第6話『アークロイヤルの敗北』その4
午後1時5分、アークロイヤルのフィールドへ乱入したのは――斑鳩である。
何故、彼女が乱入しようとしたのかは――理由があるのだが。
『あなた――やる気あるの?』
斑鳩の方は、フィールド突入前にARアーマーを装着している。
ホワイトのインナースーツに重装甲アーマー、北欧神話的なモチーフをベースにしたARメットというカスタム装備。
所持する武装は特殊な形状の長方形というシールド、持ち手だけで30センチと言う長さのビームセイバーの2つだけ。
他にも武器がありそうだが、それを確認出来る程の思考を現状のアークロイヤルでは持っていないだろう。
『こちらとしては、どうしても――』
まだラウンド1開始前だが、斑鳩は臨戦態勢を取っている。
《ラウンド1――ファイト!》
アークロイヤルが我に返ったのは、ラウンド1のコールがかかった直後――。
斑鳩の放った全力パンチは、アークロイヤルの顔面に命中する事はなく、ブレードエッジでギリギリガードをしたという形である。
『アークロイヤル――あなたはARゲームを何だと思って――』
パンチを防がれた斑鳩は、次にシールドから分離したビット兵器で応戦する。
パンチに関しては命中したら、それまでと考えていたらしく――ガードしたのは計算の内のようだ。
『ARゲームはVRゲームとは違う――そう言いたいのだろう』
何とか意識を取り戻したかのような表情で、アークロイヤルはブレードエッジで斑鳩を捉えようとしている。
しかし、それでも言葉では強気だが――ブレードエッジの軌道はあっさりと読まれるようなパターン。これで当たるのは、相当アレと言う展開だ。
『それを分かっているなら、何故にネット炎上を自分で起こすような事を――』
ブレードエッジはあっさりと回避し、シールドから放たれたビットのレーザー射撃であっさりと撃破して見せた。
かかった時間は1分――斑鳩としては最速記録ではないが、そこそこと言う気配か。
周囲のギャラリーが盛り上がる一方で、斑鳩の方は喜ぶようなリアクションを一切見せない。
『私はネット炎上を許さない。それを引き起こすようなネットイナゴ、まとめサイト信者、アイドル投資家――』
喋っている途中で、斑鳩のシールドから放たれたビットが元のシールドに戻り――大型シールドに変化した。
どうやら、彼女のシールドはビットと合体する事で防御力がアップする物らしい。
『それに――週刊誌の様な利益至上主義を掲げ、後に起こるであろう炎上を放置するような連中も!』
斑鳩がアークロイヤルの様子に激怒していた理由――それはネット炎上を懸念しての物だった。
一時期、無気力プレイ等が問題視された競技も存在し――それと同じ事がARゲームでも該当すると考えていたのだろう。
『私は――コンテンツ市場が特定芸能事務所の無料宣伝に利用されるのが、一番――』
他にも斑鳩は言いたそうな様子だったが、これ以上言ったとしてもアークロイヤルに聞こえているのかどうかは疑問に残る。
『そうであれば、こちらではなく芸能事務所にぶつけるべきだろう!』
アークロイヤルは、斑鳩の言っている事に関して意味が分からないものの、何となく把握した。
おそらく、斑鳩は八つ当たりで今回のプレイに乱入したのだ――と。
『今の状況で芸能事務所に意見したとしても、金の力で都合の悪い事を消されるのは目に見えている』
バトルの方は決着がついているのだが、斑鳩の方はアークロイヤルをたたきつぶそうと言う――そんな行動を取りかねない。
『金の力――ようするに廃課金か?』
アークロイヤルの一言を聞いた斑鳩は、本気で叩きつぶそうとも考える。
しかし、それをやったとしたら逆効果になるのは――自分でもわかっていた。
『芸能事務所の金の力は賢者の石と同類よ――ソシャゲの廃課金のレベルではない!』
怒りを抑えているが、完全に我を失いかけている状態――今の斑鳩の状態も、ARゲームをプレイする際のスタイルとは大きく逸脱する。
まるで、パワードフォースの劇中展開を思わせるような状態だったのだが、斑鳩はそれに気づかない。
アークロイヤルもパワードフォースの視聴者であったが、この展開に気付くような第六感が発動するような状態ではないだろう。
ラウンド2、ここでも斑鳩の圧倒的な技術は変わらない。
彼女はリアルチートとまではネット上で叩かれていないのだが、裏のプロゲーマーと揶揄される程の実力を持つ。
現状のアークロイヤルでは、どう背伸びしようとも――勝ち目がないのだ。
『ARゲームは本来であれば、誰もがライバルであり――誰もがゲームを楽しめるような物――』
今ならば、斑鳩の一言も分かるかもしれない。気付くのが遅かった――と言うべきか。
あるいは、ジャンヌ・ダルクと最初に戦い、その後にファルコンシャドウと戦ったのが――。
どちらにしても、今ならば引き返せるような――そんな感じがした。
『ARゲームを人殺しを助長するようなゲームとレッテル張りするようなネット炎上勢力に――ARゲームの価値を語る資格はない!』
フルパワーではないが、斑鳩の持つビームセイバーから放たれた一撃は――アークロイヤルが回避出来ないようなモーションで放たれた。
ラウンド2も斑鳩が勝利した事で、最終的には斑鳩がストレート勝ちとなった。
アークロイヤルにとっては――文字通りの完敗とも言えるだろう。
おそらく、ジャンヌ・ダルクと戦う以前の問題――そう言えるのかもしれない。
「こっちも感情論で語っていたけど、言いたい事は分かるよね? ARゲームがどのような経緯で生まれたのか」
バトル終了後、ARアーマーを解除して元のメイド服姿に戻った斑鳩はアークロイヤルに語る。
感情をむき出しにして暴言に近い発言をしたことには謝罪しつつも、彼女は――はっきりと言った。
「ARゲームはVRゲームと同じような括りで語れば、明らかにネットは炎上する。それは――分かってほしいの」
その後、斑鳩はフィールドからは姿を消した。一体――彼女は何者なのか?
それを把握する前に、アークロイヤルはARフィールドを後にした。