第7話『反撃のヴェールヌイ』その4
アンテナショップを出て、近くのARゲームフィールドに足を運ぶヴェールヌイ。
ゲームフィールドへ行く前には先ほど預けたローブを受け取ろうとしたが、アンテナショップへ届けた方が早いという事でアンテナショップを届け先に指定する。
指定方法はARガジェットで操作するだけだった。まるで、ピザの配達をネットで行う様なお手軽な物である。
なお、ショップへ届ける場合はお金がかからない。これがARゲームフィールド以外の特定エリアだと、距離によっては費用が発生するようだが。
「ご指定の物は、こちらでよろしいでしょうか?」
ゲームフィールドの入り口にはコンテナ置き場があり、ここでレンタルしたARガジェット等を返却する。
要するにレンタルビデオ店の返却ポストの役割を持っていると言っていい。そこにはスタッフ数名がガジェット返却や届いた預かり物の管理等を行う。
ヴェールヌイは男性スタッフの一人から、小型コンテナに入った荷物を手渡されるのだが――これだけ渡されてもどうしろと?
その後、コンテナのオープンはスタッフが行った。これはセキュリティ的な関係もあるらしい。
大型ガジェットであれば、使用者本人が封印を解くらしいが、対応はアンテナショップによってまちまちだ。
「ありがとうございました」
預かり費用は発生しないのと同時に、配送費用も無料だ。
しかし、これがARゲームとは関係ないものであれば――それなりの費用は発生する。
どうやら、ARゲームのガジェット類は特殊な何かで出来ている可能性も高い。
今まではARゲーム用のインナースーツで移動していたような物だが、今度はローブも一緒である。
周囲の人物はヴェールヌイに注目しているようだが、それはローブを着ていることも影響しているだろう。
【あれはヴェールヌイじゃないのか?】
【同じネームは別のゲームでも目撃例がある。アカシックワールドにも参戦したのか?】
【アカシックワールドに、それらしいネームがない。ベスト100圏外では載らないのか?】
【ベスト100でなくても検索は可能かもしれないが、プレイヤー限定の機能だな】
【しかし、アカシックワールドのエントリーは終了したという噂も出ている。都市伝説レベルだが】
ネット上の書きこみやつぶやきサイト等でも、ヴェールヌイの存在は群を抜いている。
しかし、アークロイヤルや他の有名プレイヤーに隠れて話題になりにくいのかも――と言うのは否定できない。
【アカシックワールドと言うARゲーム自体、都市伝説じゃないのか?】
【アンテナショップでも一部店舗でガジェット展示のみ、それなのに専用ガジェットでプレイしているプレイヤーがいる段階で――】
【大規模ロケテストと言えば納得できるが、抽選とか書いていあった覚えもない】
【一体、アカシックワールドの真の目的は何なのか?】
【真の目的以前に、色々と謎が多い。このゲームは何を目指している?】
【デスゲーム的な何かは禁止されているはずだ。目指すのはコンテンツ流通の革命だろう――多分】
掲示板の書き込みを見たヴェールヌイは、アカシックワールドの存在に疑問を感じ始める。
疑問がなくプレイを始めた訳ではないのだが、プレイヤーの選定を行っている段階で――明らかにおかしい雰囲気はあった。
簡単な適性調査をホームページ上で行い、ガイドラインに従う事を条件にエントリーが認められている。
中には一部の例外もあるだろう――開発者特権と言う物だ。
「ジャンヌ・ダルクが開発スタッフの特権でエントリーした――とは考えにくいか」
ヴェールヌイは、ジャンヌ・ダルクがアカシックワールドに出没している事は――ネット上で話題の事件と関係あるのでは、とも考える。
しかし、それではまとめサイトや一部の炎上勢力の手のひらで踊らされているような物だ。
「やはり、あれは運営側が用意したNPCという見解が正しいのか――」
ネット上でもゲームのNPCとする説が支持されている。
実際、アバターを思わせるような演出で消滅したり、あり得ないようなスペックで暴れまわったり――プレイヤーだとしたらリアルチートと言われかねない。
それからフィールド内に入ったヴェールヌイは、様々なARゲームが行われている光景に驚いた。
ドーム球場並の広さを誇る訳ではないが、3階建てに加えて地下にもARゲームフィールドが存在している。
多数のARゲームを、このフィールド一箇所でプレイ出来るのは非常に大きいと言えるかもしれない。
「お前がジャンヌ・ダルクと関係ある――」
ヴェールヌイが周囲のゲームをチェックしている中で、ある人物が声をかけてくる。
しかし、ARフィールドでもゲームセンター並みの爆音を響かせるリズムゲーム系も設置されているので、途中からは聞きとれなくなっていた。
ヴェールヌイ本人も、この人物が自分に話しかけていたとは全く自覚していない。これも周囲の爆音が原因だろう。
「ヴェールヌイ、この俺と勝負だ!」
目の前の人物はARガジェットを展開し、それをヴェールヌイに突きつけた。
ガジェットの形状はスピア型であり、周囲の人間が無言で去っていくようなレベルで――混雑が緩和される。皮肉な話かもしれないが。
「君はARゲームフィールドにおけるお約束も知らないのか?」
逆にヴェールヌイはARガジェットを展開する事はしない。回答に関しても冷静な対応をしているので、怒ったら負けと考えているようだ。
視線をARゲーム用のセンターモニターに向けて、無言のアピールをする。
どうやら、ヴェールヌイは彼の勝負は受けるようだ。
トラブルを回避しようにも、下手をすれば周囲のギャラリーを巻き添えにしてネット炎上をさせかねない状態だったからだろう。
「お前が負けたら、ARゲームを引退してもらおうか? 俺は、大手まとめサイトの管理人をしている」
明らかに負けフラグが立っているような名乗りだが――それを呆れたような表情でヴェールヌイは聞いていない。
呆れているのは周囲の一部ギャラリーだけだ。まとめサイトと言う単語が出てくる段階で、どう考えても芸能事務所絡みと考えていたからだろう。
「では――君が負けた場合は、まとめサイトを閉鎖してもらおうか」
今まで冷静な口調だったヴェールヌイが変化した。明らかに――何かを狙ったような口調の変化である。
勝負するゲームは、アカシックワールド――それで両者とも合意し、バトルへ突入しようとしていた。