第8.5話『ジャンヌの正体』その2
今回公開された動画は、ある人物にとっては別の意味での衝撃的な展開を生み出していた。
「まさか? そんなはずは――」
ネットで話題となっている動画をチェックしていた青年、彼の服装は青をワンポイントに置いた物を着ている。
その一方で、セミロングの髪型だが髪の色は黒。青にこだわりを持っているような気配ではないのだが――。
彼が動揺している理由は、動画サイトにアップされていたジャンヌ・ダルクの動画だった。
この動画は自分が投稿した訳ではなく、それに動画に映し出されていたジャンヌに関しても自分が知っている人物と言う訳ではない。
それなのに――ジャンヌ・ダルクが動画に使われていた理由――彼は、それが何か探ろうと考えていた。
ネット炎上や一連の事件には一切興味がなく、ジャンヌ・ダルクの存在理由という一点だけ――それを知りたい。
「あのジャンヌ・ダルクが、知っているジャンヌだとしたら――?」
その後、彼の元にショートメールが送られて来た。そこには――。
【あなたの知りたいと思う情報に心当たりがあります】
このメッセージと共に送られていた画像、そこには動画とは違うスクリーンショットのジャンヌ・ダルクが添付されていた。
その外見を見ると、確かに――覚えのあるジャンヌ・ダルクだと分かる。
しかし、仮に自分の考えが正しいとするならば――本来の彼女には――。
色々と思う所はあるのだが、このメッセージの送り主が指定した場所へと向かう事にする。
その場所は――彼も予想だにしない場所だった。
指定された場所はさほど遠い距離と言う訳ではない。単純に言えば、草加駅から谷塚駅へ移動するレベルだ。
谷塚駅近くのアンテナショップ、指定された場所へ向かうと、そこに待っていたのはメイド服と賢者のローブと言うコスプレイヤーを思わせる女性である。
ここは秋葉原では――と思う部分もあったのだが、彼は背に腹は代えられないので彼女たちに事情を聞く事にした。
ちなみに、若干恥ずかしいと思いつつも入り口で待機していたのは斑鳩の方であるが――。
その一方で、2人組と接触する人物に心当たりのあった人物がいた。
彼の方は私用で見回りをするといって谷塚に向かったのだが、思わぬ収穫を得たと考えているようである。
「あの人物は――まさか?」
今回は、たまたま私服で出かけていた為に神原颯人は周囲に気付かれる事無く、この現場を目撃できた。
運がいいとは思いつつも、3人を尾行するような形でアンテナショップの中へと入る事にする。
3人が向かった部屋は、アンテナショップとは思えないような個室である。10人位のパーティールームを想定した物だろうか?
置かれている機材はカラオケではなく、ARゲーム用のセンターモニターとARゲーム専用動画サイト等を閲覧できるタブレットである。
テーブルはガラスではなく強化プラスチックの類であるため、ちょっとやそっとでは割れない。
そのテーブルに置かれているのは、何故かお菓子類と注文した覚えのないドリンクバーである。
お菓子類は駄菓子と言うよりは、この店舗で用意されたスイーツのようにも思えるだろう。
確かに、フードコートを案内される途中でも見かけたのだが――そう言う事だろうか?
この光景に関して、案内された3人と言うよりも――2人に同行した男性の方が驚く。
「ここはARゲームの動画編集ルーム――」
男性の方は、この部屋が何をする為の場所なのかを察する。
2人は用途を把握した上で借りた訳ではない。あくまでも秘密裏の話をする為の部屋を予約した結果が、ここだった。
「君たちは、ジャンヌ・ダルクに関して何か知っていると言ったが――」
男性はせっかくなので、ドリンクバーでホワイトコーラと言う変わり物ドリンクを別の場所でタンブラーに入れる。
他の2人は既にアイスコーヒーを入れているようだが――。
「確かに、間違いは言っていないわ。私たちはジャンヌを知っている」
話を切りだしたのは、何故か斑鳩の方である。
普通は、隣でコロッケパンや春雨サンドを食べているヴェールヌイが説明するのだが――。
「あのジャンヌは何者だ? 何故、あの装備をしている」
明らかに男性の方はジャンヌの正体に薄々気付き始めているようだが、確信は持てない。
それもそのはず。あのジャンヌは一般ユーザーが知っているような人物ではないからだ。
「ジャンヌ・ダルクと言えば、創作作品ではよく使われている題材のひとつ――。そして、あなたの作品でも使われている」
コロッケパンを食べ終わったヴェールヌイが切り出すが、本来であれば彼女が呼び出したので彼女が最初に話すべき話題でもあった。
何故、ヴェールヌイはジャンヌの正体に気付いたのか――それをいくつか彼に説明する。
「――そういう事になる。彼女は複数の創作作品をミックスさせたジャンヌ・ダルクとも言える存在、その中で一番比重が置かれているのが――」
「自分が生み出した作品のジャンヌ・ダルク――と言う事か」
「虚構神話の我侭姫――さすがに、正直な事を言うとこちらも驚いた」
「そこまで分かっている以上は――」
虚構神話の我侭姫、それに登場しているジャンヌ・ダルク――そう2人は確信していた。
しかし、それをそのままトレースした物ではない。あくまでも素体となっているのが、そのジャンヌ・ダルクであるだけである。
他の創作に登場するジャンヌ・ダルクも含まれている為――オリジナルと言うよりは二次創作のジャンヌ・ダルクと言うべきか。
あるいは――二次オリとしてのジャンヌ・ダルクが、今回の動画に登場したジャンヌと言う事になる。
「あなたが青空奏であることを承知の上で――聞きたい事がある」
青空奏、虚構神話の我侭姫というWEB小説の原作者であり、それ以外でも様々な作品を書籍化させている――WEB小説家でもあった。
彼に接触した事の真の目的、それはジャンヌの正体を聞きだす以外にも別の事があったのだが――。