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昨日、世界が滅亡しました。  作者: 伯灼ろこ
第三章 男女別居制の真の目的
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1.安らぎの時間

【登場人物まとめ】

■一色律

(18歳/女/奏の姉/第5階級“平民”)

■一色奏

(17歳/男/律の弟/第5階級“平民”)

■果月ミライ

(19歳/男/銀行強盗/第5階級“平民”)

■富士原朝匕

(15歳/女/悠匕の姉、光代の孫/第5階級“平民”)

■堂沢

(28歳/男/デブの遊郭狂い/第5階級“平民”)

■霧島茜

(31歳/女/“エデンの園”幹部/第2階級“支配人”)

■尾張都嵩

(?歳/男/エデン教、教祖/第1階級“族長”)


 時刻は0時を回っている。ビル内をうろつく平民たちの数が僅かな中、12階と13階を繋ぐ階段の中央から男女の話し声が聞こえる。しかし声量を可能な限り抑えており、よほど接近しない限りは呼吸音すら聞き取れない。

「奏、いつも20階の食堂を使ってるの?」

「そうだけど。部屋から近いし。それがどうしたの」

「そっかー。私はいつも10階なの。部屋から近いから。でも、たまには20階へ行ってみようかな……階段大変だけど」

「やめとけって」

「どうして? 労働にはもう慣れたし、体力もついたわよ!」

「いや、僕らが処刑される危険性が高まるからやめろって話」

「え、えー??」

「律が20階へ来ちゃったら、きっと僕はその姿に釘付けになる。律と目が合うまで気付かないほどに。するとどうなる? 目ざとい監視人が背後から僕を羽交い締めにして処刑場へ連行、その後、律も同じ目に遭う」

 奏という少年が自慢げに語る内容に、律という少女がいつものように調子を合わせる。

「はいはい、そーですか。奏くんはそんなに私に見惚れちゃいますか。じゃあとても危険ですね!」

「うん。牧場にいるときも気がついたら律の姿を探してるし、ほんと、危ない。無意識なんだよね、これが」

「あはは、お姉ちゃんのこと好きすぎでしょー」

「はは、好きだなぁ」

 それは、今まで無自覚であった感情を認識した告白だった。それでも本当の意味はまだ扉の向こうで、同じく無自覚である律と共に“仲良し姉弟”であることに満足していた。

「でも、本当に気をつけないと。律、僕らが“エデンの園”へ来てから、一体何人が処刑されたか……知ってる?」

「……知ってるわ。初日に有咲さんのお父さんが処刑されたのを含めて、63人……でしょ。ほぼ1日に4人ペースよ。全く、順調だこと」

「それでもエデン族の数は減らない。毎日毎日、“エデンの園”の門を叩く人間が後を絶たないから。――ラジオの呼びかけに騙されてね」

 しかし、逆を言えば日本には運命の日を乗り越え生存していた人がそれだけ多かったということだ。

「まるで処刑をしたがってるみたいよね。不気味」

 知らず知らず身体を震わせる律の肩に手を回して抱き寄せ、奏は言う。

「もう少し、待ってて。処刑の日々に怯えないで済むよう――なんとかするから」

 力強い言葉だが、それゆえに律は不安になる。しかし奏はそうとは気付かず、ただひたすらに姉を励まし続けるのだ。

「ミライと悠匕は……元気?」

「元気だよ。ミライは少しづつ馬鹿っぽさを取り戻してるし、悠匕に至っては……あれは心配する必要が無い。まだ小さいからかな。適応能力がハンパじゃないんだ」

「ふふふ、それは安心」

「朝匕は?」

 その名を出すと、律の表情に影が落ちる。奏は嫌な予感を察知し、問い続ける。

「まさか、自殺……とか、しそうな雰囲気なの」

「それは無い……と、思う。毎日、お仕事頑張ってるみたいだから」

「そう……。まぁ、こんなこと言ったらなんだけど、“エデンの園”内に朝匕の親族がいて良かった。朝匕が自殺しても、飛ばっちりを受けるのは律じゃないから」

「そーね。お姉ちゃん好きの奏を悲しませないで済むぶんには、不安はないわ。けどそっちは、ミライを自殺ないし脱走させないよう気をつけてよ! とくに後者! ミライならやりかねないから!」

「うん、肝に銘じておく」

 別れ際、肩から離れた奏の手を律は掴む。爪、指、平、手首――それらを名残惜しげになぞり、ゆっくりと放した。まだ行かないでと、訴えたいワガママを精一杯に堪えて。

 暗い廊下を歩き、部屋へ戻る。1209号室の扉を開くと、薄っぺらい布団の上で朝匕が苦しげに悶えていた。

「朝匕?!」

 お腹が痛い。朝匕は訴えた。律は廊下にいる監視人を呼び、医師を呼んでくれるよう頼んだ。嫌な顔をされたのは言うまでもない。1時間後の検査結果では、身体を冷やしすぎであると注意を受けた。

 さほど寒くはない部屋の中。律は自身の掛け布団を朝匕に貸し、自らは猫のように丸まって寝た。


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