こんな、婚約破棄も。
ファンタジー全開、異世界転生ものです。
夏休みらしく遊んでみました。
「クリシュナ・ククリナ!貴様との婚約を破棄する!」
「あらそう?」
「それだけではないぞ悪魔め!
貴様のフィナに対する所業の数々、もはや許しがたい!ただの嫌がらせに収まらず、とうとう命までとろうとするとはな!」
「は?見に覚えのない話なんですけど?」
「そうか、あくまでシラをきるのだな……わかった、もう温情は捨てよう。
本日今この瞬間に、王族特権でクリシュナ・ククリナの貴族としての地位を剥奪!貴様を平民とする!
そして、男爵令嬢に対する殺人未遂で逮捕する!
断頭台でおのが罪を知れ、クリシュナ!」
「……はぁ?」
ありゃ、そうきたかと思った。
油断があったのは認める。
立場にあぐらをかいていたし、人の善意を信じすぎていたのも事実。自分磨きの努力を怠ったつもりもなかったけど、彼の気持ちを捕まえておく努力は怠っていたと思う。
だから、確かにこれは自業自得。
でもねえ。
婚約破棄までならともかく、一気に平民まで落とされたうえに貴族に対する殺人未遂の罪を着せられる合わせ技とは。
うん、これは想定外だった。
いや、要するに。
私をきっちり合法的に殺害するために、王子様に王族の強権を使わせたって事なのね。
男爵令嬢が侯爵令嬢を殺す事はできない。
だけど平民ならば簡単。貴族を殺し損ねたって、でっちあげるだけで合法的に首をはねられると。
「あらあら」
兵士が大量に集まってきたわ。
どうやら完全無欠にやるつもりなのね。
ま、そうよね。国王陛下が災害対応の視察に出ている、今この時が最大のチャンスだもの。
でもいいわ。
そういう事なら……もういい。わたしも覚悟を決めた。
自分の大失敗を受け入れましょう。
……そんでもって、自重はもうやめだ。
「ま、そういう事ならわかったわ。私の方も言うべき事は言わせてもらいましょうか?」
もう、令嬢じみた物言いもいらない。これからの私には無用のものだ。
「このクリシュナ・ククリナに無実の罪を着せ、冤罪で殺害をはかる。その絵を誰が描いたのかは知らないしもう興味もないわ。実際、どうせ死んでしまうのだから同じ事だしね」
この者たちは、それを私の刑死と受け取るのでしょうね。
でも残念、これは「おまえたちはいずれ皆殺しにする」って意味。
まぁ、今は言わないけどね。
「でも王子様、この事態を操っているのはあなたではないわね。そもそも、あなたは単に操られているだけのただのお人形。黒幕は別にいるって事だものね」
「……なんだと?」
「何を怒ってるの?だってそうじゃない。
ま、いいわ。こちとら、今さらどうでもいい男にわざわざ塩を送る趣味もないしね」
ためいきをついた。
次期国王だというのに、その手に持っている書類の印璽が偽物かどうかもわからないなんてね。私がここから見てもわかるっていうのに。
それに、彼にそんなものを手配するコネもないし、勅命をでっちあげる度胸もあるわけがない。という事は、背後から彼を操っているヤツがいるって事よね?
