第4話『新たな敵を待つ者、削る存在』その4
午後3時、斑鳩とイカルガの違いを説明する記事も出始めた。
ネーム被りはARゲームでも日常茶飯事だが、あまりにも有名人と同じネームだとなりすましを疑われる。
こうした部分が背景にあるからこその、今回の説明かもしれない。
このサイトの説明は非常に増長であり、蛇足感があるので――簡略的にせつめいすると、こうだ。
《今回の斑鳩は、別のARゲームにエントリーしている斑鳩とは別人である》
このサイトに関しては、斑鳩本人とヴェールヌイも見ていた訳だが――。
斑鳩の方も自分の名前を別の所でも聞くと言う話を耳にしており、こういう事か――と納得したようだ。
ただし、パワードフォースのイカルガの解説はなかったと言う。意図的に記載しなかったのか、記事を書いた人物が知らなかったのかは不明。
同時刻、アークロイヤルはある情報を、タブレット端末で偶然見ていたネットニュースで知った。
まとめサイトのような信用できる可能性が薄い物ではなく、有力情報である。
アフィリエイト系のまとめブログ等であれば、もっと別な煽りパターンもあるので、そう言う書き方をしていないのが――決めてかもしれない。
【ジャンヌ・ダルクと言う人物は、アバターらしい】
つぶやきサイト経由ではないので、かなりの有力筋と言える物だった。
それに、彼女がテレポートと思わしき能力で姿を消す部分にも言及しており、自分も見覚えがあった事を踏まえて――この情報を真実と認識したのである。
「アバターと言うのであれば、あの能力の数々も――納得できるのか」
若干の疑問点は残るだろうが――彼女が指をパチンと鳴らす事で使用する能力、その数々はARゲーム特有の演出と言うには――あまりにもスケールが大きすぎた。
彼女が異世界転移や異世界から召喚された存在と言っても、信じる可能性は高い。それ程の説得力が、あの一文から読み取れるだろう。
しかし、それでも確定するには情報が足りない。アバターだと仮定して、それに類似した能力を持ったプレイヤーと言う可能性だってある。
ARゲームで使用される違法アプリやチートには、常人には扱えないようなパワーを容易にコントロールできるような部類まであると言う。
まだ――確定させるには、ピースが足りないのか?
午後3時10分、アークロイヤルがコンビニに立ち寄って何かを買おうと考えて移動中の矢先、何かの違和感を――周囲の状況を踏まえて持っていた。
ARゲームのフィールドが展開されれば、ARガジェットにも通知が入るので――不意打ちや奇襲等では使えない。
そんな事をしたとして、本当の意味で倒したとは認められない。
卑怯な手で勝利を得たとしても、ARゲームではネット炎上の標的にされるのは、過去の事例でも分かりきっている。
アークロイヤルは、そう言った事情を知らないで――何者かの乱入と言う可能性を疑う。
しばらくして、ARガジェットにメッセージが入ったので勘違いをしたのは明白だが。
「危ないねぇ……ARゲームで暴力事件はご法度って、ガイドラインを見ていないのか?」
コンビニからは50メートルほど離れた歩道、そこでアークロイヤルはある人物に向けてARウェポンを向けていた。
ハンドガンの類ではなく、突きつけたのはビームエッジという刃の部分にビームが展開される特殊なブレード――。
その長さは50センチと言う事もあり、一歩間違えれば銃刀法違反で捕まりかねないだろう。
「明らかにARゲームを起動しておいて――あなたは何者なの!?」
アークロイヤルがビームエッジを突きつけた男性は、身長170ちょっと、眼鏡にジーパン、半そでのワイシャツ――黒髪のショートヘアと言う見覚えのある人物だった。
しかし、このタイミングではアークロイヤルも全く気付いていない。どうやら、我を忘れてビームエッジを展開したようだ。ある意味で突発的な反応と言えるかもしれないだろう。
本来であれば、ARウェポンはARゲームフィールド以外で展開する事は不可能であり、一般人にも認識する事は出来ない。
特殊なARを見る事が出来るアプリ等を使わないと、アークロイヤルが拳を男性に向けて突きつけているようにしか見えないだろう。
「ARゲームを起動したのは、別の人間だろう? それ位、ガジェットのインフォメーションを見れば一目瞭然じゃないのか?」
彼はアークロイヤルのビームエッジを恐れもしていない。どうやら、彼には見えていないようにも思える。
ARウェポン自体には殺傷能力は一切ないので、それを使用してテロ事件を起こそうと言うのは――よっぽどの愚か者しかいないだろう。
「それに、君はARゲームの真実を――」
しばらくすると、彼の姿はすっかり消えていた。
何かを去り際に言ったような気がするが、アークロイヤルの精神状態では中身を覚えていないだろう。
ARフィールドの方も解除されたので、ビームエッジを杖代わりにする事も出来ずに消滅したが――先ほどの現象は何だったのか?
「あの人物って――まさか!?」
アークロイヤルは、今のタイミングになって思い出した。
真戯武装パワードフォースの登場人物の一人、レーヴァテイン――それが彼の名前である。
生命をもてあそぶような戦争屋が大嫌いで、その為ならば憎まれ役を買って出る事も――と言う人物だった。
しかし、そう言った印象が彼の言動からは確認する事は出来ず――と言うよりも、外見イメージだけでレーヴァテインと認識する。
その一方で、彼もジャンヌ・ダルクと同じようにアバターなのではないか、と考えた。
証拠として――レーヴァテインを演じていた俳優は、現在活動休止をしているからである。