第8話『一つの勢力の終わりに』
周囲がざわつくような状態になったのは、まとめサイト管理人とヴェールヌイのバトルが成立した辺りからである。
爆音だらけで詳細が分からずじまいだった中で、大きな事件になっていると一部の炎上勢力が盛り上がっているだけかもしれない。
「では――君が負けた場合は、まとめサイトを閉鎖してもらおうか」
ヴェールヌイの口調は、今までの冷静口調から――力のこもったような口調に変化する。
これを踏まえると、明らかに向こうは本気で潰そうと考えている可能性が高い。
「閉鎖か――いいだろう。その勝負、乗った!」
まとめサイトの管理人は、警察への自首や他のまとめサイト管理人のアドレスを要求されるとばかり思っていた。
それを踏まえて、自分のサイトだけを閉鎖という要求をのむ事にする。
おそらく、自分のサイトを閉鎖するだけであれば安い物と考えたのかもしれない。
相手がガーディアンの類だったりしたら、それはそれでチートを使えば即座失格だろうが――彼女ならば、気づかれないと思ったのだろうか?
まとめサイト管理人は、密かにガジェットのアプリの一つをダウンロードし――インストールを始めた。
「アカシックワールドのフィールドはここじゃない。場所を変えよう――」
ヴェールヌイがまとめサイトの管理人に場所の移動を指示し、向こうもそれには素直に従う。
逆に素直に従った部分で違和感を持つべきだったのかもしれないが――。
距離としては50メートル歩いた程で、目的地に着いた。
ARガジェットにもフィールドの場所がマッピング表示されるので、よほどの機械音痴でもない限りは迷子にならない。
ある意味でも新設設計と言うべきか? そして、センターモニターの指定スペースにARガジェットを接触させる。
《チートチェックを行います》
画面には、不正アプリのインストール有無等を調べる為のアナウンスが表示される。
ゲージが100%になるとチェック完了だが、ヴェールヌイの場合はあっさりと終了した。
《ガジェット内にチートアプリ及び不正ツールは確認出来ませんでした》
この表示がされたことで、初めてARゲームにログインできるという形式である。
屋外フィールドや特殊なフィールドでは、センターモニターがない場所もあるので――チートチェックに時間のかかる場合も多いが。
《チートチェックを行います》
まとめサイト管理人のガジェットもチェックをしているが、こちらは処理に若干時間がかかっているようにも見えた。
ヴェールヌイの時みたいにあっさりとゲージが進んでいないばかりか、50%の所で50%と60%をループしている。
「もしかして――チートアプリ?」
遠目でバトルの様子を見ようとしていたのは、私服姿のアークロイヤルだった。
ヴェールヌイを追跡する予定はなかったはずなのだが、気が付くと彼女の入って行ったARフィールドに足を運んでいる。
動画サイトでジャンヌ・ダルクの情報を集めていた一方で、大きな収穫もなかったのでアカシックワールドのサイトへアクセスした所――。
《ヴェールヌイがゲームへログインしました》
速報気味でゲームへのログイン情報が出てきたので、該当するアンテナショップへ向かい――現在に至る。
ジャンヌの情報もまとめサイトは信用していない為にスルーしているが、大きな情報は今のところ全くない。
それを踏まえ、ヴェールヌイの実力を見ておくべきか――と立ち寄ったのである。
《チートチェックを行います》
いまだに、この画面から進めないまとめサイト管理人はスタッフを呼ぼうとも考えた。
しかし、あのアプリを気付かれてはまずい――と言う事で呼べずじまいだったのである。
下手に不審なリアクションを見せれば、ヴェールヌイも自分を疑うのは明らかだと分かっているからだ。
《データチェックを行います》
しばらくして、ゲージが往復するような状態は抜けたのだが――今度はデータのチェックである。
データのチェックが入ると、高確率で不正アプリのインストールを疑われる為、これはまずい――とまとめサイト管理人は心の中で思う。
周囲のギャラリーも、バトルがなかなか始まらない事に違和感を持つ者が出始めている。
しかし、それをきっかけにして暴動や乱闘騒ぎが起こる事はなかったのにはアークロイヤルも不思議に思った。
訓練されたギャラリーなのか――とも彼女は疑ったが。
5分後、画面に大きな動きもない状態は続いたのだが――。
そこからしばらくして画面表示も変わり、予想外のインフォメーションに周囲も動揺する。
これにはアークロイヤルも驚きのリアクションを見せ、一部のメーカーからの偵察や産業スパイも驚いた程。
しかし、この周囲の動揺に無反応だったのは――ヴェールヌイだった。一体、どういう事なのか?
《ガジェット内にチートアプリは確認出来ませんでした》
メッセージにまとめサイト管理人は疑問に思うが、一応はログインが出来るようになったのでログインを始める。
ヴェールヌイは既にアーマーを装備しており、向こうは臨戦態勢を取っているようだ。
向こうは既に使用するガジェットも選び終わり、まとめサイト管理人の反応待ちなのかもしれない。
《フィールドを形成中です。しばらくお待ちください》
センタモニター、ログインした2人のARバイザーにはフィールド形成中のインフォメーションが表示される。
周囲に展開されているフィールドは、市街地と言うよりは秋葉原等を思わせるような駅ビルや店舗が並ぶ歩行者天国だ。
このフィールドを選択したのはまとめさいと管理人の方であり、ヴェールヌイではない。マップの選択権利は、向こうにあったようだ。
《天井までの高さは10メートルです。それをオーバーすると場外としてカウントされます》
このメッセージに驚いたのは、ヴェールヌイの方である。
どうやら、彼女は今まで天井の制限がないフィールドでバトルをしていたらしい。
「なるほど――ARフィールドによっては、周囲の広さだけではなく高さも限定されるのか」
天井を見上げるようなリアクションはせず、ARバイザーに表示されたマップ情報で天井制限を知る。
対するまとめサイト管理人は――自分の得意なフィールドにした事で、圧倒的有利を得ようとしていた。
周囲のオブジェクトは店舗、屋台トラック、歩行者天国恒例の通行止めの立て看板、自動車、自転車――他のステージないような要素は、特にないだろう。
しかし、向こうの反応を見て――ヴェールヌイは何かおかしいとも感じている。
センターモニターでのチートチェックも、ザルだった様な――さすがに、運営が買収されてまとめサイトを有利にしているとは考えにくい。
そんな事をすれば、ARゲームでは事業停止のペナルティがあるのはガイドラインにも明記されている。