ま。
それこそ、既に目の前の王子様により平民に落とされ、殺される身の私には実にどうでもいい事なのだけどね。
「さて、そんじゃ失礼させてもらうわ。平民になった以上、もはや貴族の義務もない。だったら、この国にとどまらねばならない理由もないものね。ふふふ、そこだけは感謝しとくわ、王子サマ?」
そう、わざわざバカにしたように笑うと私は、踵を返して歩き出した。
そんな私を捕縛しようと兵士が向かってきたのだけど。
「むっ!」
するり、と私はその者の脇をすり抜けた。
他にも何人もの兵士が向かってくるのだけど、すり抜けていく私を捕まえる事などできない。私はただ、笑いながら進んでいくだけ。
貴族でなくされ、無実の罪とはいえ死刑を言い渡された以上、この国は私の敵だ。もはや自重などしないからね。
あんたたちには、私を捕まえられないよ。
……そうね、一言だけ言っておこう。
「ああそうそう、王子様?」
にっこり笑って、大事な事だけ伝えておく。
「私を平民に落とした事、そして死罪を宣告した事は、きちんとお父様、いえククリナ侯爵と、国王陛下にご報告してくださいね、ご自分で。私が、こうやって宣言して出て行った事も含めて。
私、はっきりと敵対表明をしたおバカなガキの尻拭いをするほどお人好しではありませんのよ?」
「あ、ああ」
なんだか知らないが、彼は間抜け顔で返事をした。
だけど、それもまたどうでもいい。
私は肩をすくめ、そのまま立ち去った。
……で、終わるかと思ったんだけど終わらなかった。
姿を変えてのんびりと旅をはじめていた私の耳に、こんな話が入ってきたんだよね。
『国王陛下、急病にて急逝。新国王に第一王子のコレナ様が緊急即位』
まさか。
『コレナ新国王陛下、正式に婚約発表。お相手はフィナ・クレスタ男爵令嬢。
身分が違いすぎる事、王妃教育を全く受けていない事から城内には疑問視の声もあり』
『コレナ新国王陛下、旧国王配下の者たちを公開処刑。罪状はフィナ・クレスタ男爵令嬢を罵倒し、危害を加えようとした事』
『クリシュナ元ククリナ侯爵令嬢を緊急指名手配。罪状は国家反逆罪』
あのバカ、国王陛下を殺して自分が成り代わったの!?
あー、いやまぁ……普通に「ざまあ」展開を予想してた私もバカだったんだけどさ。
どうやらあのバカっぷりも変わっていないらしくて、城の仕事をやめる人が続出、バカ王子……いえ今はバカ王か。バカ王は辞職者に兵を送り、強制的に城に呼び戻しているとか。それで死者も出ているが、王命に逆らうのが悪いと相手にもしていないらしい。
最悪……。
そういやククリナ家は、お父様たちはどうなったのかしら?
調べてみたところ、ククリナ家は私が立ち去った話を聞き、すぐ出奔したらしい。
ああよかった。
元々ククリナ家は領地も辺境だしね。私が結婚すれば中央の領地に強制移動になる話もあったけど、こうなってしまえばその田舎者なところが逆に救いだ。
おりしも長期休暇で、お妃教育を受けていた私以外で王都にいたのは、お父様とその側近だけ。私つきの侍女は元々お父様直属の女騎士だったから、あの後すぐにお父様に合流したでしょう。
とはいえ。
ここまで真正面から人をバカにしてくれるなら、こっちも本気で相手してやろうじゃないの。
ええ。
こうなったらもう、全力でさ。
二日後の事。王都でパレードが開かれた。
パレードといっても、それはちょっぴり物々しく、そして空々しいものだった。本当に浮かれていて楽しげなのは新国王陛下と、その横でベタベタと下品に侍っている元男爵令嬢くらいのもので、街道で旗をふっている民衆たちは、何か「やらなきゃ殺される」的な感じで国王の馬車が来ている時だけ必死に振り、叫んでる。
ははは……これはひどいね、ほんと。
私はそれを、王都の外周にある城壁の上から見ていた。
え?そんな遠くからどうして細かいとこまで見えるかって?
そりゃ、フルカンストした鷹の目使ったって無理ですよ。
これは弓系の最終職『弓聖』のさらに究極スキルのひとつ『神の目』を使ってるんだもの。
弓をかまえた。
その昔、何万回となく使って手に馴染みまくっていたこの弓、今生でもすぐ慣れた。いやむしろ弓の方に「待ってたよ」と呼ばれたような気すらもした。もしかしたら本当に待ってたのかもしれない。
『神の目』で目標を再び捕らえる。
「さぁて、そんじゃ……っ!」
矢を放った。
スキル『天まで届く一撃』により、ほとんど放物線を描く事なく矢はまっすぐに飛んで行く。そしてそのまま、吸い込まれるように走ってくる馬車に飛び込んで。
「よし」
目標命中。
ありゃ、バカ男……もしかして首から上が吹っ飛んだ?
