第5話『虚構の英雄』その4
5月14日――更なるプレイヤーの出現がネット上で話題となっていた。
その人物の名はファルコンシャドウ。しかし、それ以上の情報が出てこないのはなぜか?
画像が出回らないのも原因の一つかもしれないが――動画も出回っていないのが大きいだろう。
「名前だけで判断するのは危険か――」
ネットの掲示板を巡回していたガーディアンの一人がつぶやく。
確かに名前だけで炎上勢力と言うレッテル貼りを行うのは危険極まりないが――。
【名前だけで判断するのは、逆にアイドル投資家やまとめサイト勢力等と同じ民度と思われる】
【夢小説勢の民度も下がっているという話だ。表に公開して、芸能事務所が一斉摘発を依頼したとか?】
【まずは情報を集めなければ――】
【せめて、プレイ動画が出回れば――】
ネット上でも、名前だけで悪と決め付けるような流れではない。
その一方で、下手に騒ぎ立てれば一部のまとめサイト勢力等と同じようにARゲームプレイヤーが低レベルと見られてしまう。
それこそ――あってはならない事だったのである。
翌日の5月15日、アークロイヤルが自宅のパソコンを開いていた際、そこで動画サイトに投稿された動画を発見する。
その内容は――別の意味でも衝撃的なものと言える物だった。
「これは――!?」
言葉を失う様な光景だった。相手プレイヤーがチートを使用していた事も理由かもしれないが――。
ファルコンシャドウは、既に戦意を失っているプレイヤーに対し、容赦のない攻撃を加えていたのだ。
しかも、ARウェポンで容赦なく――である。
デスゲームが禁止されているとはいえ、意図して相手を負傷させる行為が禁止されているARゲームで――これは、どう考えても認められないだろう。
動画内では音声が収録されていない為、どのような会話をしていたのかは不明だが――前後の行動を考えて、相手プレイヤーのチート行為に我慢できなかったのかもしれない。
【まさかの展開だな】
【チートガジェットが使用出来るARゲームと言う事で拡散されると、都合が悪い】
【チートプレイヤーがランキング嵐を行えば、それこそ芸能事務所AとJが介入してくるだろう】
【だからと言って、強引な方法が許されるはずがない。それは、過去の事例でも分かっているはずだ】
【WEB小説で拡散している我侭姫か――。あれはフィクションと言う話だろう?】
【あれだけではない、一部のARゲームを題材にした小説は――】
つぶやきサイト上ではファルコンシャドウの行為に関しては賛同出来ないという意見が大半だった。
大半と言っても5割ではなく、8割近くの人間がファルコンシャドウの行動原理に否定的である。
しかし、チートプレイヤーに対して有効な対策がなければ、自分たちで作ればいい――という理論は規制されていない。
「これじゃあ、VRゲームの時と――」
VRゲームの時のネット炎上、あの時のトラウマを再燃するような事が――起ころうとしていた。
たった一人の発言により、大炎上する事になった――。その再現がアカシックワールドでも起こる可能性を懸念する。
アークロイヤルの動揺は、そのレベルで済めば良かったのだが、彼女にとってあの事件は切っても切れないような物だった。
「アレを繰り返せば、芸能事務所AとJのコンテンツが神と言う時代が――?」
アークロイヤルは何かを閃いたような気配がした。そんな事をしている様なテンションではないのだが――何故か、思いついたのである。
それは――ジャンヌ・ダルクの目的だ。ネット上ではコンテンツハザードと言う単語も拡散しているが、いまいち把握できていない。
【まとめサイトと芸能事務所が手を組んで炎上マーケティングを展開していたのも、今は昔の時代だろう】
【その時代は終わったと思いたいが、まだ続いているかもしれない】
【WEB小説サイトでは、異世界転生や異世界転移と言ったジャンルがヒットした時代があった。しかし、それを塗り替えるように――】
【コンテンツ流通に関して疑問を投げかけるような小説が大量に投稿された事もあったが――】
【それでも、その小説が読者に受け入れられる事はなかったという話だ】
ネット上で、様々な意見が存在する。その中で、ある小説の存在がピックアップされていた。
内容の詳細は不明だが、コンテンツ流通に関する様々な問題点を――ライトノベルにした物らしい。その作者とは――。
「青空奏――」
アークロイヤルは、作者の名前を見てもパッとするような物を感じなかった。
その名前に聞き覚えがないという可能性もあるが、別の理由と言う可能性も否定できない。
「虚構の英雄ねぇ――」
フィクションの英雄が、実在する超有名アイドルよりも売れるコンテンツに出来る方法がある――作者は、そう訴えていた。
しかし、この人物はつぶやきサイトの様な物を使っていない。おそらく、ネット炎上をおそれているからだろう。
「何事も――やってみなければ、フラグも立たないと言うのに。この人物は――」
アークロイヤルは、この人物に何かを感じる事はなかった。
しかし、ジャンヌ・ダルクの一件は――コンテンツ流通に何か大きな物を起こそうとしているような感じがあった。
だからという訳ではないが――彼女は、この人物が書いた作品を1つチェックする事にする。
その一方で、その作者へ直接接触を考えている人物もいた。
小説サイトを調べても作者の住所が載っているはずはない。当然と言えば当然だろう。
「やはり――そう言う事か。管理人に問い合わせても、見つかる訳もない」
コンビニ前でタブレット端末を見ていたのは、ヴェールヌイである。
何時もの賢者を思わせるマントは周囲からすればコスプレイヤーにしか認識されていない。
それもあって、大きな騒ぎになる事無く調べ物が出来ると言うのもあるが。
草加市がARゲームやアニメ等のコンテンツで聖地巡礼を増やすと言及したのは、今回の事件よりも前の話だ。
10年以上前には埼玉県の市町村で同じような事を考え、実行した所もあるのだが――定着に関しては難しい現実もある。
彼女は、作者の住所を見つけられなかった事に落ち込む事はなかった。
命の危険性があると言うような案件ではないからだが――それでは、まるで別のアニメを思わせるような事件になるだろう。
「これに関しては焦る事はない。他の案件も整理していき、そこから――」
いつまでもコンビニの前で――と言うのも、印象を悪くするかもしれない。
場所を変えて、調べ物を続行する方向で動く事にしたが――?




