第8話『一つの勢力の終わりに』その2
フィールドが無事に形成され、そこに関してはヴェールヌイも安堵している。
特にノイズが確認されるような事もなく――正常に表示されているのも大きい。
その一方で、相手側のガジェットの形状を見て何か引っかかる物があるのも事実だった。
《ラウンド1――セットレディ》
しかし、相手の方が準備していた装備は明らかにガイドライン違反のガジェットにも感じ取れる。
その形状だけで不正ガジェットの類とは判断できないのだが――。
《ラウンド1――ファイト!》
ファイトと同時に、まさかの高出力ビームが飛んでくる。オブジェクトを貫通する様子はなく、歩行者天国の遮蔽物もない道路から――。
「――先制攻撃!?」
これにはヴェールヌイも少し驚くのだが、顔では驚きの表情を見せる事は無く――バリアを即座に展開してビームを防いだ。
しかも、ノーダメージである。これにはまとめサイト管理人の方も、使用したアプリの効果を疑った程――。
「ラウンドコールと同時にエネルギーのチャージを行い、開始と同時に撃つ――確かにARゲームでも使われる高等技術――」
ヴェールヌイはまとめサイト管理人が使用したのはテクニックの一種であり、一種のチートではないと看破する。
それ位の技術であれば、動画サイトを探せば発見できるし――あまりテクニックを必要としないので、扱える人物は多い。
その一方で、まとめサイト管理人は若干慌てていた。ヴェールヌイが例のアプリに気付いたのではないか――と感じている。
せっかくの有利なフィールドを選んだのに、アドバンテージはなくなったに等しい。
「しかし、こっちとしてもあの情報を渡す訳にはいかない!」
まとめサイト管理人は、ヴェールヌイもガーディアンのメンバーなのではないか、と疑っている。
そして、次に使用したのはホーミングレーザーだ。こちらは例のアプリに搭載されていたデータでもある。
レーザーの色は先ほどのビームとは違う為に見破られる可能性もあるが――相手を追尾する能力は、他のFPSゲーム等よりも非常に高い。
しかし、ヴェールヌイが取り乱すような表情は一切見せなかった。
それだけではない――彼女の表情は、人形のように無表情で的確にバリアを展開してホーミングレーザーを無力化していく。
これには、さすがのまとめサイト管理人も――唖然とするしかなかった。
「馬鹿な――こっちは、高性能のアプリを使っているのだ! お前の様な時代遅れなガジェットを――」
まとめサイト管理人は、思わず口が滑ってしまった。
自分でチートアプリを使っている事を話してしまったのと同然――その迂闊な行動は、ある意味で自身の破滅を呼ぶ事になる。
まとめサイト管理人の一言を聞き、ヴェールヌイは自身の背後に魔法陣を思わせる何かを展開した。
次の瞬間、そこから放たれたのは無数とも言えるレーザーエッジだったのだが――それを回避する手段を彼は持ってなかったのである。
結果として、まとめサイト管理人はヴェールヌイにストレート負けを喫した。
自分の発言が招いた自滅展開は、見るにも書くにも耐えられないワンサイドマッチと化していたと言う。
ラウンド2の途中では、オブジェクトの一部がジャンヌ・ダルクの時に展開された現象もあったが、これは心理作戦だった事が発覚――普段は表情を変えないような彼女を激変させた。
ある意味でもまとめサイト管理人はヴェールヌイを煽りまくった結果、自分の行動がブーメランと化した自滅なのかもしれない。
「約束は覚えているな?」
その一言と同時に、ヴェールヌイのアーマーは解除され、元の賢者を思わせるローブに戻る。
「何故だ! この俺が――負けると言うのか?」
「お前は――ネット炎上をさせたことで、様々なコンテンツが悲劇に見舞われても――それを金になると言って炎上させ続けた」
「違う! あれは、芸能事務所AとJの社長に命令されたのだ! 俺は悪くない!」
「負け惜しみもB級バトル漫画にありがちなテンプレだな――もう少し、言葉を選んだらどうだ?」
「今までの事件も、起こした側のフーリガン化したファンが悪い! まとめサイトは悪くない!」
「自分が起こした事を棚に上げて――まだ言い逃れか。ここまでくると、WEB小説の異世界転生物や異世界転移物の敵よりも哀れだ」
まとめサイト管理人の方は、命令されたという事を話しているようだが――ヴェールヌイはそれを信用しない。
そればかりか、彼の発言をB級バトル漫画と切り捨てたり、様々な用語を使ってスルーし続けた。その表情は無表情――そして、口調も同様である。
「そうだ――ここで見逃してくれたら、別の情報をやろう! ジャンヌ・ダルクの原作についてだ――」
まとめサイト管理人は、自分が逃げる手段として別の情報を提供すると言いだした。
ジャンヌ・ダルクと言う言葉を聞いた途端、ヴェールヌイの表情も若干変化する。
「聞かせてもらおうか?」
「ジャンヌ・ダルク。名前は歴史の教科書や映画等でも見る、あのジャンヌ・ダルクと同じだが――モチーフになったのは違う作品だ」
ヴェールヌイも一応は聞くらしく、まとめサイト管理人は話を始めた。
周囲のギャラリーもジャンヌ・ダルクの情報と言う事で注目をしているが――。
「その作品とは何だ?」
「WEB小説だよ。なんとか姫という作品だったと思うが、あれはVRゲームにもなっていたな」
「VR? もう少し詳しく――」
「こっちもVRゲームモチーフのジャンヌ・ダルクと思っていたが、そっちとは違うらしい。俺が知っているのは、これですべてだ――」
結局は詳細な情報はなかったが、メジャー作品等のジャンヌ・ダルクとは違うデザインを持っていただけに――彼女の出所には疑問に思う部分もあった。
その中で、彼がもたらした情報は非常に大きいだろうか? そして、それを聞いたヴェールヌイはログアウトをしようとARガジェットのログアウトボタンを押そうとするが――。
次の瞬間、まとめサイト管理人は――ある暴挙に出た。何と半壊したARウェポンを片手に何かをしようとしたのである。
しかも――手に持っているのはビームライフルであり、明らかに撃たれるような気配すらあった。
これには周囲のギャラリーもスタッフに通報して対応してもらおうとするが、それよりも速くまとめサイト管理人は引き金を引いたのである。
「――!? どういう、事だ?」
まとめサイト管理人も――今の状況には呑み込めないでいた。
ビームが放たれたのは間違いない。しかし、そのビームはヴェールヌイに命中はしたが――ノーダメージだったのである。
「ゲームはすでに終わっている。それに――自分が既にアーマーを解除した地点で、ARウェポンは硬化を失う」
ヴェールヌイはそれだけを言い残し、フィールドを後にした。
残されたまとめサイト管理人は、その後にガーディアンによって拘束される事になる。
【あのサイトも終わりだな】
【これで、煽り系炎上サイトがオワコン化してくれるといいのだが――】
【それを指揮していたとされている芸能事務所AとJは否定――そう言う事だろう?】
【結局は、あのサイト管理人の妄想だったという事か】
【しかし、ネット炎上や炎上マーケティングは終わらないだろうな】
【何故に人は炎上マーケティングと言う迷惑な行為に手を出すのか?】
【その答えを出すのは――】
ネット上のつぶやきサイトでは、早速だが閉鎖されたまとめサイトの話題が拡散している。
そして、炎上マーケティングが大手まとめサイトの閉鎖で終わるのかと言うと――それも違うと否定された。
炎上マーケティングが引き起こす悲劇は、リアルウォーを呼びかねないのに――結局、人は繰り返すのである。