あーそっか、そりゃそうよね。
まぁ、本来ならレイドボスとかにぶち込む攻撃だもんねえ。村人と大差ないあのバカじゃそうなるか。
あっはははは、クソ女が絶叫あげてるわ。
でも、叫ぶだけなのがまぁ、らしいっちゃらしいかな。
要するにビビっただけ。旦那を愛していたわけじゃないのよね。
ま、そりゃそうでしょ。
彼女は転生者。
彼女にとりこの世界は、たぶん生前見た恋愛ドラマの舞台。で、彼は単に攻略対象だったんだろうから。
でも残念。
フィナちゃん、あんたが知ってるのはメディア展開されたもので、オリジナルじゃないのだよ。
そんで。
この世界はね、原作であるVRMMOの方に準拠してるんだよ。おバカさん。
え?なんで知ってるかって?
そりゃあ私はその、VRMMOの方の元プレイヤーだからだ。
そもそもねえ、女で「クリシュナ」はないでしょ。インドの人に怒られるよ。
これねえ。
当時、中二病が治ってなかった私がつけたプレイヤー名そのままなんだよ。
でもま、そのおかげで記憶が戻ったんだけどね。
「さて、帰りますか」
隠密は解いていない。プレイヤーならともかく、ここの見張りには気づかれない。
そして、私の仕事はこれで終わり。
え、女の方はどうするのって?
あの女に国は動かせない。そんなのは、かりにも侯爵令嬢として、未来の王妃として教育を受けた私にもわかることだ。
そして、バカ王が使えそうなメンツを処刑しちゃって、城に残っている者の多くはイエスマンでしかない。
つまり、地獄はこれから。
最終的にこの国が他国に占領されるか、民衆の革命で終わるかは知らない。
でもどちらにしろ、あの女は怒った民衆の前に引きずり出され、あらゆる辱めの上で殺されるでしょう。
うん、その方が末路としてはお似合いでしょ。
え、私はどうするのって?
せっかく自由になったんだし、まずは元プレイヤーの仲間を探してみるよ。
ギルドホームがまだ残ってて、調べてみたら書き置きがたくさんあった。古いものばかりだけど、どうやらパーティーメンバーはみんな転生してるっぽい。時代がズレてるから、生き残ってるのは竜族とかエルフの子くらいだと思うけど。
そして、世の中が落ち着いたら、お父様とお母様にも、おうちの皆さんにも謝りにいきたい。私のせいで迷惑かけたから。
さて、いきますか。
私は空を見上げた。
そこにはゲーム時代と変わらない、この世界の青い空があった。
(おわり)
婚約破棄・ゲームもの編です。
ちなみにクリシュナ嬢のスペックは以下の通り。
『クリシュナ』※転生者: ユウコ・ハセガワ
【職業履歴】弓聖 Lv.99、暗殺者 Lv.99、ウイザード Lv.81、魔物使い Lv.41
強さ:人類領域外(超越者等級S9)
防御:人類領域外(超越者等級S9)
速さ:人類領域外(超越者等級S9)
体力:人類領域外(超越者等級S9)
幸運:62
【スキル】
隠密行動Lv.10
看破Lv.10
幻惑魔道士Lv.10
幻惑耐性Lv.10
風渡の守護Lv.10
毒耐性Lv.10
耐炎Lv.10
耐水Lv.10
耐風Lv.10
耐土Lv.10
耐光Lv.10
耐闇Lv.10
耐重力Lv.10
鍛冶Lv.10
調薬Lv.10
錬金Lv.10
水中呼吸Lv.4
モンスターハートLv.2 (2/2)
【称号】
異世界の魂、超越者、狩猟神に愛されし者、獣の姫、影の戦士
【称号説明】
異世界の魂: 異世界から転生してきた者を意味する。あらゆるスキルの学習速度が飛躍的にあがる。
超越者: かつてプレイヤーと呼ばれた者たちの系譜で、神にも及ぶほどの力もつ存在。
狩猟神に愛されし者: 神または亜神を弓で射殺した者。
獣の姫: あらゆる獣は敵にならないが、理性を失うと半獣化する事がある。
影の戦士: 暗殺者と弓聖のカンストにより生じた称号。自分より弱いものに発見される事がない。
【所有武器】
吸血弓: 同族を射殺すると、相手の生命力を吸い上げる事がある呪いの弓。