼が何を言ったのかは相手プレイヤーが気絶した関係もあって――不明のままだ。
一体、彼は何を望んでいるのか? 単純に特撮番組のレーヴァテインと同一と言うには、矛盾が存在する。
あるいは――彼もジャンヌ・ダルクの様にさまざまなレーヴァテインが混ざっているのか?
しかし、彼に――そうした傾向は見当たらない。一部のネットユーザーが炎上を目的として歪めた情報を配信しているのだろう。
『こういう事だ!!』
彼が何もない場所から呼び出した武器、それは片腕に固定するタイプのレーザーパイルを打ち込むタイプのパイルバンカーだ。
彼の使用するパイルバンカーはパイルが3本という特殊な物であり――これが原作のパワードフォースでもクリティカルフィニッシュとして使用されている。
左腕で相手を掴み、右腕のパイルバンカーを打ち込むのではなく、遠距離からでもゼロ距離まで近づいてレーザーパイルを撃ちこむ――ある種の浪漫技だろう。
VRゲームであれば、動きすぎるモーション等もあって避けられてしまいそうだが――。
相手は回避行動が取れなかったという。それ程に消耗していたのか、バインド系のスキルが決まっていたのか、それとも――様式美だったのか?
その真相は分からないが、レーザーパイルは見事に命中し――彼の使用していたチートガジェットは、文字通り砕け散った。
「馬鹿な――こんな事が、あっていいのか?」
その断末魔と共に、相手プレイヤーは倒れる。
デスゲームと言う概念をアカシックワールドは持っていないので、気絶しただけだが――。
相手が気絶したのを確認した後、レーヴァテインはログアウトをして即座に姿を消したという目撃者証言もあるが、真相は定かではない。
「こんな事? それは自滅っていう物だろう。スポーツ競技でいう所のドーピングに手を出した――お前が悪いのだからな」
ARインナースーツなども解除され、眼鏡にジーパン、半そでのワイシャツと言う外見の青年が姿を見せる。
彼がレーヴァテインなのか――と周囲のだれもが疑う。それに、レーヴァテインと言えば――。
「芸能事務所によって全てをコントロールし、利益至上主義や神すらも超越した――」
その一言をプレイヤーが言った事で、レーヴァテインは言葉に出来ないような表情でハンドガンを撃った。
しかし、その弾丸はプレイヤーに当たる事はない。既にARゲームは終わっているのだから。
「利益至上主義とか拝金主義ってのは、滅びて当然の物だ。それを未だにありがたるなんて――どうかしている」
彼は気分屋である。下手に地雷を踏むような発言をすれば、確実に消されるのは目に見えていた。
それを全く考慮せずにフラグを立ててしまった、相手側には同情するべきなのかもしれないが――。
同日午前11時、自宅で動画をチェックしていたアークロイヤルはふと、何かを気にし始めた。
それはジャンヌ・ダルクと言う存在である。検索サイトで調べても、さほど大きな情報もないし、まとめサイトの歪んだ情報に踊らされる危険性もあるだろう。
しかし、アークロイヤルはふと何かを思い出したかのように――あるサイトを調べ始めた。
「やっぱり――」
アークロイヤルの過去にあったトラウマ、それとジャンヌに関連性はないと思われたのだが――実際は違っていた。
SNSを利用した情報拡散やネット炎上のノウハウは過去に芸能事務所AとJが確立し、現在に至る。
そうした炎上ビジネスに利用されるであろう技術は――つぶやきサイトが生まれた辺りから懸念されていたのかもしれない。
高度な技術は――やはり悪用されてしまうのが宿命なのか?
「ジャンヌ・ダルク――そう言う事だったのね」
アークロイヤルが見覚えがあったのも無理はないだろう。
しかし、その時と今回のジャンヌ・ダルクではデザインが大きく異なる物であり、言われなければ気付かないかも――と言うレベルだ。
まるで、土台を別の物に変えたかのような――それ位にジャンヌ・ダルクの外見は変化していたのである。
「これは、私の中だけでしまっておくべきか――拡散をするべきか」
ジャンヌ本人の正体が『あの人物』とは限らない。
過去にVRゲームでフレンドになったプレイヤーのログは――彼女の元には既にないのだから。
「――?」
しかし、アークロイヤルはアカシックワールド用のARガジェットにあった謎のデータを――発見する。
何故、神原颯人にもらったガジェットにこのデータがあったのか?
圧縮ファイルと言う訳ではないので、そのままクリックかタッチをすればファイルが起動する事を意味する。
「何故――この名前を知っている?」
神原が、何故に自分がハンドルネームを変える前のネームを知っているのか?
基本的にVRゲームでは顔を見せた事はないはずなのに。しかし、何か思い当たる物はある。
VRゲームでもARゲームでも必要な物、それは――身分証明書だ。
身分証明書は本名でなくても問題ない――と言うのは、ARゲームとVRゲーム限定である。
それに加え、本名ではない身分証明書でも一部店舗であれば草加市内でも通用するのだ。
これには――市民の一部から反論もあった。ゲームプレイヤーに優遇し過ぎなのでは、と言う部分で。
それに、マイナンバーカードにしても色々と揉めていた時期もあるので――個人情報に関しては一掃厳しくなっている現状もあるが。