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1話 「異世界転送には気をつけろ」

 なんで、何度頬をつねっても目覚めないんだよ俺は…

 ここは夢の中じゃないのかよ?


 雲一つない晴天の下で彼は今日何度目か分からない溜め息をついていた。

「どうしよう…マジでどうしよう…」

ただただ譫言(うわごと)のようにこの言葉を繰り返している。


 スーツ姿の彼はトボトボと数メートル歩き立ち止まると、肩を落としその場に座り込んだ。

 彼は自分の腕時計を見て、無事に動いていることを確認した。

 太陽の位置を見ても、時間も恐らくは正確だろう。

 そうなると、この世界に来てまだ三十分しか経っていないことになる。

 また、大きな溜め息をついて一言。


「やっぱり異世界に飛ばされてしまったらしい…」


ーーー


 彼、御子柴翔流(みこしば かける)は、東京のとある商社に勤める二十三歳だ。

 勿論(もちろん)、独身で、彼女もいない。

 

 唯一の人に語れる趣味は剣道だけだが、その腕は確かで、段位は七段(最高位が八段)であるため、その辺の剣道経験者よりは遥かに強い。

 他の趣味といえば、ネットサーフィン、ゲーム、漫画、アニメ鑑賞、フィギュア収集という、見事なオタクである。

 しかし、割とイケメンな顔のおかげなのか、若干筋肉質のスポーツマン体型のおかげなのか、今までオタクであると疑われたことがない。

 

 勉学に関しては『中の上』か、『上の下』。

 学生の頃、『女子にモテるかも』という不純な理由で勉強を始めたフランス語と英語は読み書き、会話の全てが完璧である。

 

 ところで、なぜカケルがこんなに悲観しっぱなしなのか、理由は簡単だ、彼は一瞬で東京からこの世界へと転送されたのである。

 

 カケルは既にキャパオーバーを起こしている脳をフル回転させて、転送される前の出来事を思い出している。

 

 今日はお得意様との会合が終わって会社に帰ったら、先輩達から昼食の買出しを頼まれコンビニへ直行、自分の分も買うつもりだったので何を買うかを考えながら入店。

 中に入って(まばた)きを一回したらこの世界へと連れてこられた。

 

 思い出しても洒落(しゃれ)にならない、神隠しの可能性だってある。

 とりあえず、不幸中の幸いとでも言うべきか、持っていた小さなカバンに割とまともな物が入っていたので確認していく。

 

 財布(所持金二万三千円)、スマホ(充電満タン)、ギャ〇ツビー、飴、ガム、お茶である。


 まずはダメ元でスマホを起動させてみたが、当然の(ごと)圏外(けんがい)

 予想してたとはいえ、早速希望の一つが()ち切られ、心が折れそうになる。

 しかし、今はそれ以上に確かめたいことがあった。


「あ、あのー」


 一人の女性に話しかけた。

 彼女は不思議そうにこちらを見ている。


「お、俺の言葉が分かりますか?」


 そう、カケルが確かめたかったのは対応言語だ。

 言葉が通じないと、相手の意思や指示がわからずに何かをやらかしBADEND(バッドエンド)!みたいな感じになりかねない。


 ラノベの主人公達はなぜ異世界に行っても何の疑いもなく言葉が通じると思い込んでいるのか、(はなは)だ疑問である。

カケルがそんな事を考えている間にその女性は彼の質問に答える。


「ええ、分かるわよ、どうかしたの?」


「いえ、何でもないです、ありがとうございます」


 言葉が通じると分かった時点で、この世界に来て初の安心感に包まれる。

 上を見上げたら目に入る看板に書かれている文字は…いくらか(かす)れて読めないが、おそらく英語だろう。

 割と、言語に関しては自分に都合の良い世界のようだ。


 道も一応は舗装されているし、建物を見る感じ中世のヨーロッパ的な感じだろうか…

 使ってる貨幣も金貨、銀貨みたいなやつだったし。

 なんとまあ、『ザ・異世界』みたいな所に飛んできたもんだ。


……ただ何故だろうか、全然みんな外国人ぽくない。

 確かに、髪の色はみんなカラフルだし、目の色も綺麗(きれい)だ。

 言葉が通じるという安心からだろうか、違和感(いわかん)を全く感じない。

 それでも、違う世界の人達なんだよな…


 それはさておき、今の状態を確認してみると、この世界の貨幣無し、食べ物はごくわずか、何かツテがあるわけもなし。

……詰んだな。


 なんかこう、全てをひっくり返すような出来事がないと…

 カケルがそんな事をかんがえていると、突然後ろから声が聞こえた。


「すみません」


 声からして女の子だろう、カケルは心臓が飛び出しそうな程びっくりしたが、それを表情や声色(こわいろ)には出さずに振り返る。


「なんですか?」


 振り返るとそこには黄髪(おうはつ)ショートの可愛らしい女の子がカケルの後ろに立っていた。

 身長は一六五センチくらいだろうか、女の子にしては少し高めだ。


 よく見て気がついたが、この娘の目は濃い赤色をしている、まるで宝石(ルビー)みたいだなんて思っていると、彼女がさらに近づいてこう言った。


貴方(あなた)はこの世界の存在ではないとお見受けします」


「へ?」


 カケルは驚きのあまり変な声を出してしまった。


「ど、どうしてそれを…?」


「それは全てまた後で説明いたします」


「御子柴翔流様」


 教えてもないのに自分の名前を知っている彼女に驚きを覚える。

 なんでこの()、俺の名前を知って…


諸事情(しょじじょう)により貴方を保護させていただきます。」


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